【建設】僕んち花壇:オハナキレイ
そういうわけで僕は探した。戦国の野望シリーズのようなステータス画面が出るということは、【箱庭内政システム】へのアクセス方法がどこかにあるということだ。
てか、そうでないと、【政務99】とかいう『コイツ、つこうたな?』と疑われても仕方のない僕の能力値が、ただの一発ギャグで終わってしまう!
僕は世界の厳しさを知っている。見せかけの希望に夢を見ては裏切られる、人生のあまりの無常さも。正直、そんなのはもうお腹いっぱいだ!
もう人生ハードモードは十分だ!
そろそろイージーモードにさせてよ、神様!
今日まで踏んだり蹴ったりだった僕の人生にどうか! 触れても砂になって崩れたりしない真実の希望を下さい! どうかお願いします!
そのような願いを胸に、僕は屋敷中のありとあらゆる物品に、【銀の目】の力を使いまくった。
いや、その力がただの鑑定能力ではなく、ゲームシステムへのアクセスコマンドであってくれと、この【ラングリシュエル】の世界に祈った。
「あ……あった!」
結論から言うと、僕の希望的推測は現実の出来事となった。
兄の書斎にある【ネビュロニア帝国地図】に力を使うと、【ラングリシュエル】の画面とは明らかに異なるウィンドウが現れた。
――――――――――――――――――――――
【拠点:ネビュロニア帝国】
【内政】
【策略】
【人事】
――――――――――――――――――――――
それは赤い漆塗りをテーマにしたウィンドウで、画面左部には【内政】【策略】【人事】コマンドとなるボタンが配置されている。
直感任せに【策略】ボタンを指でタッチしてみた。
「あったけど……ない……。僕の、忍者コマンド……」
誠に遺憾ながら忍者コマンドはなかった。
使いようによっては天下人となった大名すら暗殺できてしまう忍者コマンドは、この【ラングリシュエル】の世界には存在しなかった……。
忍者ユニットはいるのに、忍者コマンドはない。なんて理不尽な世界なんだ! てか忍べよ忍者ども!
あるのは【流言】【破壊】【内通】だけだった。
不満を抱えながらもあれこれと画面をいじってみた。
「う、ううん……? あれ、んーー……? 操作できない……?」
確認できるのはコマンドだけで、命令コマンドは押しても反応がなかった。
僕は兄の――元々は皇太子であった父が使っていた革張りのイスに腰掛けて、状況を整理した。
意味もなく両指を組み、そこにあごを置いてみたりして。ククク……。
――――――――――――――
【内政:ネビュロニア帝国】
【兵糧】 371万
【金】 47万
【人口】 114万人
【民忠】 71/100
【馬】 5220
【兵力】 10万
【魔導師】350
【魔導兵】 0
――――――――――――――
内政ボタンを押せば、この情報が画面右部に表示される。
過剰な兵糧備蓄。過剰な兵力。現皇帝が2年後に侵略戦争を起こす悪の帝国ネビュロニアの国家機密がここにある。
「ヤバくない、この力……? ちょっと扱いを間違ったらこれ、断頭台送りになるんじゃ……」
現皇帝にこの力を知られたら僕は消されるだろう。
そう考えてみたら怖くなって、無意識に画面を消していた。
「もし僕に権力があれば、さっきの命令コマンドを実行できるのかな……? だとすると、今の僕が、権力を振るえる場所は……」
屋敷を飛び出して庭に出た。
僕が権力を振るえる場所といったら、この小さな庭の花壇だけだった。
「うわ、草ボーボーだ……」
花壇の雑草にではなく、花壇全体を意識して【銀の目】の力を使った。
すると予想通りだ。コマンドへのアクセスキーはその場所の【支配権】だった。
僕はこの屋敷のことを家主のミュラーに任されている。つまり僕がここのお代官様だ。
――――――――――――――
【拠点:ミュラー邸 花壇】
→【内政】
→【建設】
――――――――――――――
画面右にズラッと建設候補が表示された。
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【季節の花】
コスト:銀2 体力:10 解説:季節に合った花を咲かせる
【季節の穀物】
コスト:銀1 体力:10 解説:季節に合った穀物を実らせる
【季節の野菜】
コスト:銀1 体力:10 解説:季節に合った野菜を実らせる
【薬草】
コスト:銀5 体力:10 解説:ベースハーブを実らせる
【撤去】
コスト:体力5 解説:不要な設備・雑草を撤去する
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「銀? 体力? なんか園芸ゲームみたい……。では取り合えず【撤去】をお願いします」
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家事手伝い:アルト(100/100) に命令を実行させますか?
→【是】・【否】
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「わっっ?!」
是を押すと、僕から小さくて赤い光が5つ飛び出た。
その光は僕と同じ体格をしたシルエットをに変化して、その手に持っていた大鎌を薙いだ。
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家事手伝い:アルト(95/100)は雑草を刈った!
成功! 雑草は花壇の養分となって消滅! 花壇での【建設】が可能になった!
