夏の空、記憶
松本啓介
1.少年の日を回顧する
目の前で孫が仏壇に向かい手を合わせている。
自分がこの子と同じ年の頃、果たしてご先祖様に対して、これほどの姿勢を示せていたかなどと考える。
しばらくすると、目を開けた孫が祖父の方を振り返り、何かを考えるような表情で話しかけた。
「おじいちゃん」
「どうした」
「さっきね、目を瞑っている時にね、知らない人の声が聞こえたんだ」
その言葉を聞いた時、一瞬考えた後、ふと、子どもの頃に体験した不思議な出来事を思い出した。
不思議な出来事だったのだが、後に祖母より、その時に体験した事象と似たような逸話を聞かされたため、勝手に納得して、消化していた出来事でもある。
「ほう、不思議な事が起きるもんだなぁ。それで、その声はどんな風に聞こえたんだい」
祖父の問いに間髪入れず孫が答える。
「えっとね、女の人の声でね、すごく響いていて、ボワワーンって感じに聞こえたよ。でもね、とっても優しそうな話し方で僕に声をかけてきたんだ」
「その人は、なんて言っていたんだい」
「えっとね……元気でいてください、また会えるのを楽しみにしています、だったよ」
「へぇ、もしかすると私のおばあちゃん、つまりお前のひいひいおばあちゃんが話しかけてきたのかもしれないなぁ」
「え、ひいひいおばあちゃん?!」
「そうだよ」
「何か伝えたかったのかなぁ」
「ふふ、そうかもしれないなぁ」
ソワソワとしながらも表情を輝かせた孫の姿を見て、いささか楽しい気分になった祖父は続ける。
「そうだ。おじいちゃんもね、ずいぶんと昔、不思議な体験をした事があるんだ。その時の話を聞いてくれるかい」
孫は目を輝かせて頷いた。
今まさに体験したのであろう不思議な出来事に気分が高揚しているのか、胡座をかきながら両腕を前につき、話を待つ姿勢を取る。
どうやら興味を持ってくれたようだ、と祖父は少し安心した。
「これは、私が小学生の時に体験した出来事でな……」
かつて、不思議な空間で一度だけ出会った人の事を思い出しながら、少しずつ孫に語りかける。
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