【実食】古今東西:レア自販機飯

「これこれ、そっちはエログッズコーナーじゃ、回れ右せい」


「そんなのもあるのっ!?」


 回れ右して僕はチーズバーガーを買った。お値段は10シルバー銅貨5枚。

 ニジエールさんは海鮮ヌードルを買った。お値段は10シルバー銅貨4枚。


 海鮮ヌードルを選ぶとはこのロリババァ、わかっておる……。

 バーガーの加熱が終わると、商品口からあつあつのチーズバーガーを取り出して、ニジエールさんの前で頬張った!


「どうじゃ、美味いじゃろーっ!」


「う、美味……っ、美味いっていうか、う……っ」


 この香ばしいバンズ。この少しパサパサしたパティ。ヘタヘタのレタスに薄いピクルス。プロセスチーズ。ああ、何もかもが懐かしすぎる……。


「わらわにもよこせっ、成長期の男の子がそんなものばかり食べてはいかん! ことわざにもあるじゃろ、『秋ナスとハンバーガーは子供に食わすな』と!」


 詰め込むように半分食べると、ニジエールさんに譲った。

 飢えたその剣幕もあったけど、異世界の人がハンバーガーを食べるところが見たかった。


「うむ、甘露甘露♪ 坊やの食べかけを食ったと、うちの嫉妬深き姉妹に自慢するとしよう♪」


 ニジエールさんはそれを美味しそうに食べてくれた。

 本物のロリババァがハンバーガーを食べる光景は、なんかグッとくるものがあった!


「美味しい?」


「うむ、特別にわらわの海鮮ヌードルを一口食わせてやろう」


「ケチ臭……っ。そこは半分ちょうだいよ」


「仕方ないのぅ……。一口と、残りのスープをやろう」


「ニジエールさんって、スープまでしっかり飲む派なんだ……」


「は? マナーじゃろ?」


「そ、そう……?」


 まあ、内陸では塩分が不足しがちだし、いいのかな……いいの?

 ニジエールさんは海鮮ヌードルのあの魅惑の香りを辺りにまき散らしながら、笑顔で麺をすすった。


 そして麺一口とスープだけが残ると、割り箸の刺さったカップを僕にくれた。

 久々に食べた海鮮ヌードルは、暴力的なアミノ酸と塩味の美味さにあごが外れそうになるほどに美味しかった。


 ちなみにこの薄っぺらいタコみたいな具、正体はイカらしいね。


「おっ、坊ちゃんじゃねぇですかーっ!」


 スープを飲み終えるとコマネチさんに声をかけられた。


「おう、そこにおったか、コマネチ」


「げぇっっ、ニジエールッッ!?」


「なんじゃ、ご挨拶じゃのぅ」


「近寄るな押し売りっ、もう物干し竿は買わねーぞっっ!!」


 ニジエールさんが押し売る、高級物干し竿は高い……。

 高級なのに物干し竿って、存在レベルで矛盾しているような気がする……。


「また酒か! そんな物ばかり飲んでおるとバカになるぞい?」


「うるせぇよぃ。俺っちはバカだから、ひっくり返って頭にいいんじゃねぇか。元からバカな俺っちには、酒は薬みてぇなもんだ!」


 コマネチさんの目当ては発泡酒だった。

 安くて、しゅわしゅわで、それなりに美味しくて酔える。

 コマネチさんはプルタブを『プシュッ』と起こして、それはもう美味しそうにグビグビとおっぱじめた。


「かぁぁぁーっっ、美味ぇぇっ、しゅわしゅわしやがるぜぇっっ!!」


「なんか、本当に美味しそうに見えてきた……」


「美味ぇぜ! おう、飲むか、坊ちゃん?」


 急に喉が乾いてきた。空想の『しゅわしゅわ』と『あわあわ』を喉に感じて、僕は実体のないそれを『グビッ』とやった。


「馬鹿者め。酔った坊やが屋敷に戻れば、ノワールがそなたをぶち殺しにくるぞ」


「おうっ、あのこえー姉ちゃんか! 俺っちはアイツ好きだぜ!」


「うむ、なかなかよくやっておる。先日も憎っくき国境荒らしどもを叩き潰してくれおったわ」


「え…………っ!?」


 国境荒らしの対応は別料金。ノワールさんはそう言っていたけど、そんな報告は一度も受けていない。


「なんじゃ、知らんかったのか?」


「あの姉ちゃんのおかげで、ここの治安もだいぶよくなった。今度、俺らで礼をしねぇとな……」


「うむ、まったくじゃの」


 あ……だから【治安】の数字が5ポイントも上がったんだ!?


