第13話
散歩途中
コロ助は本当に俺を嫌っている。
それにかなり自由に散歩するので、俺が引きずられているようだった。
コロ助は茶色の雑種で顔は可愛いのに、他の犬に行き会えば、敵意剥き出して吠えまくる。なので、素敵な飼い主さんとの出会いもままならなかった。
朝は叔母さんが散歩させているみたいだが、との時は「そんなことないわよ?」と不思議そうに言われた。どうやら俺の前だけは酷い態度らしい。
「そろそろ散歩を終わりにしませんか?」とコロ助に言うと、歯を剥き出して唸り始める。
なのでため息をつきながら、ぐるぐる家の周りをしている。部活の終わりでくたくたで疲れていてもそんなことはお構いなしに走り出したり、自由気ままな散歩を楽しんでくれている。
ところが今日は駅前まで来たので、思わず買い物帰りの女史と出会ってしまった。
「あ、お使い?」と聞いたら、
「散歩?」と被せて行ってきた。
「そうなんだ。こいつ…叔母の犬なんだけど…言う事あんまり…っていうか全然聞かなくて」
「そうなんだ。…じゃあ」と言って、去ろうとする女史の後をなぜかコロ助はついて行った。
「あ、こら」と言っても言うことを聞かない。
「家はこっち方向なんでしょ? 入学式の帰り道、一緒だった?」
「あ、うん。そうなんだ」と返しながら、つけていたことがバレていないだろうか、とドキドキした。
ドキドキしたついでに聞いてみることにした。
「あの一緒にいた人って…お兄さん?」
「あの人、お父さんの後輩」
「え? そうなんだ」
(お父さんの後輩? どうしてその人が買い物袋を持つことになるんだ?)と聞けないことが胸を巡る。
「どう見えた?」と思いがけず、考えていることを逆質問されてしまう。
「どう…って。後ろ姿しか見てないから」
「そっか」
「あ、そう言えば、美術の先生。なんで休んでるんだろう? 元気そうだったけど」
「病気かもね? 倒れたんだから」
「女史が何か知ってるかと思って」
「それは…」
人差し指を上下にさせて、俺の名前を思い出そうとしているらしい。ひと月も同じクラスメイトだったと言うのに、俺の名前すら覚えていないようだった。
「吉田勇希」
「そうそう。吉田くんの方が詳しいと思うよ。私は音学専攻だし。休んでいるのも知らなかった」
やはり女史は知らないとそのまま歩き出した。
その後を追うように歩いていたコロ助だったが、「ワンワン」と向こう側の散歩中の犬に吠える。
「待て」
綺麗な声だが、ピリッとした声が響く。コロ助はまるで痺れたように動きを止めた。それ以上は吠えることをやめて、大人しく座っている。
「賢いね。いいよ」
その声でコロ助は歩き始めた。
(犬まで手名づけるとは…)と俺は心底恐れを成した。
「もっと自信を持って。それだけ大きい身体なんだから」
「はい」と思わず背筋を伸ばしてしまう。
その様子を見て、女史は軽く笑った。
その笑顔を見た俺は、俺だけが少し特別な存在になったような気持ちになった。
「清香」
振り返ると、お父さんの後輩が立っていた。
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