第32話
「……、そうそう、そのRPG。推しがプレイしてるの観てやってみたくなった。ピコーンて技を閃くのいいよね笑っちゃった。技名が繋がる連携は別のゲームでも見た気がするけど、ああ同じ会社か。ゲームと違って世の会社は合併すると社名繋げる慣習なくしてくれないかな。あーなくしたらなくしたで旧つぶやきみたいな呼び方するのかメンドクセー」
特にゲーム会社の略した語感が受け付けないの俺だけ? それ言ったらラノベって略し方も未だに抵抗あるけど。ケーオンと同じく軽小説を略してケーセツにでもしたほうが呼びやすくね? 小説と軽小説を分けることがそもそも下らないか。
[推しは誰?]
「相手に迷惑がかかるかもだから内緒。少しでも交流があって、隠すなむしろ宣伝しろとか相手が言う場合は名前を出せるけど、そうじゃないなら言わないのがマナーなのデス」
他愛のない発言ですぐ炎上するもんね。炎上させると報酬貰える仕事があります? てくらいアッチコッチで炎上するよねコレナニ? ただでやってるなら暇人多すぎもっとマシなこといくらでもあんだろ。
[そのRPGすればいいじゃん]
「需要あんの? 女の子が萌えボイスではしゃぎながら遊んでるから観てて楽しいんじゃろがい。俺がチマチマ雑魚倒しながらダラダラ走ってボスやアイテム探してウロウロする絵面のどこに需要があるのか、俺の名を言ってみろケンシロ〜〜〜〜〜」
[なんで積極的に自爆すんだよ]
[ひがんで仮面兄貴だすな]
[思い出したかのようなエコー芸]
[新作ゲームやってる個人勢女性Vtuber、絞れちゃう]
「ちょっ、い、い、いやいや、個人勢なんて言ってねーし。企業勢観まくってるし。あれ俺って企業勢だったような、て錯覚するくらい観てるしっ。どーもお昼一時以降はほろ酔いでeスポ所属、シューク・ベリームです」
[同期紹介しろや]
[パチモン合併すな]
急いでタブレットにお絵描きしながらショタボ。いつものFPSはキャラ棒立ち知るかっ。
「あ、えっと、みなさん初めまして。いつもシュー君がお世話になってます。シュー君は裏ではとっても優しいんですよ。信じられないかも知れないけれどホントなんです。この前なんて荷物を抱えて大変そうに歩道橋を歩くお婆さんを見て、ボクは恥ずかしながら見ているだけだったのに、シュー君たら躊躇なくお姫様抱っこして歩道橋を下りた所でお巡りさんに職務質問されたくらい優しさがから回ってるだけで、えっと、口は悪いけどボクの世話もいつも焼いていて、油汚れはアルカリ性で、水回りは酸性使うのが基本でしょもー、て変な呪文を唱えながら家中掃除してご飯も作ってくれる通い妻してくれて、あ、まずは自己紹介しないとダメですよね。ボクもお昼一時以降はほろ酔いでeスポ所属、シュー君とは同期の
喋りながら時間を稼いで、ラフ画だけど描き終えた仮面兄貴の絵を画面に切り替えて、〆のセリフはドスとエコーを効かせてハイウケたー。
「俺たち企業勢ですけど文句あるー?」
[キャラ濃すぎにもほどがある]
[その企業、世界を変えるな]
[あんのん豆腐、レギュラー決定]
「流石にこのガワは訴えられるわ。あとは、そうだなぁ。天狗のお面を被って判断早って驚く饅頭モミ爺とかどうよ。どーでもいいけど最近までコレが主人公と思ってた。中身少年じゃなかったのか」
どこかでウッカリ喋っていれば大恥かくところだった。エアプは気をつけなきゃ。
「あ、ゲームオーバー。そりゃそうか」
FPSあるある。いつかのセミもそうだけど、動かないヤツいがち。回線落ちたり席を外してたりお絵描きする人もいるんだろうさ。
気を取り直してスタート。キャラ選択はランダムで。今回はー、ドローン操って周囲を観測する索敵タイプか。
「ヌルゲーマーだから流行りに疎いけど、コイツ人気ない? 他の配信で全く見ない。今回のアプデでどのキャラが強化したとか弱体化したとかサッパリ分からん。そもそもいつ変わったのか。いつの間にか俺のランクも初期化されてるし。たまにあるこれバグかと思って焦るんだよなー」
他人の配信観て情報を上書きするけどあまりついていってない。みんなの情熱スゴいなぁ。
[コレに負ける人カワイソ]
[ひとりを使い続ける配信者もいるのに]
[大会に出てその発言するなよ]
しねーよ、そして出ねーよ。ボイスチャットでワイワイしてるの羨ましくはあるけど、横の繋がり作ると大変そう。正体バレそうになってヒヤヒヤ展開がお約束だぁ。
「最近新しいことしてないからランクマッチもいいかもね。VCナシにすれば暴言厨は無視できるし」
[ついにやる気に]
[そんなに多い?]
