第33話

しかし、


「あ、いや。そうじゃなくて。俺はもちろんありがたい、だけど茅野さんが大変かなって思ったから。本当にそうしてくれるなら俺は嬉しいよ。」



「じゃあ…」



「でも、受験生だろ?大丈夫か?」



「料理は勉強の息抜きにもなります。」



お互いに気を遣っている部分はあるけれど、ちゃんとした正直な気持ちの会話が冷静にできているのは良いことかも。


少し悩んだ末に、


「…じゃあ、お願いするよ。」


少しだけ眉を垂れ下げた九条さんが私の提案にのってくれた。



これでリビングの一件が全てチャラになるわけではないけど、少なからず返していこうという前向きな気持ちはあるつもりで…



下げていた目線を、再び九条さんに向けると、



「茅野さん、何か思ったより素直で良い子なんだな、安心したわ。」



「…はい?」


思わず目を見開いた。



「どういう…?」


「もっと性格キツイのかと思ったからさ。」



第一印象ではたまに言われるかも…



でも、それ、今言っちゃいます?


なぜだか、頭が真っ白になるような感覚。


戸惑いを隠せず、言葉も出てこない。



だけど、そんな私にはおかまいなし。



「ま、なんにせよ、改めてよろしくな、千沙。」


そう言った九条さんは、私の頭をクシャッと撫でるとそのまま自分の部屋へと戻って行った。



な……!



な…



何、今の…




自分の顔が火照るように熱い。



心臓が大きく跳ね出す。



今、こんなに動揺しているのは…


おかしなことを言われたから…?



それとも、


触れられたことに対してなのか、それとも名前を呼ばれたことに対してなのか…



よくわからない。


あるいは両方…?



それでも私はあの同居人に、良い意味でも悪い意味でもすごくすごく振り回される様な気がしてならないんだけど…



それは今は考えないでおこう…

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