第2話

ガヤガヤと人が行き交う空港のロビー。



「何かあったらすぐに連絡してね。絶対だぞ?何時でも良いからとにかく…」



「もー、それ何回目なの?わかってるから大丈夫。」



「戸締まりもしっかりして、ご飯も三食しっかり…」



「あー、ほらもう時間やばいから!」



誕生日プレゼントにもらった腕時計を指さしながら、あからさまに急かす素振りを見せる私を見て、父は大きなため息。



そしてすぐさまギュッと私を抱きしめると、


「行ってきます。」


名残惜しそうに、涙声ながらも力強く。



「行ってらっしゃい。」



何度もこちらを振り返りながら搭乗ゲートをくぐった父に軽く手を振る。


もうどっちが子供なんだか…




行き先はニューヨーク。


父が今日、アメリカに旅立った。



と、言うと少しだけ大げさに聞こえるけれど。


大手の企業に勤める父はこの4月からニューヨーク支社へと転勤になった。





茅野千沙かやのちさ


この春から高校3年生。


父子家庭、一人っ子。


母は私が小学生になってすぐ、交通事故で他界した。


そのせいか、父の私に対する愛情は2人分。


おかげで”過保護”と言っても過言ではないくらい。



今回の転勤だって、私を1人日本に置いていけない、ついて来てくれと何度も何度もお願いされた。


だけど、私も高校3年生。


今の高校にだって必死に勉強して入ったし、今だって第一志望の大学を目指して毎日勉強に励んでいる。



父の落ち込んだ顔は本当に心苦しかったけれど、どうしてもアメリカ行きを決断できずに私は無理を言って、日本に1人残ることを許してもらった。

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