悲しい魔王の物語
魔王ラディス。このシン国の民なら、いや、この世界の者なら誰もが一度は聞いたことのある名前です。絶対的悪、そして絶対的王者と言われており、出会えば一瞬にして人間を灰にしてしまうことから、死神のラディスと呼ばれています。
ラディスはその日、天使達との戦いの帰りでした。天界とシン国は昔から仲が悪く、仲間を殺された天使はシン国まで出向いてラディス達魔王軍に戦争をしかてきたのでした。
勝敗は引き分け。大勢の天使と魔物達が死んでしまいました。
魔物は同族が死ぬと、ホムラという液体に遺体を入れて、保存をします。
実は魔物は天使の翼があれば蘇るとされているからです。
天使の翼といっても、適当な天使ではいけません。リーダー格の強い天使、金の翼でなくてはなりません。
今日はラディスの側近であり、親友のボンの恋人が死んでしまいました。ボンは泣きながら、ホムラに恋人を浸しました。
ラディスはボンの肩をポンと叩きました。
「必ず金の翼を手に入れよう」
「うっ…ラディス様、ありがとうございます!!」
ボンは泣きながらラディスにお礼を言い、また恋人の前で泣き崩れていた。
ラディスは力がダントツに強い分、処女の血を飲まなければ生きながらえることはできません。傷を負った身体を無理矢理引きずり、ラディスは今宵の獲物を探しに街へ行きました。
銀の髪に、赤い目。普通ならば恐れられる容姿だが、ラディスは容姿端麗。その整った顔を見ると女がよく群がってきていました。
ですが今日は戦の後のため、女達は家にこもっていました。
(今日は諦めるか)
そう思い、軽く周りを一瞥して帰ろうとした所、古い家の片隅に薄汚れた女が座っていた。
ラディスは女に近寄った。
「何をしている?この家の者か?」
女は首を振りました。どうやらその姿から、奴隷商人から逃げてきたようでした。
(これは使える)
ラディスは女の腕を掴みました。その時普通は悲鳴を上げるのですが、女は黙っていました。
「着いて来い」
ラディスは真っ黒な翼を広げ、女を抱き抱えて自分の城に連れて帰りました。
今日はこの女を頂こう、そう思っても女の痩せ細った姿と汚れている見た目から血を飲もうとは思えませんでした。
ラディスは指を鳴らし、ボンを呼びました。
「ボン、この女に風呂と食事を用意してやれ」
「かしこまりました」
ボンは手早く女を連れ、浴室に連れて行きました。
ラディスは残っていた処女の血をワイングラスに注ぎ、ゆっくり流し込んだ。
(今日の戦いは厳しかったが、金の翼の天使の恋人を葬ってやった。それがボンの恋人の命を奪う形となってしまっても、充分な戦利品だ)
1人余韻に耽っていると、女がボンと共に現れた。綺麗になって帰ってきた女は、美しくはないが、よく街にいるような女の子という印象でした。
ラディスは女に手招きをし、女を食卓に座らせました。緊張するように、女が肉を食べ始めました。
「お前は奴隷か?」
ラディスの問いに女はコクンと頷きました。
「………口がきけないのか?」
女は口を大きく開けてみせ、舌がない事をみせました。
ラディスは少しだけ、女が不憫に思え、ですが珍しくもないその姿をただ眺めていました。
食事を終えて、女を自分の寝室に案内しました。ラディスは女の血を飲むつもりです。
ですが女の華奢な方を抱いた時、また食欲がなくなりました。
たんに気まぐれか、はたまた今まで飲んできた女より痩せ細った姿が気に食わなかったのか、ラディスは女を自分のベッドへ寝かしました。
(もう少し太らせてから飲むか)
それは何日も続きました。
ある日の事です。ラディスが夜中に目を覚ましました。女がいないのです。
逃げられたかと思い、ラディスはボンを呼んで女を探させました。
女は城の入り口にいました。血塗れで大きな瓶を3つも持っています。
ラディスが匂いを嗅ぐと、どうやらその瓶に入っているのは新鮮な処女の血でした。
ラディスはびっくりして女をみました。
女は口パクで『お礼』と言っていました。
その血濡れた姿に、ラディスは狂気ではなく、今まで感じた事のない物を感じました。
女の血か…?と女を見やりましたが、どこも怪我をしていないようでした。
女は同じ女の血を奪ってきていたのでした。
それからラディスは女に優しくなりました。
何より名前をつけたのです。
「お前は今日からアイリスだ」
アイリスは喜んで頷きました。
時には街へ出掛け、アイリスにペンダントを買ってやりました。
海へ連れて行き、泳ぎを習得させたりしました。
ある時は大量のドレスをプレゼントしたり。
またある時はナイフを与え、戦いの極意を教えました。
ボンはそんな変わったラディスに少し安心しました。やっとラディスにも愛する心が芽生えたのかと。本人は気付いていないようですが、それは愛でした。
そんな時です。
天使達が戦争を仕掛けてきました。
今回は金の翼の天使の恋人への報復のようで、前回より酷い戦争になるようでした。
ラディスはアイリスを自分の部屋へ閉じ込め、戦いに行きました。アイリスは自分も戦うというように抵抗しましたが、ラディスは問答無用で扉をしめ、鍵をしていきました。
「ラディス!!!!お前を待っていたぞ!!!!」
「金の天使よ、俺はお前の翼を待っていた」
2人は激しく戦いました。
空中戦にまてなり、城は半壊していました。
ボンも天使達と懸命に戦っています。
ラディスは深手を負いました。魔物は天使の力だと治癒に時間がかかります。
一度城に降りてアイリスの様子をみにいきました。
扉は開けてありました。ラディスは焦ってアイリスを探します。
アイリスはベッドの上でペンダントと金の翼を握りしめ、息絶えていました。
ラディスは獣のような雄叫びをあげました。
ラディスはまだ暖かいアイリスを抱きしめ、首筋に噛みつき血を飲みました。すると大きな黒い力がラディスを包み込み、頭から角が生えました。
雄叫びをききつけ、金の天使とボンが現れました。
「ボン、アイリスをホムラにいれろ。俺はあの天使と戦う」
「か、かしこまりました!!!!」
ボンはアイリスをホムラのあるところに運びました。それを邪魔する天使達を、ラディスは灰にかえました。
金の天使と向き合うラディス。
お互いがお互いの報復を望んでいました。
ラディスが闇の力で金の天使を攻撃しました。
金の天使はそれをよけ、ラディスに光の力で攻撃しました。
それを何度も何度も続け、お互いにボロボロになっていました。
「決着をつけよう、金の天使よ」
「ああ、そうだな」
お互いに力一杯振り絞った光を出し、お互いにぶつけました。
ボンが戻ると、ラディスの持つ金の天使の心臓をみて安堵しました。
ラディスは金の天使から、金の翼を剥ぎ取りました。
「ボン、これを、アイリス、に…」
「かしこまりました!!ラディス様、ラディス様!!」
ラディスは徐々に灰になっていきました。
「まさかこの俺が灰になるなんて、な…。俺の命と、引き換えだ…アイリスを、頼…」
ラディスは灰になり、風に乗って何処かへ飛んで行きました。
「ラディス様、すみません。私は恋人を生き返らせたいのです。ごめんなさい…ごめんなさい…」
ボンは泣きながら恋人が入ったホムラの所へ向かった。
アイリスが目覚めることはなかった。
完全にあの世へ行く事もできず、ただただラディスを待っていた。
地に堕ちたような2人の歪な愛は、お互い伝える事すらできずに。
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