ゲーム転生『異世界ハーレム奇譚』~エロゲー知識で異世界無双、攻略対象とハーレムを~

空色凪

第1話 異世界転生とエルル攻略

 俺の好きな異世界ファンタジーエロゲーの『異世界ハーレム奇譚』は攻略対象の多さで有名だった。町娘から王女、エルフの姫から賢者、さらには魔王から女神まで。


 ゲームのコンセプトはこうだ。異世界を旅しながら攻略対象の女を仲間にしていく。最大7名まで共にすることが出来る。7名を超えた際の攻略対象は現地妻として登録することが出来る。


 一応は魔王を討伐するというゲーム内のゴールがあったが、『異世界ハーレム奇譚』の廃ゲーマーだった俺はもちろん全攻略対象を落とすのを目的にプレーしていた。


 そして、今日、最後の一人、いや一柱の転生神イムルを攻略しついに落とす瞬間が来た。俺はこの世界で最も神聖な神殿ナノミスハインに現れた女神イムルに向かって愛を語る。


「おお、女神イムルよ、なんとあなたは気高い。なんとあなたは美しい。私はあなた様をお慕いしています」

「あなたは76人の乙女を見事落としました。そして77人目が私ということですね」

「はい。あなた様への愛をどうかお受け取りください」

「分かったわ。でも、あなたには先ずこちらの世界に来てもらうことにしましょう。そしてゼロから旅を始めるのです。もし再び76人の乙女を落とすことができれば、その時、真の愛を私と分かち合いましょう」

「真の愛?」

「ええ。あなたには攻略者としてこの世界に来てもらいます。転生神イムルの名において命じます。ルーカスよ、世界を改変せよ」


 そう言われると俺はゲームの画面に吸い込まれた。


 名前:ルーカス

 年齢:17歳

 種族:ヒューマン

 性:男


「あなたの冒険に幸の多からんことを」


 その声を聞いた瞬間俺は目覚めた。

 ここは?

 部屋を見渡す。ここは宿屋の一室のようだ。だが、俺は状況をいまいち理解できない。さっきまで自分の部屋でゲーム『異世界ハーレム奇譚』をプレーしてたのに、なんで知らない部屋に飛ばされたのか。


 最後の記憶を辿る。


 女神イムルが俺を異世界に召喚したのか?


 俺は部屋の窓を開けて外の世界を見た。間違いない。ゲームでの始まりの町ファーステストだった。俺は部屋を出て、下の階に向かった。


「ルーカス。朝ごはん出来ていますよ?」


 そこに居たのは宿屋の娘エルル(攻略対象)だった。赤毛のセミロングのエルルは俺の方を伺い首を傾げる。俺は恐る恐る彼女に問いかける。


「ここはファーステストで間違いないか?」

「はい、そうですよ。どうかしましたか?」

「いや、問題ない」


 俺は内心歓喜していた。俺の夢見たゲーム転生! しかも俺の大好きな『異世界ハーレム奇譚』の世界に転生したのだ!


 なんたる歓喜!

 俺は嬉しさのあまりガッツポーズをした。


 それはそれとして、町娘エルルは攻略対象なんだよな。冒険に憧れてる主人公の幼なじみという設定のキャラクターだ。一番攻略難易度の低いチュートリアル的なキャラクターである。攻略難易度はD、C、B、A、S、SS、SSSまでの7段階ある。エルルちゃんの攻略難易度はDだ。


「今日もモンスター退治?」


 席に座った俺に朝食を運んでくれるエルル嬢。エルルは俺に問いかける。


「そのつもりだ」

「気をつけてね」

「ありがとう」


 俺は朝食を食べながらステータスと念じてみた。すると脳裏にステータスが浮かび上がった。


 名前:ルーカス

 年齢:17歳

 種族:ヒューマン

 性:男

 職業:ノービス

 レベル:9

 スキル:『ハーレムの王』『ノービスの一撃』



 ステータスを確認するとレベル9だった。ゲームではレベル1から始まるからこの異世界に来て仕様が変わったのだろう。


 現に、俺にはルーカスとして過ごした17年間の記憶がある。幼なじみのエルルと幼き日に将来一緒に旅に出ようと約束したのもいい思い出だ。


 だから俺はめっちゃ美味かった朝食を食べ終わるとエルルに聞いた。


「俺はもう少ししたら冒険に出かけるつもりだ。エルル、良かったらお前も来ないか?」

「え、いいの? 私足手まといだよ」

「そんなことはない。エルルのジョブ、料理人は確かに冒険には向かないかもしれない。でも、俺がついてる。だから俺を頼れ! 旅立ちは来週にする。それまでに結論を出してくれ」

