第42話



 「和歌ネタはー、あるけどアレって背景の歴史云々含めてオモロくなるから説明に時間がかかるんだよねー。いや俺だって考えて喋ってんだぞ。興味のない人に歴史の長話はNGだから手短に済む範囲のネタにしようって」


 ふーんいいから聞かせろって? 楽しめそうなのはー、アレにすっか。お絵描きアプリは……、まだいいか。


 この世をば 我が世とぞ思う 望月の 欠けたることも なしと思えば


 「下手すりゃ一番有名な歌かな。一番和歌らしくない歌。ぶぶ漬け食うかが早よ帰れになる遠回しな表現が和歌の持ち味なのに、道長クンは実質頂点に立って言論表現の自由と炎上しない保証をゲットしたからこんなにもストレートに傲慢な歌を詠めた。まーこの人のセンスの独特さは異質だね。なんせ平等院鳳凰堂だよ? 徳の高い皇帝の出現を寿ぐ鳳凰と平等、どちらも無縁だったくせによく自分で言えたよね。俺のキャッチフレーズ全員友だち素顔が一番、だったらなんでやねん浴びるわ。でも道長にもいろんな背景があったのですよ、と知るとこの歌がもう少しマシか、さらにヒデー歌に聞こえるようになる。どっちに受け取るかはご自由に」


 道長をディスるなとかいつものコメントを横目に語り続ける。歴史上の人物を攻撃するつもりはないけど、いろいろやらかしてるからなぁ。


 「きっかけは道長が十代二十代のあたり、まだ権力を持っていないころ、正確な時期は不明だけど多分そのころ、竹取物語が世間に出回った。コレ、現代の永田町風に言うと作者不明の怪文書ってヤツなんだよね。作者が名乗り出ないのは当たり前。竹取物語って藤原一族をディスりまくった風刺だもん」


 歴史好きには有名な話だけど一般的には違うかな?


 「気付いてドヤ顔で発表したのは確か江戸時代の学者だったと思うけど、平安時代の人々はもちろん気付いている。理解されずスルーされた風刺なんてあったら傑作だけど、そこまでポンじゃないでしょ。えーと、かぐや姫に求婚する貴族たちの名が、全員藤原一族に関係するパロディなんだよ。漢字が違うだけの同名とか役職名からあーコイツだなって察するタイプとかいろいろ。俺もいちいち憶えてないし語る気もないから気になる人は検索しろー」


 ウチのリスナーはしっかり者が多いから大丈夫だけど、他の配信観てるとその質問の答えいる? ってヤベーコメントするモンスターが結構混じってるから検索の呼びかけを多めにしがち。例えばその野良配信者じゃないですか? だから何? としか返しようねーわ。仮に調べたらがついて以後ゴースティングを疑われるモラル違反って言われる前に考えてからコメント打てよ。俺は迷惑をかけないよう他の配信ではROMってるからツッコミを我慢するのが大変。


 「要するに竹取物語は、藤原一族は何でも手に入るフリしてイキってるくせに女ひとりの望みも叶えられずセコい嘘ついて全員フラレてやんのザマァ、と言っているのだ。これ知っとくだけでも歌に深みが出たでしょ。もうちょい続く」


 あー、家系図は画面で説明しなきゃ無理だけど、画面で説明しても無理ぽいな。どーせ真面目な歴史の話じゃないしはしょるか。


 「間違いと分かった上で、イメージしやすい説明するぞ。天皇Aの皇妃は道長の長女、天皇Bの皇妃は道長の次女、天皇Cの皇妃は道長の三女、天皇Dの皇妃は道長の四女、の予定だったけど四女は出産後に亡くなった。ここの血縁図は複雑怪奇だから俺も分からん。でもえげつない近親婚を重ねてるのは分かったでしょ。こういうやり方で道長は権力を握り、もう誰も自分に逆らえなくなった時にパーティをひらいた。そこにかつてのライバル登場。彼は言った。折角のパーティなのだから歌を詠んではいかが? と。道長に歌のセンスはないって誰でも知ってるからせめてものイヤガラセ。そして道長は歌った」


 この世をば 我が世とぞ思う 望月の 欠けたることも なしと思えば


 「この世はワシのもんじゃい。かぐや姫どころか満月もろともワシのもんじゃーい。あまりにもダサすぎる歌を堂々と詠み、道長はかつてのライバルに言った。ほれ、返事の歌はどうした? ライバルは言った。これほど見事な歌に見合う歌を私には作れません、全員で歌いましょう。そして全員でこの世をばー、と歌ったらしい。道長ってこれくらい周りからガチ狂人認定されちゃってた、というハナシでした」


