第二章 初めての出会い

 私・姫柊沙月には大学に入ってしばらくして人生初めて彼氏という存在ができた。

 今まで異性との関わりがまったくなかったため当時はすごく驚いたことを今でも覚えている。

 確か彼と出会ったきっかけはほんの些細なことだったと思う。

 「……あの、落としましたよ」

 たまたま大学に向かう途中の駅のホームで私が落とした定期入れを拾ってくれたことがはじまりだった。

「あ、ありがとうございます」

 最初はそんな感じだった。

 それからしばらくして。

 私たちは駅のホームや大学内でたびたび合うことが増えた。

「…………あ」

「この前はどうもありがとうございました」

 そうした偶然が重なっていき、少しずつ話すようになっていた。


そんなとある日の空き時間。私たちは大学内にある図書室にいた。

「へえ、姫柊さんって文学部だったんだ」

「…………そうなんです」

「実は俺も文学部なんだ」

 泰輝が嬉しそうに言う。

 入学してから半年が経とうしているのに私たちは誰もいない図書室でそんな今更な話をしていた。

 本来は大学に入るとサークルの勧誘会などが開催されるらしいのが、私はそういった集まりは苦手なために出席していなかった。どうやら、彼も私と同じく勧誘会には顔を出していなかったそうだ。

 そんな他愛もない話からお互いの身の上話をしたりと静かな空間で楽しいひと時を過ごした。


 泰輝と話すようになって数日後。

 大学の学食で私たちは一緒に昼食を食べていた。この日は食堂がすごく込み合っていて、たまたま空いていた泰輝の対面の席に入れてもらったのだ。

 どうやら昼食の途中だったらしく、軽く会釈をしてから席に着く。

 泰輝の方をちらりと見るとすごくおいしそうな定食を食べていた。

「姫柊さんってそういうの食べるんだね。すごくおいしそう」

 と泰輝が優しい笑顔で話しかけてくれる。

「別にそんなことないよ」

「篠原くんの方が美味しそうだよ」

 と、お互いに近況報告などをしながら楽しいランチタイムを堪能する。

 久しぶりに話せて浮かれていた私はそんな当たり障りのないことしか言えなかった。そんな私に泰輝は「姫柊さんってすごい律儀だよね」と褒めてくれたのだ。

 その言葉が嬉しくてだんまりこくってしまう。

「どうしたの? 篠原さん。もしかして俺変なこと言った?」

 私を気遣ってくれた泰輝がそう声をかけてくる。

 そして心配して私の顔を覗き込んできた彼の顔が一瞬で笑顔から羞恥の色へと変わり慌てて視線を逸らす。

 そんな彼を見た私は思わず「ふえっ―――?」という素っ頓狂な声を出してしまった。

「そ、それより姫柊さん……あの―――」

 再び、昂輝が私に声をかけてくるがどこかぎこちないというか、よそよそしい。

 何だろうと思いながら泰輝の顔を見ていると。

「あの――――す、スカート…………」

 か細く消えりそうな声で指摘をされて自分のスカートに視線を向けると。

 なんと今にも下着が見えそうになっていた。

 電光石火の勢いでスカートを押さえて中が見えないように隠す。幸い、正面しかはだけていなかったようで周りの人には見られずに済んだようだ。

 正面に座っていた泰史はは仄かに顔を赤らめながら視線を明後日の方向に向けていた。

「ふぁぁぁ―――――――――――」

 わざとはないとはいえ、最近話すようになった異性に食堂で事故とはいえ下着を見せようとしていたなんて……。

 羞恥心のあまり動けずにいる私に「大丈夫だよ、姫柊さん……俺見ていないから」

 と、泰輝がさりげなくフォローしてくれる。

 その後はお互い気まずい空気の中、昼食を食べるのだった。


午後の授業にが終わり、講堂を出た私はちょうど目の前に見知ったシルエットを見つける。

「…………あの、篠原くん」

 沙月は小さな声で泰輝のことを呼び止めていた。

「あ、どうしたの? 姫柊さん? 」

「あの、お、お昼の時は…………」

 指をもじもじよさせながら言葉に詰まる沙月を見た泰輝が思い出しように顔を赤らめさせる。

「あ、えっと…………。その件ならもう大丈夫だから気にしないでいいよ」

 と、 少しあたふたとした様子でフォローしてくれた。

「…………あ、ありがとう」

 同じく顔を赤らめる沙月だった。


「へえ、こんなジャンルの本もあるんだね」

 何度もかかわっていくうちに意気投合した私たちは気がつば恋人のような関係になっていた。あくまで〝のような関係〟であるが――――。

 そんなじれったい関係がしばらく続いたとある日。

「姫柊さん、いや、姫柊沙月さん…………俺と付き合ってください!」

 いつものように大学が終わった後。

 近くのカフェで他愛もない話をして帰ろうとしたときにそう言われた。

「…………っえ!?」

 昂輝の言葉を訊いた私は一瞬、頭が真っ白になる。

「ダメかな…………?」

 私の反応がないことを心配した泰史が不安げに訊いてくる。

「えっと―――あの―――」

 まっすぐな泰瞳に射貫かれる。

 しばらく気まずいくらい無言な空気が流れる。

「わ、私―----」

 煮え切らない私の対応に痺れを切らした昂輝がギュッと距離を詰めてくる。

「誰よりも大切にするから、俺と付き合ってほしい」

 私の耳に囁くように言ってくる泰輝の勢いに押された私は…………。

「…………はい、よろしくお願いします」

 消えりそうな声で返事をする。

 こうして私と彼の恋人としての物語が始まった。そして終わりの始まりでもあった。

  





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