第31話 裏切り者
バァン、と銃声とともに赤い血と悲鳴が木霊した。
村の端にある広場に族長とその関係者、そして特定のエルフが集められている。
囲うようにして集められた特定のエルフを、ヒグレは銀色の銃の装弾数分の人数、六人を銃殺した。ドレッドもラルドも引き金に指をかけて銃を構えている。
この残酷な光景は、族長であるラユゥに了承を得たことで実行している。
泣き叫び、恐怖に身を震わせる集められた者たちを目の前にして、ラユゥと一部の者たちは無言のまま、悲愴に満ちた双眸を向けていた。
このようになってしまった背景には、鴉から伝えられた情報が関係している。
完結に言えば、彼女たちは敵だ。その中にはカメルの姿もあった。
「……、」
ヒグレは空薬莢を輩出し、計六発の
彼らが集められた理由はある事情と特徴だ。それは村の外から移住してきたことも含め、それら全員が通常のエルフより、耳が短いという特徴を持っているということだ。
ヒグレはカメルの言葉を無視して耳の短いエルフを吟味する。
瞬間、子供の容姿をしたエルフが逃げ出そうとして、ヒグレは逃げられないようにワイヤーアンカーを片足に撃ち込んだ。
子供のような甲高い悲痛の叫びをあげ、恐怖に染まった涙目の顔を向けてきた。
「どうして酷いことするのっ! もしかして、ララエちゃんのことで怒って――」
「四十代を超えた人間にしては良く吠えるじゃないか。やはりエルフになったからか?」
「な、なぜそれを――」
ヒグレは四十代の言葉を遮り、銃の引き金を引いて頭部を吹き飛ばす。形骸となったエルフもどきからアンカーを引き抜き、ワイヤーを巻いて、狩猟籠手に収納した。
「領地百年計画。歳月をかけてその土地に住んでいた実績を作り出し、領土の権利を奪っていく計画。怪しまれないようにエルフに成り変わってまでして」
ここまで言ってヒグレは呆れて溜息を吐いた。そして、言葉を続ける。
「異世界人といい、ラノスといい、お前らといい、どんだけだよ。よりにもよって大森林に集結してるおかげで余計な仕事ばっか増えていく。勘弁してくれ」
魔物討伐だけで終わってほしかったヒグレにとって、今回の仕事には愚痴も出る。夕暮れ時の曇り空を仰ぎながらも、ヒグレの視線は両膝を突くカメルに向いている。
「……ぜんぶ知っているんですね」
「情報は組織を通じて派遣されている狩人に通達済みだ。じきに一掃される」
終わりを悟ったカメルは諦めるように俯いた。ほかの者たちも同じように。
耳の短いエルフ。この世界にはいない系統のエルフ。鴉によればハーフエルフであっても耳は普通のエルフと変わらないらしい。人間からエルフ、外見から細胞レベルまで作り替えるほどの高度な技術を用いて成り替わった姿。耳が人間寄りの短いという唯一の欠点を抱えていたとしても、知らなければ今後も魔狩人すら欺いていただろう。
そして、その中にはカメルも入っていた。夫婦であるギオにはこの場に集まれとしか告げていない。彼は今、裏切り者の中にカメルがいる状況に呆然と立ち尽くしている。
「ヒグレさんの言うとおり、私たちは領地拡大のために集められた元人間です。ほかの大森林を追いやられた難民を装ってエルフの領域に住まい、活動をしていました」
「ふむ。本当か確かめるために魔法で記憶を覗く。抵抗したら撃ち殺す」
「……はい」
ヒグレは指をカメルの額に当て記憶を覗き見る。
「……。確かに本当のようだな。報告のとおりだ。だが、ここにいる全員とはいかずとも、人間も裏切ってまでエルフの領域で暮らそうとした理由がわからん」
「そ、それは……」
カメルはギオに視線を向け、すぐに反らした。
「私たちを優しく向かい入れてくれたエルフを裏切ることができなかったからです。同じ気持ちの者もいて、なにより『大丈夫だ』って手を引っ張ってくれましたから」