 この歌が名歌? 思うのは勝手だよ。


 「道長も可哀想な人ではある。自分と一族が殺してきたユーレイの群れに怯えていた。そこで娘、皇妃に仕える紫式部に書かせたのが源氏物語。現実には滅ぼした源氏の主人公が片っ端から女を抱きまくり、名は伏せているけど明らかな藤原一族をフルボッコにして成り上がる、セックス&サクセスストーリー。フィクションの中では藤原一族をザマァしていいから、好きなだけハーレム俺tueeeしていいから、もう許してー、てベソかいていたんだねぇ。多分竹取物語によって、道長は作り話とはいえ藤原一族が攻撃されると罪が軽くなる気がしていたんじゃないかな? それでも足りなくて平等院鳳凰堂を建てるってかなり病んでた」


 そういえばいいネタがあったな。


 「ユーレイに怯えるってバカバカしいと思う? 例えばアスリートって験を担ぐ人が多いよね? スポーツなんてほぼほぼ実力世界なのに、運を気にする人が多いよね? じゃあ、何が実力か分からない政治の世界はもっと運が重要だったり、神頼みだらけだと思わない? 多分選挙事務所にダルマを置かない人はいないんだろうし、口にしないだけで勝負パンツとか全部決めてそう。時々ニュースで騒がれる靖国参拝について、ニュースでは触れるはずのないオカルトな解説しよう。そもそも靖国参拝とは、政治家と夥しい数の日本兵が交わしただ。諸君、戦場に行って散ってくれ。諸君の亡骸は現地に野ざらしかも知れないが、諸君の魂は靖国神社に還り、我々政治家は未来永劫諸君を英霊として祀ることを誓う。この約束を破ったら異世界の婚約破棄どころじゃないんだよねー。で、破った連中は実際にいた。その期間に何が起きたか? 東日本大震災と原発事故の即死コンボだよ。もちろんコレを天罰と受け取るのは理不尽だ。東北の人たちが何悪いことしたっていうのやら。でも、約束を堂々と破った連中はどう感じたんだろね。その期間中に総理だった人は、辞めた後に死装束でお遍路行くとか実に分かりやすいことしてたなぁ。韓国で誰かの墓に土下座した元総理もいたけど、これは意図が分からない。これでもユーレイに怯えるってバカバカしいと思う?」


 政治の世界はずっとオカルトだぞ。俗物だらけだから滑稽なだけで。

 ゲームオーバーになったし、お絵描きアプリに変えるか。


 「奈良時代に長屋王という皇族がいて、ありきたりな権力争いからの冤罪で処刑された。主犯は藤原一族各家のリーダー、武智麻呂むちまろ房前ふささき宇合うまかい、麻呂の四人。その後、処刑から十年も経たないころ、この四人は確か十日以内とかそれくらいの短期間に天然痘にかかって亡くなった。古代はコロナよりヤバい病気が普通に蔓延していてコワいねー。ところで長屋王が詠んだ歌も残されている」


 宇治間山 朝風あさかぜ寒し 旅にして 衣貸すべき いももあらなくに


 「直訳は、コッチ朝は風がキツっ、旅先だからマフラーくれる彼女もいないのにキツっ。まぁフワっとした内容だけ心に留めてくれい。長屋王はこの歌に危険な意味を持たせたつもりはなかったはず。でも長屋王が処刑されて、主犯たちがサダーコさんに復讐されたかのような死に方をして、改めて歌を見るとゾワッとこない? 当時の天然痘の呼び名、もかさも入っているように聞こえるし。もちろんこじつけもいいところだよ。でも当時の人々は各句の頭やお尻の一字を抜くとか並べ替えるとか普通のテクニックとして使っていたから、ホラーと思ってしまうと都合良く見えちゃうんだよな。ないけど四兄弟の名も隠れているように見えるし」


 画面をよく見る時間を与えるために少し間を置くか。


 「そもそもどうして四人は長屋王を始末したのか? アンチ藤原一族の長屋王が次の天皇になったら邪魔だから。次の天皇は自分たち四兄弟の可愛い、光明子の嫁ぐ相手にしたいから。さて、生き残った妹はこの歌を鼻で笑えただろうか? ちなみに時系列がはっきりしないけど、長屋王が処刑されたころに前後して、光明子の赤ちゃんは一歳くらいで亡くなってしまった。衣貸すべき妹もあらなくに、四人の兄と子は厳しい風に耐えられなくて黄泉路へ旅立った、最後はお前だぁぁぁ、て聞こえない?」


 ジャパニーズホラーは日本史そのものだったりする。


 「で、妹と伴侶の聖武天皇は何をしたか? 日本中に国分寺と国分尼寺の建設、奈良の大仏の建立。これでもユーレイに怯えるってバカバカしいと思う?」

 

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