僕達は対策を練る
「ぬうううう……っ! まさか先の『王選』の裏にそのようなことがあったとは……っ!」
コンラートさんは顔を真っ赤にし、歯ぎしりをする。
まさしく怒髪天を突くといった様子だ。
でも、いくら怒ったところで今さら結果は変わらない。
彼がメルさんを見捨てたという事実も。
とはいえ。
「きっと次の『王選』でも、クラウスって男は何か罠を仕掛けてくるに決まっています。なら、今度こそメルさんに力を貸してください。前回の『王選』でメルさんを見捨てた、その罪を償う意味でも」
「お主に言われずとも! このコンラート=ガルグイユ、命に代えても姫様をお守りいたしますぞ!」
コンラートさんは勢いよく立ち上がり、厚い胸板を思いきり叩いた。
「メルセデス殿下、ギルベルト様。このエルザめの命、どうかお役に立ててくださいませ」
エルザさんも立ち上がり、胸に手を当てて優雅にカーテシーをする。
表情に変化はなく、その洗練された動きからはどこか冷たさを感じた。
だけどその藤色の瞳は、明らかに怒りを
「そ、その、勝手にこんなことを決めちゃったんですが……」
僕はメルさんへと向き直り、おずおずと告げる。
本当なら二人のことを、憎くて仕方ないはず。なのに僕は、彼女の気持ちを無視してしまったんだから……って。
「私のためにそうしてくれたんですから、駄目なんて言えるはずがないじゃないですか」
「あう……」
僕のほっぺたを両手で挟み、メルさんは苦笑する。
だけど、彼女の顔はお互いの息がかかるほど近くて、鼻だって触れてしまいそうで、僕はどきどきしてしまう。
「ですが、これはまた一つお願いを聞いていただく必要がありますね」
「あ、あはは……僕にできることだったら……」
どこか含みのある笑みを浮かべるメルさんに、僕は苦笑して頭を掻いた。
でも、彼女のお願いは可愛いものばかりなので、むしろ全然嬉しかったりするんだけど……って。
「「…………………………」」
何故か二人から、すっごく見つめられてるんだけど。
ただ、コンラートさんは驚いた表情を浮かべているのに対し、エルザさんの視線は、そのー……ひょっとして、嫉妬なのかな。
……うん、気にしないでおこう。
◇
「そうすると、『王選』に挑む際はクラウスの意表を突く必要がありますね」
夜になり、僕達は火を囲みながらクラウスとの『王選』に向けた打ち合わせを行う。
ちなみに火を起こしてくれたのは、コンラートさんだ。
なんでも彼は火を得意とする竜族とのことで、炎を吐いたり……ああ、ブレスっていうらしいよ。とにかく、火に関しては竜族でも右に出る者はいないんだって。
一方で、メルさんの侍女を務めていたエルザさんは、毒を得意とする。
彼女の牙には猛毒が仕組まれていて、噛まれたらたとえ竜でも身体が腐れ落ちてしまうとのこと。ちょっと恐い。
それに、エルザさんも他の竜族と同様にブレスを吐くことができるらしく、やはり毒……というより、何でも溶かしてしまう酸のブレスだそう。
聞けば聞くほど恐くなってくるし、何なら彼女は今も僕を見ている。いつか殺されてしまうんじゃないかと、僕は気が気じゃないよ。
「ですが話を聞く限り、クラウスって男はとても狡猾だと思います。ひょっとしたら、既にメルさんを迎え撃つ準備が整っているかもしれません」
「むう……厄介な」
僕の言葉に、コンラートさんが
二人の情報は大いに役立ったけど、それでも、何を考えているのか分からないだけに二の足を踏んでしまう。
「もう少し、情報があるとやりやすいんですけど……」
「……そうですね。手っ取り早く、ドラグロア兵を一人二人
「い、いえ、それはやめておきましょう」
エルザさんが物騒なことを言ったので、僕はそれを止めた。
末端の兵士を捕まえたところで、きっと二人以上の情報なんて持っていないだろうし、下手に手を出すことで逆に追い込まれてしまうかもしれないから……なんだけど。
「え、ええと……どうしました?」
「あ……ふふ、ギルくんはまだ子供なのに、私達よりも色々なことを考えていて、すごいなって思いました」
「そ、そんな……」
メルさんに褒められてしまい、僕は照れて頭を掻いた。
こういったことは皇宮の書庫で読んだ本の中にあったから、それを参考に色々と考えてみたんだけど……えへへ、役に立つことができて嬉しいな。
「あ、で、でも、少なくとも前回の『王選』のような、毒を用いるという方法はないですね。だって、僕達の中にメルさんに毒を盛ったりするような人はいませんから」
「そうですね」
そう告げる僕に柔らかい笑みを見せつつも、メルさんはコンラートさんとエルザさんに鋭い視線を向けた。
これでいい。もし二人のうちのどちらか、あるいはその両方がクラウスの手の者だったとしても、下手な真似はできないはず。
「さあ、他にも向こうがどんな手を打ってくるか、色々と考えましょう。たくさん考えて、悩んで、無駄になることはありませんから」
「ふふ、はい!」
夜が更ける中、僕達は尽きることなく対策を練り続けた。
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