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「す……すご……! 見るも無惨だったうちの花壇が、こんなに綺麗さっぱり! え、いいじゃん、これっ、すごい便利!!」
これぞ本当の箱庭内政。間違ってはいないけど、今の僕の権力相応で少し悲しくなる……。
「銀2ってどれくらいかな……。さっきと体力と同じように、自動で消費する系……?」
検証する必要がある。
僕は懐から大きなお財布を取り出した。
大きなお財布には4200シルバー入っている。日本円にして42000円ほど。これは僕と兄さんの今月の生活費だ。
その次に小さなお財布を出した。
小さなお財布には220シルバー。こっちは僕のささやかなおこづかいだ……。
「た、足りるかな……。生活費の方から消費されたりしないよね……?」
ここで検証しないわけにはいかない。
僕は、失敗したらミュラー兄さんになんて言い訳しようと迷いながら、建設コマンドを実行させた。
「あ……っ!?」
消えたのは小さなお財布のお金だった。
小さな財布から100シルバー硬貨が2つ、僕の体から大きな赤い光が1つ。それぞれが光となってあのシルエットを生み出し、畑に種を蒔くような動きをした。
「わっわっわっ、なっ、なんだこれっ!?」
無数の種は一瞬で芽吹き、双葉が枯れて、そして花壇いっぱいの花の苗となった。
―――――――――――――――――――――――――――――――
家事手伝い:アルト(85/100)は季節の花(コスモス)を建築を進めた!
成功! 季節の花(コスモス)の建設度が61%となった!
体力:20で建築の加速が可能です
家事手伝い:アルト(85/100) に命令を実行させますか?
→【是】・【否】
―――――――――――――――――――――――――――――――
「建築の加速って、急にガーデニング系のソーシャルゲームっぽくなったなぁ……。でもここはもちろん、是!」
ボタンを押すと虚脱感に襲われた。
不思議な光が花壇に降り注ぎ、コスモスの苗を光り輝かせて急成長させた。
茎がぐんぐん伸び、その茎から新しい葉が次々と生まれ、頂点に芽が生まれたかと思えばそれが花咲いた。
ものの一瞬でコスモスの苗は花に変わった。コスモスは白、ピンク、赤紫の花弁をたくわえて甘い芳香を香らせた。
「すごい……これが、僕の力……。小さな花壇でこれだけ好き放題できるんだから……っ、もしどこかの支配権を握ったら、いったいどうなっちゃうんだろう……?」
権力。権力と土地が欲しい。
具体的に言えば、そう、好き放題できる広い土地が欲しい!
そしたら僕はそこで、箱庭ゲーム感覚で好き放題やって生きられるんじゃないか!?
「ここに居たのか、アルト」
可能性に胸を膨らませていると、ミュラー兄さんが外から帰ってきた。
「お帰り兄さん! 早かったね!」
「フッ、今日のアルトは明るいな。……む?」
「ああこれ? どうかなっ、兄さん!」
美しいコスモスの花を背に、僕は兄さんに明るく笑った。
いつもはジメジメしている弟が急に明るくなった上、雑草まみれだった庭にコスモスが艶やかに咲き誇る光景に、兄さんはひどく驚いていた。
「植え替えた……? いや、これは違う、根がしっかりと大地に食らいついている……。なんだ、これは……」
「これ、僕がやったんだ。といっても、説明するより見せた方が早いよね」
僕はこの屋敷の管理者。
管理者として荒れ果てて見苦しい庭に【建築→除去】コマンドを実行して見せた。
荒れ放題のうちの庭が鎌一発で『ザパーンッ』!
「……フッッ、これは驚いた」
「ええっ、それだけ……? もっと大げさに驚いてよ、兄さん」
「何を言っている、これでも目玉が飛び出るほどに驚いている。……まるで、ゲームだ」
「え…………?」
今、兄上、ゲームって言わなかった?
「フッ、なんでもない。それよりもアルト、この力、応用すればかなり使えるのではないか?」
「使えるどころじゃないと思う! この力は、情勢をひっくり返せるほどのすごい力になると思うんだ!」
「ほぅ、それは興味深い……。リアーナが茶の準備をしている、その話、茶の席で詳しく聞こう」
リアーナというのはミュラー元帥直属の副官だ。ミュラー元帥に忠誠を誓いながらも、身分違いの恋心を胸にひた隠している。
リアーナ姉はミュラー元帥を絶対に裏切ることのない腹心だ。
「ん……いいよ。兄さんたちに全部話すよ」
この後、僕は兄さんとリアーナ姉さんに現状わかっている力の全てを明かした。
リアーナさんは半信半疑だった。けど裏庭にあるもう1つの花壇に、小麦畑を実らせて見せると――
「こ、こんなっ、こんな奇跡のような力がっ、アルト様の目に……っ!? ふ、ふふ……花を咲かせ、小麦を実らせる……。なんて素晴らしいお力でしょう!」
驚きにひっくり返った後に、楽しそうに笑って事実を受け止めてくれた。
僕は兄さん、ミュラー元帥の運命を変えたい。
投獄で引き裂かれることになるリアーナ姉さんとの恋愛を成就させてあげたい。
手の内を明かした僕は、これからのことを話し合った。
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