AI探偵の華麗なる誤認逮捕

ちびまるフォイ

人間が考えるベストな答え

「〇〇さん、あなたが犯人ですね」


「な、なんだと!? なんで私が!?」


「そうよ! 〇〇さんはずっと食堂にいたわ!」

「それに〇〇さんには動機が無いじゃない!」


「説明してくれよ! どうして〇〇さんが犯人なんだ!」


名探偵はコツコツと歩みを進める。

そこに迷いはなかった。


「ではご説明しましょう。

 この名探偵の遠縁である私の名推理を!

 すべてはこれです!!」


「それは……スマホ?」


「ちがいます。ここです、ここ。よく見てください」


画面をよく見ると、AIによる回答が書かれていた。



「そう!! この事件のあらましをAIに送ったところ

 〇〇さん! あなたが犯人だということだったんです!!」




「ええええ!?」


犯人と名指しされた〇〇さんは目を丸くした。


「ちょっとまってくださいよ。AIを信じるんですか」


「もちろんです」


「いやだとしても裏付けがないでしょう?

 ちゃんと推理してくださいよ! 名探偵なんでしょう!」


「そうは言いますがね、〇〇さん。よく考えるのはあなたのほうです」


「へ?」


「人間は間違いを犯す生き物です。

 そしてそれを認めて、許されることもできる生き物です」


「いや説得ムーブ入ってますが、こっちまだ納得してないですからね」


「そもそも人間のような不確かであいまいで、

 感情に左右されるような存在の推理で犯人と言われ

 そこにどれだけの正確さがあるのでしょうか?」


「……」


「現に、間違いが許されない作業はいまや人間ではなく

 とくに機械化・自動化されていますよね」


「はあ……」


「ということは、人間の探偵による推理よりも

 AIのロボットによる推理のほうが正確だということです!」


「飛躍がすごいな!!」


AIに犯人あつかいされたので逮捕されてしまうなど

ディストピアすぎる推理には真っ向から反発した。


「そんなの納得できませんよ」


「罪を認めましょうよ。納得いかなければ何度でもAIに確認しますよ?」


「頻度の問題ではなくて!」



「では何が問題なのですか?

 ヒューマンエラーをしがちな人間の推理と

 ビッグデータや複雑な思考ができるAIによる推理。

 どちらが正しいかは明らかでしょう?」


「それは……」


「もしかして、本当は犯人だけどそれをごまかすため

 AIによる推理に文句言ってごまかそうとしてるのでは?」


「そんなことはしない!」


「じゃあAIの言う通りあなたが犯人じゃないですか!」


「うあああ八方塞がりだ!!」


AIによる推理を否定すれば、犯人だといわれる。

かといってAI推理を認めれば、そのまま犯人となる。


"YES"か"はい"しかない選択肢があるようでない状態。



「……ちょっとまってくれ」



「なんですか? 言い逃れは見苦しいですよ。

 早く悲しい過去や、犯行にいたった事情を話してください。

 こっちはもう自供用BGMだって準備してるんです」


「あんたがAIで推理した結果を話してるのはわかった」


「当然です。私がカスタマイズした推理用AIですから。

 これまでの難事件のあらゆるビッグデータをインプットしています」


「その推理の結果……本当に正しいのかどうかは確かめているのか?」


「へ?」


今度は探偵が目を点にした。


「多くのデータを扱う。そして機械的な発想で推理するだろ。

 でもAIが出した結論が間違っているか、あっているか。

 そこは確かめたのか?」


「えっと……」


「多くのデータを扱うだけにおかしな出力することもあるだろう?」


探偵にも身に覚えがあった。


人間にとってはごく簡単なことを質問していても、

文脈や行間を読み取れないAIでは明らかにおかしな回答をするケースが有る。


そんなトンチンカンな答えを、間違っていると指摘できるのもまた人間なのだ。



「た、確かに……」



名探偵はその日初めて自分のノールックAI推理を反省した。


「AIに頼って推理するなら、それをチェックする力がないと

 そもそも名探偵。あんた自体もいらないじゃないか」


「たしかにそうだ。私はAI探偵などという肩書にひっぱられ

 いつしかAIの奴隷になってしまっていた」


「おお!」


「大事になのは人間による推理なんだと確信した!!

 これからはちゃんと人の頭で考えることにするよ!!」


「よかった! これで推理し直してくれるんだな!

 それで、本当の真犯人はいったい誰なんだ!?」



その言葉を聞き、名探偵は自信たっぷりに宣言した。



「それはあなたです! 〇〇さん!!」


「またかよぉぉ!!」


ひざから崩れ落ちた。


「さっきちゃんと考えるって言ったよね!?

 なんでまたAI推理と同じ結論を出すんだよ!!」


「いいえそれは違いますよ〇〇さん。

 ちゃんと人間の頭で考えた結果でこうなったんです」


「じゃあ説明してくれ。なんで俺が犯人だと結論づけたんだ!?」


名探偵は嬉しそうにスマホを突きつけた。





「知恵袋で相談した結果、あなたが犯人でベストアンサーだったからです!!」

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