Hymarion

クロ

第1話

日印合同ミッションLUPEXが月面の水資源を発見してから3年。


探査機が齎したデータは驚異的で、月の極地には想像をはるかに超える水が埋蔵されており、これを利用した資源開発が現実的であることが証明された。


宇宙産業は一変した。


月面での燃料製造や居住地建設が現実味を帯び、各国や企業が次々と参入を発表。かつてのAI革命に続く新たな経済ムーブメントとして、宇宙開発の熱は急速に高まっていった。


そして、火星植民計画も新たなフロンティアとして注目されるようになり、人々の関心は地球を超えて広がり続けていた。


時は2028年、ある冬の深夜、JAXA筑波宇宙センターの管制室は静寂に包まれていた。


HTV-X補給機がH3ロケットで無事に宇宙へ打ち上げられ、ISSへと自動航行中だった。


時刻は午前2時、機体はISSの最終接近コースに入りつつあり、姿勢調整が行われている。管制室のメインスクリーンには航行データがリアルタイムで表示され、緊張と期待が入り混じった空気が漂っていた。


だが、その時だった。航行データが突如途絶え、スクリーンに赤い警告ランプが点灯し、管制室内にブザー音が響き渡った。


「通信途絶を確認!」


誰もが一瞬、息を飲んでスクリーンに注目する。管制官がすかさず指示を飛ばした。


「再接続を試みろ!周波数の調整を急げ!」


「ISSとの接続確認も取れません。異常信号が検知されています!」


管制官たちは慌ただしく手を動かし、情報解析チームも過去ログの解析に取り掛かった。


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深夜の静けさに包まれた一軒家の寝室、拓海はベッドの上でスマホを見つめていた。


画面には「H3ロケット、ISSへの補給ミッション成功か?」というニュース記事が映し出されている。地球の青い色と浮かぶ白い雲を背景に、宇宙に向かって打ち上がるH3ロケットの写真に彼は目を奪われた。


「すごいな……」


ふとつぶやき、拓海はスマホを横に置き、窓の外を見上げた。


静かな夜空には無数の星が瞬き、ISSや月がその先にあると思うと胸が熱くなる。


自分もいつか、あの広大な宇宙へ飛び出していけるだろうか。


月面での水資源、火星への植民計画、そして宇宙を目指す数々のニュース、すべてが心を引き寄せてやまなかった。


窓越しに手を伸ばすと、手のひらの先には果てしない宇宙が広がっている。


そっと息を吐き、星空を見つめ続けた。


胸の中で、宇宙への憧れが、静かに確かなものへと変わり始めていた。

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Hymarion クロ @kuro_h13

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