第13話 カドモシ市の大聖堂

 馬車は街道を行き、二刻ほどしてカドモシ市に入った。


「わあ、綺麗な街」

「水路と緑の街と呼ばれているよ」

「ここはリンデル王国領ですか?」

「いや、独立した宗教公国だぜ、さすがにリンデルに王子さまは連れていけねえし」


 クランク師が答えた。


 大きな丘に沿って水路が走り、丘の上には大聖堂があった。

 馬車は大聖堂の馬車回しに止まった。


「やっぱり馬車は早いね」

「今日は歩いてここに泊まるはずでしたね」

「大分時間を得したねえ」


 ゾーヤは馬車を降りて僧侶さんに、ケイロン師へのおとないを伝えて貰っていた。


「かしこまりました、お待ちください」


 ああ、やっぱりお坊さんは丁寧で良いね、とターラーは思った。


「あ、ターラーちゃん!!」

「きゃあ、ローパーちゃん!!」


 ワルプルギスの夜市で知り合った、バイト仲間のローパーとの早い再開だった。


「ローパーちゃん、この街だったんだ」

「そうだよー、ターラーちゃんは戦場帰り?」

「そううよ、怖かったけど儲かったよ」

「いいなあいいなあ」

「おう、戦場で働きたいならランドランドに来いよ」

「えーやだ、ランドランドはご飯美味しくないって」

「にゃろう」

「す、すいませんね、お嬢さん」

「あ、あ、ランドランドの人ですか、すす、すいませんっ」

「ローパーちゃん、ランドランドの王子様のクリフト様よ」

「ぎゃーーー!!」


 その後はローパーの平謝りで、クリフト王子は苦笑して許してくれた。


 ケイロン師がスリッパをパタパタ鳴らしてやってきた。


「どうしたんだい、ローパー」

「お師匠さま、私、王子様にご無礼を」

「ああ、いえいえ、良いんですよ」


 ゾーヤーは前に出た。


「ケイロン、これはクランク、そしてそのお方がランドランドのクリフト王子様だよ」

「ああ、私の顔を見に来てくれた訳じゃ無いのね」


 クランク師は頭を下げた。


「戦場でクリフト王子が膝に怪我をした、どうか、みてくれないだろうか、ケイロン師」

「初めましてね、クランク師、お噂はかねがね、クリフト王子、災難でしたね、こちらへどうぞ」

「見てくださるのですか」

「うちの弟子が無礼をしましたからね、特別ですよ」

「お師匠さま、ごめんなさい」

「いいのよ、ローパー。ゾーヤ、今日は大聖堂の宿坊にお弟子さんと一緒にお泊まりなさいな」

「いいのかい?」

「いいのよ、友だちでしょ」


 ゾーヤーとケイロンは目を合わせてにっこり笑った。


「私のお師匠さまと、ターラーちゃんのお師匠さまは、私とターラーちゃんぐらいの時に知り合って、仲良くなったのよ」

「じゃあ、ローパーちゃんも将来は大聖堂の大聖女さまだね」

「えー、自信無いなあ」

「きっと成れるよローパーちゃん」

「えーー」


 僧侶さんがやってきて、ゾーヤとターラーを案内してくれた。

 大聖堂の宿坊は清潔で素敵な部屋だった。


「良い所ですね」

「料理も結構美味いでよ」

「おおっ」


 荷物を片付けていると、クランク師がやってきた。


「ゾーヤ、ありがとう、助かったぜ」

「まあ、気にすんな、魔女は助け合いだよ、あんたも宿坊で泊まんのかい?」

「いや、馬車で帰る、クリフト王子は一週間ほど入院だそうだ」

「そうか、気を付けて帰りなよ」

「ああ、じゃあ、またな」


 そう言って、クランクは去って行った。


「戦場だと狂犬みたいな人だけど、普段はわりと普通なんですよね」

「あたりめえだ、常時狂犬の魔女は、なんとなく死ぬからな」

「なんとなくですか」

「そうだ、なんとなくな、魔女の道々だからな」


 部屋で一休みすると、ローパーが晩ご飯を誘いに来た。


「お食事は大食堂でみんなで取るのよ」

「そうなんだ、行こう、師匠」

「おお、そうだの」


 大聖堂の大食堂は明るくて清潔であった。

 

「あら、クリフト王子さま」

「あ、ターラーさん、ゾーヤ師、一緒に食べませんか、一人だと寂しくて」

「お付きの人は……?」


 ターラーは見回した。

 だが、王子には執事もメイドも付いていなかった。


「王宮にはいるのですが、はは、戦場には連れてこれなくて」

「ああ、そういう」

「謹んでお受けしますよ、クリフト王子」

「はいっ」


 トレイにお料理を取って、クリフト王子と同じテーブルで食べた。


「これは美味しい」

「おいしいですよね」

「大聖堂は食事も研究してるんさな」

「お二人は明日出発ですか、寂しくなりますね」

「一週間の入院頑張ってくださいね」

「ローパーがおりますから、クリフト王子さま」

「はは、そうですね、ローパーさん」


 クリフト王子はなんだかイケメンで女たらしかもしれないな、と、ターラーは警戒した。


 食後に檸檬のシャーベットまで付いて、ターラーは満腹であった。


「ターラーちゃん、大聖堂には温泉も湧いているんだよ、一緒に行こうよ」

「温泉! マジに? 師匠も行きましょうよ」

「いいねえ」

「こ、混浴ですか?」

「い、いえ、男女別です、信仰の場所なんで」

「はは、そうですよね」


 クリフト王子は照れ笑いをした。


 大聖堂の地下温泉は広く、そして良く暖まった。


「ああ、ここが天国か」

「あんたあ、良い所に行くたびにそれだね」


 ベットの中で伸びたターラーに向けて、ゾーヤは言ったのである。

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