「む……っ!? 見るがよいっ、ガシャポン・ポンに『小鳥ちゃんシリーズ2』が追加されておるぞ! こ、今回は、オオルリの水浴びじゃと!? マニアックなっ!」


「んなもん買っても腹の足しにもなんねーだろ……。やっぱこれよ、へへへ……おでん缶」


 ロリババァはガシャポン・ポンの前で子供のように目を輝かせ、いそいそと財布を取り出す。結果は――残念、チンピラと名高き『文鳥さんのオラ付きポーズ』だった。


「ぬ、ぬぅぅ……っ、これはこれでよいがっ、これではないっ! 今一度っ!!」


「かぁぁーっっ! 発泡酒と、おでん! これ、最強な! 大人になっても覚えとけよ、坊ちゃん!」


 忘れると思う。

 ニジエールさんは1回100シルバーもするガチャの4戦目に入ろうとしていた。

 ふと、辺りを見回せば、ここにいるのは僕たちだけではなかった。


 隣の【商店街】が呼び寄せた旅人は、ロリババァに要る物要らない物を買わされた後にリリースされ、自販機やガシャポン・ポンの前に集まっていた。


「のぅ、そこの紳士殿? これ、ダブったんじゃが、娘のお土産にどうじゃ? 1つ80シルバーで売ってやろう……」


「これが、80シルバー? なんと精巧な人形だ……よろしい、買おう」


 早くも転売が始まっていたけど、そこは見ないことにした。

 次から次へとお客様がこの自販機&ガシャポン・ポンコーナーを訪れ、黒幕のたぬきに銅貨をふんだくられていった。


 女性やお子様はガシャポン・ポンに。男性は自販機(酒とエロコーナー)に多かった。

 いやマジで、野郎どもは酒とエロにクソザコナメクジだった。


<「 ご主人様…… 」


 これだけ繁盛しても、入るのはテナント料だけなんだよな……。

 あのたぬきどもめ、上手くやりやがって……。

 そう複雑に思っていると、吹き出しの出るたぬきが足下にやってきた。


「あ、ポンちゃん。どうしたの? 仕事はもういいの?」


<「 ポンちゃん……おそろしいもきゅ…… 」


「え、どうしたの? 人間に何か恐いことされた?」


<「 違うもきゅ……。ポンちゃん、こんなの、初めて……ぷるぷる…… 」


<「 どうなってるですもきゅぅーっ!? 繁盛し過ぎてポンちゃん恐いもきゅ!! 」


 確かにそれはある。

 自販機もガチャも、明日中に在庫が枯渇するのではないだろうか。


「僕の能力と、ポンちゃんたちの流通力が、なんか上手く噛み合っちゃったみたいだね」


<「 もきゃぁぁ……っ 」


 僕の力は施設建設の際、その施設が当たり前の物であると、現実を軽く改変する。

 それはラクーン商会の異世界の商品も例外ではないようだ。


「そんなことより、なんかすごい勢いで売れてるけど……補充大丈夫そう?」


「 ポンちゃんがんばりますもきゅ! へ、弊社なら、明日までの補充が可能ですもきゅ! 」


 ラクーン商会って、やっぱブラック企業でしょ……。

 ポンちゃんのつぶさな黒目に社畜の小宇宙を感じた。


 まあともかくそんなこんなで、僕にはテナント料しか入らないけど、この日を境に領地ザラキアの税収が飛躍的に改善したのだった。


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【備蓄:辺境伯領ザラキア】

 【兵糧】2014   (+253)

 【金】  353   (+178)

 【木材】63 【石材】26 【人材】4

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