「うん、分かった……」


 俺はエルルを冒険に連れていくつもりだった。料理人のエルルは確かに戦闘には向かないかもしれない。しかし現実世界となったこの世界で冒険することを考えて欲しい。美味しい料理を食べられる冒険の方がいいに決まっている。


 エルルは十中八九ついてくる。ゲームではエルルを冒険に誘うことがエルル攻略の第一条件なのだ。エルルには後衛をやってもらうつもりだ。ポーションなどのアイテムを適宜使ってもらう役回りだ。


 俺はエルルのことは一旦忘れて、街の外へモンスター退治に出かけるのだった。



 街の外に出るとモンスターが現れる。俺は角の生えたウサギと対峙していた。


「ホーンラビットね」


 インベントリから粗末な剣を取り出してホーンラビットに向かって駆ける。ホーンラビットは前足で土を掻いて突進してくる。俺はその足元に剣を振るう。


 ホーンラビットの前足の一本を切り落とした。痛みで暴れ回るが、なんとか取り押さえる。


「よし、これで」


 俺は剣をホーンラビットの首に突き立てた。ホーンラビットは光の粒子となって消えた。残ったのは石ころ大の魔石とホーンラビットの角と皮だった。


「ふう」


 俺は一息つくとステータスを確認する。


『レベルが10になりました』


 お、レベルが上がった。余裕だったな。次はもっと街から離れてみよう。


 ホーンラビットを探しながら進む。すると、別のモンスターがいた。


「今度はオークか」


 ゴブリンより少し背が高く、筋肉の発達した豚顔のモンスターだ。手には棍棒を持っていた。俺の姿を見ると吠えながら走ってきた。


「ブモオオオ!」


 俺は剣を構えるが、オークは棍棒を振り下ろしてきた。咄嗟に剣で受ける。重い衝撃が手に伝わり、体が少し下がる。


「このっ」


 俺は力を込めて棍棒を弾くと、オークの腹に向かって剣を振った。スキル『ノービスの一撃』の剣がオークの腹に突き刺さる。


「ブモオオ!?」


 オークは叫びながら棍棒を振り回して暴れ回る。俺は距離を取りながら剣を振り続ける。


 しばらくするとオークの動きが止まった。光の粒子となって消えた。


「ふう、やっと倒せたか」


『レベルが12になりました』


 お、レベルが一気に2も上がったな。この調子で狩りを続けるか。


 俺はそのまま狩りを続けた。レベルが上がるにつれ、モンスターも強くなっていくが問題なく倒せる。


 日が暮れてきたので街に戻ることにした。途中、何度かホーンラビットを倒した。


 ギルドに帰ってきた俺は受付に行って魔石とドロップアイテムを提出する。


「お疲れ様です。ホーンラビットの角が7本に皮が6枚ですね」

「あと、この魔石なんだけど」

「はい?」


 受付嬢は俺が差し出した石ころよりも大きい魔石を見て驚きの声を上げる。これはオークの体から出てきた魔石だった。


「これはオークの魔石ですね。まさか一人で倒したんですか?」

「ああ、そんなに珍しくもないんだろ」

「ええ、まあ……でもよく倒せましたね」

「これでも冒険者だからなあ」


 俺はそう言って胸をそらした。受付嬢は苦笑したが、すぐに仕事の顔に戻る。 


「ではホーンラビットの角7本で銅貨20枚になります。それとホーンラビットの皮6枚で銅貨30枚ですね」


 俺は報酬を受け取る。これで所持金は銀貨1枚と銅貨73枚になった。


「またのご利用をお待ちしています」


 受付嬢は笑顔でそう言った。俺は軽く手を上げて応え、冒険者ギルドを出た。


「さて、これからどうしようか」


 まだ日は高いし街の外にモンスターを探しに行ってもいいが……。


「今日は疲れたから宿に帰るか」


 俺は宿に向かって歩き出した。


 ◇


 明日も街の外でホーンラビット狩りだ。そんなことを考えながら宿屋に向かっていると、声をかけられた。


「よう、新人! 景気はどうだい」


 俺に声をかけて来たのは女性にしては大柄な女冒険者だった。革鎧を身に着けており、腰には剣を下げている。強面だが気の良さそうな顔をしている。クールビューティという奴だ。年齢は20代前半くらいだろう。


