魔女の道々
川獺右端
第一章 魔女と弟子
第1話 水魔女メリンから風魔女ゾーヤ
鉱山都市アリラカの話しだ。
その日は暑い日でアリラカの街もカラカラに換装して黄色い土埃が巻き上がり、じりじりとした日差しが照りつけていた。
路上に小さい女の子が血まみれで倒れていた。
下半身に下履きを履いていない。
少し離れて鬼のような形相の工夫の男が、これまた下半身丸出しで怒鳴っている。
「俺のチンコを魔法で斬りやがったっ!! この犬畜生めっ!! 殺す殺す」
「うるせえべらぼうめっ、こちとら華店の下働きだがチンコつっこまれる商売はしてねえんだっ!! その馬鹿チンポを完全に斬り落としちゃるっ!!」
そういって、小さい子は緑色の
ひいっ、と男は体を竦めたが、命中率は悪いのか建物の柱に食い込んだだけで被害は終わった。
野次馬がどっと笑い、はやし立てた。
しん……と、野次馬が静かになった。
水色の髪の中年女性がこの鉄火馬に出て来たからだ。
女は使い古された汚れたマントを着ていた。
片手に綺麗に輝く高そうな杖を持っていた。
なかなかの美しい中年女性であった。
「水源の魔女メリン……」
どこからともなく、魔女の名前がつぶやかれ、野次馬は恐れおののいた。
めったに居ない魔女の中でもとびきり強いと噂の一人であった。
「その子はどこで買えるのかしら」
華店の大将がメリンの前で平伏した。
「へ、へいっ! そ、その、き、金貨二枚、金貨二枚でやすっ」
「そう、安いのね」
高えよ、とだれともなく野次馬がつぶやいた。
メリンは気にも止めず大将の前に金貨を落とした。
「おいっ!! タラント!! 俺は金貨三枚出す!! このガキを殺して死骸を弄んでやらねえと俺の気持ちがおさまらねえっ、だからっ!!」
メリンの指が工夫の額を指さした。
「な?」
豪運と共に水流の弾丸が工夫の額を打ち砕き、脳漿を辺りに飛びじらした。
「子供にチンコ突っ込むようなゲスは生かしておくわけないじゃないの」
子供はメリンの指を見、工夫の弾けた頭を見た。
「す、すげえすげえっ!! 私もその魔法、使いたいっ!!」
「お前はだめだわ、属性がちがうから、名前は」
「だ、だめなのかあ、格好いいのに……、ゾーヤだよ、おばさん」
「おばさんじゃない、メリンだ、私の事は師匠って呼べ、お前は風属性だから、もっと華麗に切り刻む術を覚えられるよ」
「ほ、本当かっ!! 本当に魔法がおぼえられるのかっ!!」
「そうだよ、魔女はこうやって弟子を取り、色々な事を教えて増えて行くんだ」
「わ、私は魔女になるのか」
「なるとも、それも強い魔女にな」
「教えてくれるのか、その、し、師匠!」
「ああ、なんでも必要な事を教えてあげる。人との契約の仕方、魔法の使い方、迷宮の潜り方、魔物の倒し方、悪党どもの殺し方。魔女に必要な事全部だ。だからまずは、パンツを履きなさい」
ゾーヤは慌てて道に落ちていた自分のカボチャパンツを履いた。
「それでいい、魔女はエレガントに、が最初の教えよ」
「はい、師匠!」
鉱山都市アリラカで出会った二人はすぐ親子のように仲良くなり、ゴルンダ大陸のあちこちを旅して回った。
迷宮に、王宮に、都市に、村に、二人は流れて、思い出を作り、色々な事を教わり教えながら旅を続けた。
そして二十年経って、エリンは病みついて村で寝込んだ。
ゾーヤの死なないでくれという願うが、優しい顔をした師匠は黄泉路に旅立った。
ゾーヤは声を上げて泣いた。
『私が死んだら、ゾーヤは泣くだろうね、でもね、それは当たり前の事で、次はゾーヤが師匠をやる番なのよ』
そんな言葉を思いだしていたが、ゾーヤには師匠をやる覚悟なんかは湧いてこなかった。
「私は馬鹿だから師匠みたいには出来ないよ。ああ、師匠なんで死んでしまったんだろう」
ゾーヤがそんな事を考えて捨てられた子のように泣きながら十年放浪の旅を続けて居た時の事。
ある騎士領で、騎士側に雇われたゾーヤは農民反乱軍の中にファイヤーボールを使う子供の姿を見つけた。
一目見て、魔女だと解った。
一目見て、これが私の弟子なんだなって解った。
なので騎士団長に交渉を仕掛けた。
「騎士団長、私はあの魔法を使う子供が欲しい」
「欲しいとはなんだ、奴を殺すために大枚を払ってお前を呼んだのだぞ」
「あれは私の弟子だ、彼女を連れて他の街に行くからそれで勘弁しちゃあ、くれませんかね」
騎士団長は考えこんだ。
彼的には農民反乱が収まれば良いので手段自体はどうでもよい所があった。
「彼女の名前は?」
「ターラー、火付けのターラーだ」
「そうですかい」
初めて会ったころのメリン師匠の気持ちが初めて解った。
そうか、こんなに弟子を取るとは高揚する物なんだなあ。
とゾーヤは思った。
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