「多いんだよ、マジで。例えばセミってバカにされるけどさ、俺は一番マシな人だと思ってるよ。ソロで野良と組んでランクマッチしてたら不快な思いをしまくる。それでもやめられない事情があるなら、ひとりで隠れてポイント稼ぐしかないじゃん。配信者は観てくれる人、同情してくれる人がいるから耐えられるのであって、普通のソロでまともな感性があったらセミになって当たり前なんだよ。そうじゃないモンスターだらけだから俺は警戒してるんだよー。とりあえず高ランク帯まで行かなければ大丈夫そうだから行こうかなーって」
オンラインはヤベー人が多すぎる。
[分かる、自分も辞めた側だから]
[蘇生しろってキレるヤツだらけ]
「ククク、テメーが倒されといてデカい口、あるあるだよねー。エキシビジョンのソロモードやって体力ゼロでゲームオーバーを繰り返せばいい」
比較的日本人は従順だから、野良のプレイヤー名が日本語だと当たり多めと思われがち。逆に漢字十字くらい並ぶあの国っぽいと要注意。ただしあの国の名誉のためにフォローしておくと、人口が日本の十倍じゃん? 良い人も悪い人も日本の十倍いるって当たり前のことなんだな。
あれ? なんだこれ? シャワールームに盗撮カメラを見つけたような不快感。いやそんな経験ないけど。吸血鬼センサーがムズムズするぞ。
まぁ悪意なんてどこにでも転がってるから分かるまではスルーしよ。
「索敵キャラが不遇ってちょっと意味分からないな。戦場で一番重要な役目なのに。そんなんだから戦術眼が養われないんだぞー」
[ランダムに選ぶヤツに言われても]
「フフン、俺は何使っても上手いから。初心者はこのキャラから使うといいぞ。難しいけど勝つためではなく、マップをドローンで観測して学びやすいから。俺は頭の中でマップを俯瞰しがち。ちょうどこういう風に」
画面は上空からの映像。ドローンを操作している時のキャラ本体は半透明の無防備だから弱い。これが不遇の原因か。以前は透明だったらしいから余計に。逆にそれは強すぎでしょ。
「空からだと敵の動きが見やすい。これを脳内でイメージしながら遊んでたら立ち回りが上手くなるぞー」
一度見てしまうと数秒後の位置が予測できる。先回りして障害物を盾に隠れながら待ち伏せして、十メートルほど先に飛び出た敵にサブマシンガン連射。逃げようとするところを追いかけて仕留めて、さっさとトンズラ。一番重要なのは索敵、つまり漁夫対策も含まれる。
「あーれー?」
しばらく走って安全地帯に身を潜め、ドローンとマップの仕掛けを使って広範囲の索敵をしてみたら、レーダーに映る敵の位置に違和感が。近くに固まっているのに銃声が聞こえない。何故コイツら戦ってないんだい?
