出迎えたのは無知な第二皇子
「……面白いですね。まさかこの私と、戦うつもりだなんて」
人間の姿で不敵な笑みを浮かべるメルさんと、傍に控えるメルザさん。
二人の目の前には、皇宮を守るかのように展開し武器を構える帝国軍がいた。
だけど、これは無謀というほかない。
クラウス達が三か月前で暴れた時の傷は全然癒えてなくて、今も帝都は半壊状態。
どう足掻いても、メルさんに勝てる見込みはないっていうのに。
「きっとメルさんが人間の姿をしているから、侮っているんだね」
『そうじゃろうな。わしの姿を見て震え上がっておったくせに、少々見た目が変わっただけであの態度じゃ。本当に情けない連中じゃの』
「あ、あはは……」
コンラートさんの言葉に、僕は苦笑するしかない。
たとえ見た目が人間でも、竜であることに変わりはない。仮に人間を使者として送ったのだとしても、無下に扱えばその時は竜による報復を受けるだけだ。
でも。
「そんなことも分からない人達なのかな……」
対峙するメルさんと帝国軍を
乳母のポルケ夫人や使用人達はともかく、少なくともあのヘルトリング宰相がそのことに考えが及ばないなんてことはあり得ないと思うんだけど。
「コンラートさん。メルさんが人間に負けるなんてことは絶対にないと思いますけど、念のため僕達も、いざという時はすぐに加勢できるようにしましょう」
『はっは、ギル坊は心配性じゃな。姫様に限って、万に一つもそんなことはあり得んわい』
「それはそのとおりですけど……」
コンラートさんはそう言うけど、僕は嫌な予感が拭えない。
帝国が、クラウスと同じように女神と呼ばれる存在から竜を打倒する力を与えられていたのだとしたら、このような強気な態度を見せるのも頷ける。
『ふう……分かったわい。もしもの時があれば、即座に加勢するとしようかの』
「ありがとうございます」
『なあに、礼には及ばん。何せギル坊がそこまで気にするんじゃ。なら、わしはそれに従うまで』
そう言って、コンラートさんは笑ってみせた。
僕の懸念を受け入れてくれたことに感謝しつつ、下で行われている成り行きを見守っていると。
「黙れ! 帝都プラルグを破壊し、誇り高き帝国に対して従属せよなどと……第二皇子であるこのギュンター=フェルスト=ハイリグスが決して許しはせん! たかが竜ごとき、我等帝国軍が討ち取ってくれるッッッ!」
帝国軍の先頭で、馬上からメルさんに剣の切っ先を向けるギュンター皇子。
彼は僕が皇帝に初めて面会した時に、あの部屋にいた兄のうちの一人。確かあの場で、皇帝から北を攻めるように命令されていたっけ。
……ああ、なるほど。ギュンター皇子は北へ遠征に行っていて、三か月前のクラウス達や一か月前のコンラートさんの姿を目の当たりにしていないから、竜の恐ろしさを理解していないんだね。
帝国が強気なのも、派兵していた帝国軍が戻ってきたことで戦力を用意できたことが大きいのかもしれない。
「ふふ……これ以上笑わせないでくれるかしら。この国に住むニンゲンの男というのは、相手が女子供と分かればそんな偉そうな態度を取れるのね」
「っ! 黙れこの下郎が!」
きっと彼は第二皇子という立場もあって、自尊心が非常に高いんだろう。
「まあいいわ。……ところでエルザ、一か月前にコンラートとあなたに恐れをなしてお漏らしをした王様というのは、一体誰なの?」
「先程から捜しているのですが、どうやらここにはいないようです。きっと恐くなり、尻尾を巻いて逃げ出したのではないかと」
「ああ、そういうことね。無駄なことを」
淡々と告げるエルザさんの言葉を受け、メルさんは呆れた表情を浮かべた。
「フン! 貴様等のような者に、皇帝陛下が相手をすると思っているのか! むしろこの俺が出張ってきただけでもありがたいと思え!」
鼻を鳴らしてギュンター皇子は息巻いているけど、メルさんは全く意に介していない。というより、完全に無視していた。
多分、メルさんにとって彼は羽虫以下の存在でしかないんだろうな。
「……メルセデス陛下、これ以上屑であるニンゲンに付き合う必要はありません。いずれにせよ、目の前の
「待ちなさい。あなたの言葉を借りると、『屑であるニンゲン』の中にギルくんが含まれてしまいます。撤回なさい」
「いいえ。ギルベルト様はニンゲンではなく、『素晴らしい特別なニンゲン』です。むしろ分からせるためにも、ここではっきりと差別化しておく必要があると具申します」
「ふふ……確かに貴様の言うとおりね。ギルくんがこんな有象無象と同じだなんて、あり得ないもの」
メルさんとエルザさんの会話を聞き、僕は思わず両手で顔を覆った。
たくさん褒めてくれるのは嬉しいけど、そ、その……恥ずかしいです。
「分かったわ。エルザの言うとおり、まずは
そう言うと、メルさんは帝国軍の後ろにある皇宮を見据える。
そして。
――――――――――ッッッ!
メルさんが大きく口を開くと魔法陣が現れ、紫電を纏った漆黒のブレスが皇宮の上半分を一瞬にして破壊した。
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