【内政】建設:商店街 現実:改変

「お、おお……願いの代償が支払われたということですか……」


「じゃ、次は【商店街】の建設ね」


 同じ要領で画面を操作して、街道の十字路となっているところを指さした。

 すると僕の目の前で小金貨が40枚消えた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――

 家事手伝い:アルト(50/100)は【商店街】の建築を進めた!

 成功! 【商店街】の建設度が100%となり【商店街】が完成した!

 土地整備により木材15を獲得! 石材16を獲得!

――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ノワールさんは地面から無数の建物が生えてくる怪異現象に驚き息を呑んでいた。

 木造の店が8軒、中央には石畳の小道が走る、素敵な商店街が生まれた。


 表記には【効果:兵糧200(月)】【効果:金50(月)】とそれぞれあるのだから、来月の【拠点収入】は期待してもよさそうだ。


「でもあれ、労働者はどうなるんだろう……」


「そうですね、建物だけあってもなんの意味もありません」


 どうなっているのだろうと、画面をいじると建築物の一覧が出た。


――――――――――――――

【畑】

 【効果:兵糧25(月)】

 【労働者 1/8】


【商店街】

 【効果:金0(月)】

 【労働者 0/8】

――――――――――――――


 あれ、本当にどうなっているんだ、これ……。

 労働者がフルでないと収益が減るなんて、聞いていない!

 というかこの【畑】の労働者1名って誰!? いったいどこから生えてきたの!?


「見て下さい、誰か畑にいます!」


「え……!?」


「あれは……収穫をしているようですが……」


「えっえっえっ!? と……とにかく行ってみよう!」


「はい! 私……少しワクワクとしてきてしまいました!」


 僕たちは屋敷から飛び出して、川沿いに突然生えてきた畑へと駆けた。

 小柄で痩せたこの体は、走ってもあまり体力を消費しないのが魅力だった。


「お、これはお坊ちゃんっ! どうしたんですかい、んなに息を切らして?」


「コマネチッ、なぜお前が畑泥棒をしている!?」


「畑泥棒ぉー? はっはっはっ、冗談はよして下さいよ、姉御。仕事が見つからなくて腐ってた俺っちに、ご領主さまが貸して下さった魔法の土地じゃねぇですかー!」


「な、何を言っている……!?」


 何が起きているのかわからなくて、僕は息を切らしながら2人のやり取りの様子を見た。

 すると段々、コマネチさんの言い分の方が正しいような気がしてきた。


「忘れたんですか? 酒場で腐ってた俺っちに、ご領主様がやさしく声をかけて下さったあの夜を!」


 いや、そんなの知らないし……。

 知らないんだけど……でも、なんだか……。


「言われてみれば、そんなこともあったような気がするな……。ああ、あの夜のことか!」


 さっきまでコマネチさんを畑泥棒扱いしていたノワールさんが、両手を打ってそんなことを言い出した。


 そんなことあるがわけない。僕たちがコマネチさんと出会ったのは今日の朝、同じ乗り合い馬車に乗った時だ。

 だとすればあり得る可能性はただ1つ。これは、あの力による『現実の改変』なのではないだろうか……。


「やあご領主様、コマネチの兄のコマンチでございますだ。ヤクザ者をやっていたおらを、殴り飛ばしてくれたあの日のことは、今も忘れられねぇだ!」


 ヘタレの僕がヤクザ者なんて殴れるわけないじゃないか!

 と思うのだけど、でも、殴れるわけないのに、なぜだか殴ったような気がしてくる……。

 なんなの、これ……。なんか、気が狂いそうだ……。


「あ、どうも、コマネチとコマンチの甥のコマンドーです!」


「その弟のコマンダーです!」


「おらは妹のハイレグだべ! レグって呼んでくんろ、領主さま!」


 それから数分後、畑の労働者は全てコマネチ一族で埋め尽くされることになった。

 仕事を欲しがっている人間がいると、現実が改変され、その施設で働いていたことになる。……ということ、なのだろうか?


「ご領主様、何やら商店街の方が騒がしいようですが……」


「ま、まさか、あっちも……!?」


「しかしそういえば先日、子供のくせに老婆のような喋りをする娘に、あそこの店と、事業の融資をしたような気がしてきませんか……?」


「してないよ……。絶対にしてないんだけど、したような、気だけする……」


 俺たちは道を引き返して、屋敷へと通じる十字路に建設した【商店街】を訪れた。


「おお、見る目のある若者よ! わらわの店によくきたのじゃ!」


 その女性は身長140センチあるかも怪しい超小柄な女性――というかほぼ女児だった。


「あ、あなたは……?」


「なんと、わらわのことを忘れたか!? あんなにも熱いしょうだんを過ごしたというのに!」


「記憶にないけど……ニジエールさん、だったっけ……?」


 知らないのに名前が浮かぶ。

 商談なんてしてないのに、積極的な接待をされたような気がしてくる……。


 あ、止めて、やだ、僕はロリコンじゃない!

 おかしな記憶が映像となって頭に流れ込んだ。


「ヒッヒッヒッ、案ずるな、空き店舗にも近日中に我が一族が入る。皆、ちと小柄じゃが優秀な商人どもじゃ。約束通り、一族総出の接待を期待しておるがよいぞ……」


「そ、そんな約束っ、僕した……っ!?」


「はっ、鼻の下を伸ばして確かにしていたような……気がいたします」


 そんな、そんなバカな……!?


「そんなわけないよっ、僕っロリコンじゃないよーっ!?」


「おぬしも好き者よのぅ、ヒッヒッヒッ……。安心するがよいぞ、我ら一族は皆ちっちゃいが、皆合法じゃ」


 こうして貧しく荒廃した見捨てられた土地に、魔法の畑と、やけに旅人が立ち止まる商店街が生まれた。

 僕の力はヤバい。それはもうわかっていた。でも僕の力は僕が思うよりも遥かにとんでもないものだった。


 なにせ人の記憶、目の前の事実を過去にさかのぼって、都合よく書き換えてしまうのだから。


「接待なんていらないっ、僕はロリコンじゃないんだぁぁっっ!!」


「ククク……まっことうい領主殿じゃ。何、損はさせぬ、我ら一族は義理堅いのじゃ」


 しかも改変のためなら、本人の性格や好みを無視して強引に成り立つところが凶悪過ぎる!

 僕は何もしてないのにロリコンにされてしまっていた!


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【備蓄:辺境伯領ザラキア】

 【兵糧】2014   (+253)

 【金】  353   (+ 78)

 【木材】46 【石材】25 【人材】4

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