【完結】クールなサイエンティストの先輩は実験がしたい

赤瀬涼馬

第1話 二人の出会い

 僕が思ったことは単純明快だった。

規則正しく並べられた机と椅子。鼻を突くような独特の刺激臭、漆黒色のカーテンに遮られた窓。まるで、悪事を企むどこぞの悪い組織の研究所のよう思えた。

 僕はその中を覗き込むようにして眺めている。キョロキョロと室内を見渡してとある人物を姿を探す。


「どうしたんだい? キミ……私に何か用か?」


 と、背後から声をかけられてビクリっと肩を揺らす。振り返ってみると艶やかな黒髪を肩口で揃えた、瑠璃色の瞳が持った少女がこちらを不思議そうに見つめていた。

 赤い色のネクタイをつけていることから三年生であることが窺える。


 いきなり話しかけられて、視線を彷徨わせ詰まらせてしまう。先輩はそんな僕を見ても気にした様子もなく、科学実験室に入っていってしまった。


「あの~すみません」


 扉越しから遠慮気味に声をかけてみる。


「……何?」

 凍てつくような声の声が僕の耳に届く。さらに睨み上げるような視線を向けられてビクッと肩を竦ませる。


「えっと、その、あの――――」

「はっきり話してくれ。全く聞こえない」


 要領を得ない返事に先輩は苛立ったようで強い口調で返してきた。

 あまりの気迫に僕は、言葉を失ってしまった。先輩は呆れたように深い溜息をつきながら、怒気を孕んだ声で言い返される。


「用事がないなら帰ってくれるかい? 私だって暇じゃなんだ」

「…………」


 僕は黙るしかできなかった。でも、課題のプリントを出さないといけないし。

 心の中で、迷っていると先輩は近くの椅子に座って、鞄から一冊の本を取り出す。まるでもう、僕には興味がなくなったと言わんばかりに。


「あの~すみません」

「………だから何? 用事があるなら早く言ってくれないか?」


 再び、凍てつくような声が部屋に響く。怯えそうになるのを必死に堪えながらお腹に力を入れて話す。

「か、課題のプリントを出しに来ました」

 と、刹那―-僕の言葉を訊いた先輩は、安堵したようなため息を漏らす。

「何だ。課題の提出か。………てっきり私は、キミが告白してくるのかと思ってね。すまない怯えさせるような真似をして」

 さっきの殺伐とした雰囲気から打って変わり、優しい微笑を口元に浮かべる先輩のギャップに驚きつつも話を進めていく。


「それなら先生が来るまでここで待っていたまえ」

 と、言って自分の隣の席をポンポンと手の平で叩く。どうやら、隣に座れてと言うことらしい。

「ところでキミは―――――」と先輩が話始めたところで、ガシャンと乱暴に扉が開かれた。

 驚いて振り返ってみると白衣姿の教諭が立っていた。

 艶やかな黒髪に肩口で揃えられた髪型。淡い琥珀色の瞳。

「おお! やっと来たか」

 理科教諭・平塚静乃先生はため息交じりに言う。

「……すみません」

 僕は弱弱しく言葉を返すと先生はまあ卑屈になるなよと肩を叩いて、励ましてくれる。

 「あ、ありがとうございます」

 しどろもどろになりながら僕はお礼を口にする。

「そういえばこいつとは知り合いなのか?」

 と、さりげない様子で平塚先生が先輩に訊く。

「いいえ。ついさっき、会ったばかりです」

 先輩はピクリとも表情を動かさずに答える。

「自己紹介はもう済んだのか?」

 先生の言葉に僕らは押し黙った。示し合わせたわけでもないのにタイミングまでピッタリだった。

「おいおい――!」

 先生の驚愕した声を部屋に響く。

「私が来るまで時間はあっただろ? いくら顔見知りとはいえ、せめて学年や名前くらいは名乗るものだろう?」

 額に手をやり、大袈裟な仕草で言ってくる。


「お言葉ですが、先生。私は彼の顔はおろか、名前すら知りません」

 先輩は透明感のある声で答える。

「ならばいますぐにやりたまえ」

 言うが早いか中央の教壇に椅子を置く。長い足を組み座む。

 先生に見守られる中、どちらとも口を開く様子がない。

 時間だけが過ぎていく。


 チラっと時計に目をやると五分ほど経っていた。

「新見莉央」

 先輩がぶっきらぼうな口調で名前を口にする。

「――えっ?」

「私の名前だよ、分かるでしょ?」

 呆れたように肩を竦めて、鋭い視線で見上げる。

「えっと、僕の名前は――」

 焦るように名前を口にすると。

「おどおどしないでくれる? 見ていてイライラするから」

 額を押さえた先輩が深いため息を漏らす。

「久我優希です」と自信なさげに名乗る。


「ふーん。久我君っていんだ」

 試すように見てきた先輩に、僕は怯えたように後ずさる。

 僕が下がるたびに先輩は近づいていく。ゆっくりと追い詰めていく。

 逃げ場を失った彼は壁際に両手をつき、莉央を見上げる。


 先輩は僕を見下ろすように眺め、動きを封じるように両手を壁につける。

「君、私と付き合ってくれ」

 背中を丸めている僕に囁くようにして言う。

 まるで何かを求めるかのように。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る