6.ユウタとおばあさん③

 友人たちの事が頭に思い浮かび、先程まで楽しく感じていた気持ちが萎み別の感情が込み上げてくる。

 ユウタは曲げた膝を両腕で抱え、その上にアゴをのせる。


 流れてゆく入道雲の白さとは対照的な暗い感情が自身を覆っていくのを心の隅で感じ、顔を曇らせる。


 それまでと打って変わった様子のユウタを見て、おばあさんは心配そうに「どうしたの?」と声をかけるが、ユウタはしばらく無言のまま何も答えない。


「やっぱり、約束破られちゃったのかな……リョウタとコウジが嫌がること、何かやっちゃったのかなぁ……」


 そう漏らすと、ユウタは膝に額を当て俯いた。


 おばあさんからはユウタの表情が伺えない。少なくとも先程までの、明るく楽しそうなユウタではない事は考えるまでもないのだが、どの様に声をかけるべきかその機微が見えないためにおばあさんは言葉が定まらない。


(私に前を向かせてくれたユウタくんが、ここに彷徨う事になった原因、抱えているもの……)


 先程のユウタのひと言から、友達との約束事がキッカケとなりこの場所にたどり着いたことは明白であり、おばあさんはそう確信する。


(純粋で優しいユウタくんだからこそ、思わぬ出来事に整理がつけられなかったのかもしれない)


 ユウタにとって貴重な夏休みと言う時間を、自身の言葉一つで台無しにしてしまうかもしれない。

 感情を掻き乱すような言葉を言わないように気をつける必要がある。


(説教じみた感じにならないように……)


 方向性は決まりつつも、ユウタを取り巻く感情を解消してあげるために有効な言葉は見出せない。


 なかなか次に放つ言葉を決められないでいたが、このまま隣り合って座り続ける時間も多くは残されていない。


 そう自らに言い聞かせたおばあさんは、ユウタの座る位置に更に近づき、背中にそっと手を当てさするように動かす。


「ユウタくん」



 おばあさんは静かに声をかけた。

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