モンスターお役所
リラックス夢土
第1話 就職浪人
「モンスターさんたちにも生きる権利があると思うんです!」
私は思わずそう叫んでいた。
「合格」
私の前に座っていた試験官である所長がそう言った。
その赤い瞳で私を面白そうに見つめながら。
一瞬その表情を見て「早まったかな」と思って後悔しても遅い。
これは私が望んだことだもん。
な、なんとかなるよね。
だってここまで辿り着いたのもなんとかなったし。
私はこれまでの出来事を思い出した。
「また、ダメだった………これで99連敗」
私はトボトボと歩きながら自宅へと向かう。
私の名前は
高校卒業して就職浪人真っ最中だ。
元々は高卒で公務員になることを目指して高校三年生の秋に試験を受けたが不合格。
焦って民間の就職先を探したが基本的に民間の就職を目指す人たちはもっと前から就職活動していたから私は完全な出遅れ。
そしてそのまま高校は卒業したものの未だに就職先が見つからない。
「はあ、何でこうなったのかなあ。やっぱり公務員一本に就職先を絞ったのがいけなかったのかな」
私は今日も就職希望の会社に面接に行ったがその場で「君には無理そうだね」って言われてしまった。
結果は後日通知と言ってたけどそんなの見なくても面接官の態度で結果は分かってしまう。
「あ~あ、お母さんに何て言おうかな」
私は父親を幼い頃に亡くし母親に育てられた。
母親が一生懸命に働いてくれたから私の今がある。
私が面接に落ちる度に母は笑って「美音のいいところを見てくれる会社があるわよ」って言ってくれるがこんなに何回も面接に落ちるとさすがに落ち込んでくる。
私が就職できる日って来るのかな。
絶望感に襲われる私が何度目になるか分からない溜息を吐いた時にザアッと風が吹いた。
「うっ!」
私の顔に風に飛ばされてきた一枚の紙が張り付く。
慌ててその紙を顔から引き剥がした。
「まったく、何なのよ」
しかし手にしたその紙を見て私の目は大きく見開かれた。
その紙に書かれていたのは『モンスターお役所職員随時募集。年齢、性別、種族不問。やる気のある方大歓迎』の文字。
「モンスターお役所ってあのダンジョンの向こうにあるというモンスター世界のお役所のこと?」
私は学校で習ったことを思い出す。
この世界は約50年前にダンジョンが出現してダンジョン内では日々モンスターと人間との戦いが繰り広げられている。
ダンジョンで戦う人たちのことを『戦士』と呼んでいて今はその『戦士』も立派な職業として認められているとのこと。
戦士はダンジョンの中でモンスターを倒してアイテムなどを回収して生計を立てていると聞いたことがある。
「聞いたことがある」というのは美音のような一般人はモンスターなんて見たこと無いし関わり合うことがないからだ。
人間界にモンスターが現れたというニュースは聞いたことがない。
モンスターが出現するダンジョンへの入り口は政府がきちんと管理していてモンスターが人間界に来ないようにしているらしい。
なのでモンスターに関しての情報は「都市伝説」的なことしか知らない。
それでもモンスターが人間にとっては脅威であることは学校で習った。
そのモンスターの「都市伝説」にあった情報で「ダンジョンの向こう側にはモンスターの住む世界がある」というのがあったはずだ。
この紙が本物ならモンスターの世界にもお役所があるということになる。
私はゴクリと唾を飲み込む。
モンスターは怖い。
モンスターの世界があるかどうかも怪しい。
でもこのまま就職できないならこの世界で就職するのを諦めて「モンスターお役所」に就職をしてもいいのではないか。
普通の状態だったら私もまともに考えてモンスターの世界で働こうなんて思わなかっただろう。
だが、今日の面接も失敗して面接不合格は確実だ。
その焦りが私の頭から「常識」という言葉を奪った。
「年齢、性別、種族不問………ってことは人間である私も応募可能よね」
そして紙には合否は面接で決めることが書いてある。
つまり筆記試験のようなものはないということだ。
「よし! 面接に行ってみよう!」
私はそう決断した。
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