当時を振り返って微笑むカメル。その表情はとてもエルフを憎む人間のものではなかった。だが、無情にもヒグレの銃は突きつけられていた。
「あの、うちの子は今どこに?」
「ティンが面倒を見ている」
「そうですか……お願いがあります。子供の命だけは助けてもらえないでしょうか?」
自分たちの処遇を悟ったらしい耳の短いエルフたちは大人しかった。最後まで足掻こうともせず、子供の未来だけを願った。
瞬間、ギオがカメルを庇うように間に入った。
「ヒグレ殿、後生だ! どうか、カメルを、この者たちを見逃してもらえないだろうか!」
頭を深々と下げてそう叫ぶギオ。
「いいのか。そいつは人間――」
「そんなこと最初からわかっていた! わかっていたうえで私は妻にしたのだ! だからこそ怖かったのだ。人間であることを外から来たヒグレ殿たちにバレるのが!」
「……最初からわかっていたなら、エルフを名乗るのは難しいはずだ」
「老人たちに頼み込んだ。条件を飲むことで、エルフであると喧伝してもらったのだ」
「……。ふーん」
出会った当初からギオの人間への厳しい対応を崩すことはなかった。だが、そのすべてがカメルを含めた耳の短いエルフをを守るためであった。
「カメルたちが村に来てからか。あれほど森中を駆け回っていたお前が急に大人しくなり、老人たちの肩を持つようになったのは。ギオ、どうして私に相談してくれなかったのだ」
傍観していたラユゥが訊ねた。
「……あの頃は族長になりたてだった。新たな族長の方針に反発する者も多かった時期に迷惑をかけられなかった。許してくれ」
ギオはもう一度、深々と頭を下げた。責める者は誰ひとりとしていなかった。
「話はこれでおしまいにしよう。長引くと面倒だ」
「ま、待ってくれ! 殺さないでくれ! お願いだ! 俺が払えるものがあるなら何でも支払う! この俺の命だって! だから――」
「それはこれからの楽しみに取っとけ」
ヒグレの言葉にギオは顔を上げた。ヒグレは銃の撃鉄を引き戻して懐に収めた。
「手荒ですまなかったな。こちらはある程度の事情は把握してたが、直接カメルさんたち聞かせたかった。これからのためにもなるだろうし」
べつの大森林でも人間を裏切ってエルフと共存を選んだ者たちが散見された。魔狩人からして共存を望んで無害ならなにもしない。だが、耳の短いエルフは敵側にいた存在だ。今は無害であったとしても土地を奪うために来た人間の仲間だったのだ。
信用できるわけがない。
これはヒグレの我儘だ。カメルたちと変わらず仲良くしてほしい。だからカメルたちの気持ちを少しでもいいからこの場にいるエルフたちに知ってほしかった。人選をしてラユゥと関係者一同にはあらかじめ伝えている。強制はできない。こればかりは村の族長であるラユゥとその住民に委ねている。
「それと、領地計画はすでに頓挫している。内通者の死亡により完全に計画は終わりを告げた。もう外からの刺客に怯えなくていい」
「それは――」
「鳥畜生からの仕事は終わった。あとはそちらに任せる」
ヒグレはそう言って仲間二人とともにその場を離れた。
「余計なことをしたかな」
「どうだろうな。良くも悪くもと言った感じだ。結局のところ、俺たちが内通者を殺せばバレていた。なにもしないよりかはよかったんじゃないか?」
「……かな」
不安だけが積もるヒグレは俯いた。すると、ドレッドが肩を叩いた。
「気になるなら、後ろ見てみろよ」
ドレッドに言われるがままヒグレは後ろへ向くと、そこにはカメルたちに寄り添う村のエルフたちの姿があった。ティンが預かっていた赤ん坊をカメルに手渡しているところだ。
誰も、カメルたちを責めるような者たちはいなかった。なにも変わっていなかった。
「……、」
いまだ心残りはあるヒグレだが、今は幸福が続くことを願いながら踵を返した。
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