第9話 妖月の屋敷
車はやがて大きな門のあるお屋敷に着いた。
私は車から降りて唖然とする。
妖月様の家ってこんなに大きいんだ。
すごいな。こんな都会にこんな広いお屋敷を持てるなんて妖月様ってお金持ちなのかな。
「どうかしたか?」
「いえ。すごい立派なお屋敷なので驚きました」
「フン。お前はどのような家に住んでいたんだ?」
「えっと、アパートです」
「一人でか?」
「いえ、お母さんとです」
「そうか。お前は母親と一緒に住んでいたのか」
「はい。妖月様のご家族はいらっしゃるんですか?」
「そんなもの、今はいない」
妖月様はそう言って玄関から屋敷内に入る。
妖月様ってこんな大きな屋敷に一人暮らしなの?
妖月様は独身ってことかな。
でもそれって私は独身の男性とこれから生活するってこと?
ひとつ屋根の下に独身の男女が暮らすってやばくないかな。
一応私にも貞操観念はある。
そこで私は妖月様が人間じゃないことを思い出した。
そうだ。妖月様は姿は人間でもモンスターさんだった。
だったら人間の私なんか相手にしないだろうから大丈夫だよね。
「早く入らぬか!」
「はい! すみません」
私は慌てて妖月様の後から屋敷に入る。
中も広々としている。いくつも部屋がありそうだ。
「一時間後に夕食を食べる。食べたい物を界魔に言っておけ」
え? 食べたい物? でもいきなり何かを食べたいって言うのは我儘じゃないのかな。
私は居候になるんだし。
「私、好き嫌いないんで妖月様の食事と同じでいいですよ」
「………私と同じなら家畜の血になるが良いのか?」
家畜の血…それは遠慮したい。
「いえ、それなら何か私でも食べられる物でお願いします」
「だから何でもいいから界魔に言えと言っているんだ!」
ひえ! 怒らないでください!
「で、でしたらオムライスが食べたいです」
恐る恐る私は自分の好物を言ってみた。
オムライスってこのモンスター世界にもあるのか分からないけど。
でも妖月様と同じ家畜の血では困るし………。
「界魔。美音のオムライスを作っておけ」
「承知しました。妖月様」
界魔さんが妖月様に答える。
え? オムライスあるんだ。
良かったあ。私の好物があるだけで嬉しいな。
「では界魔に部屋に案内してもらえ。一時間後に食堂で会おう」
そう言って妖月様は屋敷の奥に歩いて行ってしまった。
「美音さん。お部屋に案内します」
「はい。ありがとうございます。界魔さん」
私は界魔さんの後をついて廊下を進む。
う~ん、やっぱり部屋も多いし広い家だけどここに妖月様は一人で住んでるんだよね。
一人で寂しくないのかな。もちろん使用人はいるのかもしれないけど。
「こちらの部屋をお使いください」
「はい。分かりました」
私は界魔さんが示した扉を開ける。
中にはベッドと机や本棚、箪笥などが置いてある。
広さは20畳くらいある部屋だ。
なぜかトイレもシャワーもお風呂もある。
私がここに来たのって予定外のことだと思うんだけどなんでこんなすぐに使えるような部屋があるんだろう。
「界魔さん。このお屋敷には妖月様がお一人で暮らしてるんですよね?」
「ええ。私もこの屋敷におりますが。後は数名の使用人だけです」
「なんでこんなすぐに使えるような部屋があるんですか?」
「それはこの部屋は通常お客様用の部屋なんです。まあ、屋敷に泊めるようなお客様が来るのは稀ではありますがいつでも対応できるように準備してます」
「へえ、そうなんですね」
「それにここは人型モンスター様用の部屋です」
え? 人型モンスター用なの?
だからベッドのサイズとか机のサイズが人間界と似たような大きさなのか。
「人型モンスター以外にもモンスターさんたちっていろんな種族がいるんですよね?」
「もちろんです。ですが人型モンスターは人材としてはとても重宝されます」
「え? 何でですか?」
「人型は事務作業などをするのに向いていますから」
なるほど。事務員としては需要が多いってことか。
「では、夕食の準備ができたら呼びに参りますので」
「あ、はい。お願いします」
界魔さんは部屋を出て行った。
私はとりあえず自分のリュックサックを机に置いて一息ついた。
住む場所もあるし、食事も私が食べれそうな物がありそうで良かったあ。
でも妖月様は家畜の血が食事みたいだけど本当にヴァンパイアなんだな。
私は界魔さんが呼びに来るまでに自分の荷物から着替えを出して箪笥にしまった。
う~ん、とりあえずは生活はできるけど、必要な物を買うにはこの世界のお金が必要だよね。
初任給が出たら返すってことで妖月様から借りようかな。
でも居候でお金も貸してって言ったらまた妖月様に怒られるかも。だけどそれしか方法無さそうだしな。
前途多難な生活の始まりではあるが頑張るしかない。
自分に気合いを入れるために自分の頬を手でピシャリと叩いた。
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