あーハイハイ、いやマジか。チーミングってヤツか、初めて見た。おそらく三人。『ですこ』か何か、ゲームとは別のツールを使ってVCで連携をとって、このモードだったら本来全員敵なのに、味方と協力して袋叩きにするという、不正という言い方でもいいのかな。まぁ卑怯ではある。俺は勝負に熱くならないから軽くヒく程度の感想だが。エキシビジョンで何やってんのキモっ。
さらに吸血鬼センサーの答えも。コイツらゴースティングしてやがる。今俺の配信を観て、俺をターゲットにするつもりらしい。
悪ふざけ、なんだろうね、本人たちからすれば。特に俺に対して恨みのようなドス黒さはない。だからまぁ鼻で笑ってスルーしてやってもいいが。
ちょっとムカつくな。
ここはエキシビジョン。純粋に楽しく遊びたい人が集まる、俺の縄張り。
少しからかっちゃおっかなー。
「ねぇねぇココの赤点の人たち、どうやらチーミングしているらしいぞ? エキシビジョンでこんな人たち初めて見た。ひとりじゃ勝てないから仲間と協力しよーぜ、ってこと? ダサすぎない、ヤベッ、笑っちゃ失礼かブふぅー」
[あー、そういう配置か]
[マジだ、戦ってない]
[ランクマッチのほうはいるって聞くな]
ゴースティングに気付いたのは怪しげな能力だから気付いてないフリで。せいぜい煽られてるとも気付かず突撃してこい。
久し振りに本気出すか。
「おー、足並み揃えてコッチ来るねー。アレッ、俺の声聞こえてる? まさかねー。こんな風に俯瞰で敵の位置が分かっていると、少し前に話したように、次はどこに何秒後に現れるか大体分かるんだよー。走る速度は同じだから。というわけでしばらくドローンはしまっておこう」
今この配信を観て、俺がドローンを使って隙だらけにならないと知って舌打ち、そんで俺が銃口を向けてる位置とは違う位置から襲えばいいと笑ってる、てとこか?
俺はコンテナに隠れつつ、地上から建物の角を狙っていたが、いきなり右を向いてスライディング、サブマシンガンから狙撃銃に持ち換えて、建物二階の窓から俺を撃とうとした間抜けを撃ち抜いた。
「いうて一番大事な情報は音だけどね。ドローンを含めて視覚だけに頼っちゃダメだぞ」
一対一ではないからすぐ移動。今撃ったヤツも倒してない。わざと生かす。チーミングといっても所詮は素人。ひとりに大ダメージを与えて回復に時間をかけさせれば、待てができない他のヤツが進んでくる。俺は同じ場所でじっと止まって狙いをつけるいつものスタイルではなく、常に動き続け、突然遮蔽物から頭を出してターゲットを視認すると同時に照準合わせるクイックショットでチクチク、というには一発が重い狙撃銃でしかも近距離からいたぶった。
「協力と言うならフォーカスと呼ぶ同時攻撃ができなきゃ論外だよ。フルパが強くて当たり前の理由だね。もしかしてこの人たちはエキシビジョンで練習のつもりだったのかな? エキシビジョンにも三人一組モードはあるのに、チーム戦じゃ何もできないからソロを相手にチーミングでガンバローて? プッ、ククク……、よっわ」
三人の敵は一斉に止まった。心折れて回線落としたらしい。吸血鬼センサーも凪に変わった。二度とくるな。
[落ちた?]
[ホントに民度低いよな]
[マジで練習? 何がしたかったん?]
「きっと深刻な事情が隠されているのだよ。パッと思いついたロマンシング・ミカ〜リベブふぅー……、リベンジオブスリー〜聞く?」
[すくえにに訴えられろ]
[自分で笑うなやw]
[パッとじゃなくずっと考えてたやろ]
あの会社の懐はそんなに狭くねぇよ。ぴかーっと鳴くモンスターと主人公がナニする薄い本を描いた人を謎の配管工の生みの親が訴えたニュースはいろんな意味で背筋が凍ったけど。
「その日、ミカはほくそ笑んだ」
まぁアレだ。迷惑料として俺のネタになれ害悪モンスターども。
俺は止まった敵にトドメを差してまわった。
リスナーのコメントが揃わなかったことに少しガッカリしながら。
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