経緯です経緯でした

活動初期の2017年3月14日から2019年11月にかけては一般的な食事が多かった。

朝はトーストとカップスープ、あるいはシリアルやグラノーラなどの簡素なもの。昼はコンビニのおにぎりや総菜、稀にキッチンカーなどで購入するようなサンドなど。夜はスーパーの総菜や弁当、レトルト食品や簡単な煮込み料理といった具合。

この期間には特に変わった食事内容はなく、これに対する当時のインプレッション数も一桁や二桁程度で落ち着いていた。


ところが2019年12月中旬頃からは朝食がシリアルのみになり、昼食にはプロテインバーとゼリー飲料、夕食は二割引きの惣菜かカップ麺、あるいは無しであることが増えていく。写真の背景にもオフィスのものと思しき机が頻繁に入り、家に帰れていないと取れる期間もあった。

2020年1月11日にはその変化を見た少数のフォロワーが、「食べます食べました」に体調を気遣うリプライを送る。しかし「食べます食べました」からの返信はなく、食事内容にも改善は見られなかった。

2020年1月20日、これを危ぶんだフォロワーの一人が「食べます食べました」の変化をまとめ心配する投稿を行った。すると、数日でリポスト数約200、いいね数約500、総インプレッション数10000強の小規模なバズが起き、「食べます食べました」に対する認知度が上昇。「食べます」・「食べました」投稿への反応も徐々に増加。

これに思うところがあったのか、「食べます食べました」の食生活は徐々に改善し、写真の背景も灰色の机の上から暖色のライトが照らす食卓や料理店の机へと変わっていった。


2020年1月中旬から「食べます」・「食べました」のみを淡々と投稿する様子の不気味さやシュールさで人気を集めてきたこのアカウントは、2020年3月14日に投稿されたケーキの「食べます」・「食べました」報告によって再度バズる(ケーキにはアカウント稼働三周年を表してか、カラフルなロウソクが三本刺さっていた)。

このときは、botのように無機質に思えた投稿者がフォロワーの改善勧告を受け入れてきたこと、お祝いをする情緒があったことなどに人間味のある愛らしさを見出す反応が散見された。


しかし、「食べます食べました」はこれに味を占めたのか、1万人を超えたフォロワーから反応を引き出すような食事を増やしていく。

2020年4月12日の夜は39個のゆで卵、5月19日の夜には野菜が山と盛られたラーメン、6月17日の昼には大量の知育菓子、6月30日夜には当時SNS上で話題となっていたバーニング焼きそば(激辛)、7月7日夜には螺旋状に美しく積まれた笹団子、7月15日夜にはスイカ一玉(「食べました」の画像から、スイカ割りで一度粉砕したことが窺える)など。

この4月から10月にかけての半年間はバズる狙いを感じさせるネタ的な投稿が増加し、インプレッション数・フォロワー数ともに増加する。

しかし11月から翌年1月にかけては、繁忙期なのかネタ切れなのかそれまでに比べ平凡な食事内容に戻っていた。


この伸び悩みの時期を打ち破ったのは、2021年2月20日昼の投稿で、路上に落ちたケバブサンドが撮影されていた。

正確には、この投稿がなされたその時には大した反応が起こらなかったのだが、「昔からのファン」を自称する芸能人が21日に引用リポストしたことで世間に発見され、さらに多くのユーザーによって半ば大喜利のように写真が利用されて大きな話題となった。

この影響により「食べます食べました」のアカウントにも新たなフォロワーが流れ込み、再び味を占めたのか食事内容のネタ性も強くなっていく。SNS上の人々はそれを「素材供給」と呼んでもてはやし、より大きな流行を形作っていく。この頃には、「食べます食べました」を「する前」「した後」を報告するテンプレとして模倣した投稿やそのためのアカウントも急増した。(大手家電企業や食品会社なども便乗の投稿を行っていたが、後述の事件後密かに削除した)

こうして「食べます食べました」は「W」(旧Tweater)における2月~3月期のトレンドとして人々の記憶に残ることとなる。


事件が起こったのは流行が去ってから8ヶ月後。2021年11月11日夕方の投稿だった。

3月頃から拾い食い、悪食系の投稿を日常的に行うようになっていた「食べます食べました」は、この日も道に落ちていたものを「食べます」と書き添えてアップロードした。

それは一見するとただのティーバッグにしかみえないもので、本人もおそらくティーバッグだと思って食したのだと思われる。

しかしこの11月11日16:12:40「食べます」投稿後、これまで4年以上20分程度で一定だった「食べました」投稿が途絶えた。この日のトレンドには久しぶりに「食べます食べました」の文字がトレンドランキングに上がったが、その日の夜になり、次の日の朝になり、昼が過ぎ、また夜になっても「食べました」の投稿がない。Wでは音信不通となった「食べます食べました」を「失踪します失踪しました」「入院します入院しました」等と揶揄する投稿がさっそく拡散され、何本かのネットニュースまで執筆された。


沈黙が破られたのは一週間が過ぎた11月18日16:32:44の「食べました」投稿。

しかし添付された画像は、今までのような食後の皿や袋の写真ではなく、真っ暗な森のような場所で撮られた手振れの酷い写真だった。

画像の解釈については考察の項に譲るが、この時「食べます食べました」が撮影対象としていたのは、落ちている「」だったのではないかという説が有力である。


そしてこれ以降、「食べます食べました」の投稿は狂気を帯びたものとなる。

暗い森を写した「食べました」投稿の次に「食べます」があったのは11月20日午後。画像には大量の竹串をハリネズミのように生やしたフランスパン。「食べました」の画像ではパンくずと大小様々に散った竹串の乗る皿が撮影されていた。

11月27日昼の「食べます」投稿では三つ分のハンバーガーの具材がなぜか種類ごとに分けて皿に置かれている。「食べました」では皿がひっくり返っていたため、ハンバーガーがどうなったのかは不明。

12月1日夜の「食べます」は煌々と光るシーリングライトが投稿され、「食べました」では粉々に割れたライトの破片が写っていた。


「食べます食べました」は上記同様の、到底食べたとは思えない食事の写真を淡々と投稿した。11月には新たな展開に湧いていたフォロワーやネット民も、12月に入ってもなお終わらない悪食の投稿に辟易。以前からあった「食べてません」疑惑や飽食・食傷の評価が噴出し周辺界隈は連日剣呑な雰囲気を醸していた。それでも「食べます食べました」のは止まらず、アンチによる特定作業やアカウント通報煽動も過激化の一途をたどっていく。


そして、2022年1月10日2:22:01。「食べます食べました」は最後の晩餐を始める。

投稿に付された画像は月明かりだけが照らすゴミまみれの部屋で、机の上に転がってカメラを見ている猫が写っていた。

2:42:25、最後の「食べました」が投稿される。

猫好きの方々には、今からでもブラウザバックしていただくことをおすすめするが……。




添付された画像の猫は、首元から腹部にかけて骨や内臓が食い破られたように露出し、酸鼻を極める状況だった。[画像①]


この投稿はもちろんWの規約違反であるため、通報を受けたW運営会社によってアカウントは迅速に凍結。

「食べます食べました」事件は呆気なく幕を閉じることとなった。



(2022年2月以降「食べます食べました」の中の人を騙るアカウントが無数に現れたが、そのどれもが本人である証拠を提示できていないため、この記事では後日談として扱わないこととする)

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