「まあぼちぼちです」


 俺は適当に答えた。攻略対象じゃなければ興味はあまり湧かない。女は俺の態度が気に食わなかったのか眉を顰めた。


「おいおい、せっかく声をかけたのにその態度はないんじゃないか?」


 女は俺に向かって顔を近づけてきた。


「はあ」


 俺はため息をついた。面倒臭い奴に絡まれたな。


「俺に何か用か」

「いやなに、楽しそうな顔してたからついな。私は冒険者をやっているリンだ。昨日この街に着いた。よろしく!」


 リンはそう言って右手を差し出してきた。俺はその手を無視して歩きだす。


「おいおい! 無視するなよ!」


 リンは慌てて追いかけてきて再び声をかけてきた。俺は仕方なく立ち止まると振り返った。


「それで? 何の用?」

「おう、実はな。私と組んで狩りをしないか?」


 リンは目を輝かせて提案してきた。俺は首を傾げる。


「なんでまた?」

「ギルドであんたを見てな。あのオークを一人で倒したんだろ? そんな奴と一緒に狩りをすれば安全に狩れるからな!」


 俺はリンの装備を見た。革鎧は使い古されてはいるが手入れはされているようだった。腰に下げた剣も使い込まれてはいたが、刃こぼれはない。


「……なるほど。だが、俺と組んでも得はないぞ」

「損得じゃないさ! 私はあんたと組みたいんだよ!」


 リンは目を輝かせて言った。


「レベルは?」

「私はレベル20でスキルに剣術Lv2と身体強化Lv1がある。悪くないだろう?」


 レベル的には問題ないだろう。


「わかった、組もう」

「おお! そうこなくっちゃな! それで、あんたのことはなんて呼べばいい?」

「ルーカスだ」

「わかった、よろしくな、ルーカス!」


 俺とリンは握手を交わした。こうして俺は異世界に来てから初めてのパーティーを組んだのだった。


 ◇


 リンと別れて、エルルのいる宿屋に帰るとエルルはお母さんと話していた。


「私は冒険に行きたいの! 私の夢だから」

「でもねぇ、あんたは治癒士でもなければ戦闘も向いてない。冒険はやめといた方が」

「お母さんのわからずや! お母さんがいくら反対しても私は冒険に行きたい!もうお母さんなんて知らない!」


 エルルはお母さんにそう言うと今度は俺の存在に気づいたようで、俺の方を見た。気まずくなったのか、俺には何も言わずに宿屋から出ていった。


「ルーカスちゃん。私はエルルが冒険に出るのは反対だよ。だってあの子の職業は料理人だし、レベルは1だもの」

「お母さん。それでも俺はエルルと旅がしたいんです」


 エルルのお母さんにそう言って俺はエルルを追った。ゲームと同じならば、きっとあの場所にいるに違いない。


 俺は丘の上の木まで向かった。案の定、エルルはその木の下で体育座りして、顔を膝に埋めていた。


「エルル。泣いてるの?」

「ううん、泣いてない」


 声が震えている。強がってはいるが、溢れる涙が止まらないようだ。


「俺はエルルと旅したい。お母さんが反対しても俺がエルルを連れ出すよ」


 俺は今、エルルを攻略している。攻略には二段階ある。1つ目が双方の同意のもとキスをすること。そして2つ目が夜を共にすること。要はセックスである。


 ゲームでエルルを冒険に誘うと、お母さんから反対され、この丘の上の木の下で泣いてしまう。そんな時にそっと隣にいてあげて話を聞く。その上で愛の告白をしてキスをする。これがエルル攻略のシナリオだった。


「ルーカス。私足手まといにならない?」

「ならないさ。レベルも少しづつ上げていこう」

「ありがとう。ルーカスは優しいね」

「誰にでも優しいんじゃないよ。エルルだからだよ」

「え?」


 俺はエルルに向かって真剣な顔をした。


「エルル。俺、エルルのこと好きみたいだ。だから一緒に冒険に行きたい」

「それ、本当?」

「あぁ、本当さ。エルル。愛してる」

「私も、ルーカスのこと、好き、だよ?」

「ありがとう。嬉しいよ」


 そして俺たちはキスをした。俺のファーストキスはエルルで良かったと思う。


「お母さんを説得するためにレベル上げしよう。明日街の外に出れるかい?」

「お母さんの説得と準備が必要だから、明後日なら」

「分かった、そうしよう」


 その日、俺とエルルは手を繋いで宿屋へと帰るのだった。夜空には星が瞬いていた。




※作者より

 『異世界ハーレム奇譚』第一話をお読みくださりありがとうございます。


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