第二章 思わぬ不倫に躓いて

第7話 凛乃、高層マンションの一室で夫と戯れる

 高層マンションの棟が建ち並ぶ「京都北山ニュータウン」の一室で、凜乃は窓際に立って外を眺めて居た。マンションの夫々の部屋の窓には明かりが灯りカーテンが引かれて、辺りは静まり返って居た。

 ベッドの中から夫の昭夫が、ネグリジェ姿でじっと外を観ている凜乃に声をかけた。二人は結婚四年目で子供は未だ居ない。

「おい、凜乃、寝ないのか?」

「うん?・・・」

凜乃は其の儘じっと動かなかった。

「何をしているんだ?」

「もう、何処の家もみんな寝ているのかしら?」

「うん?」

「週末の夜のマンションほど不気味なものは無いそうよ」

「えっ?」

「誰かが言っていたわ。夜の窓を観ていると、無数の夫婦の夜の行為が窓の中から溢れ出るように感じる、って」

「いやらしいことを言うねぇ。そんなことより、速く此方に来いよ」

凜乃は窓のカーテンを引き、昭夫の横たわっているベッドに近づきながら言った。

「同じような窓、同じような間取り、同じような収入、同じような男と女が同じように夜に寝て・・・」

「いやらしいことを言うなよ」

昭夫はベッドの傍に来て布団を捲った凜乃の腰の辺りをやにわに抱えて、ベッドの中へ引き摺り込んだ。

「何かご不満でもあるんですか?・・・」

二人はベッドの中で抱き合った。

「あなた、眼鏡を外していると、私の寝顔、どの程度見えているの?」

「見えなくても十分なんだよ」

昭夫は凜乃に圧し掛かって行った。が、彼女は躰を捻るようにして枕灯の横に置いて在る彼の眼鏡を取って眼にかけた。

「う、うっ!」

眼鏡が鼻先までずり落ちた。

「重い!」

昭夫が凜乃から眼鏡を取り上げた。

「こんな度の強い眼鏡をかけているあなたと、視力1.2の私とでは、同じものを見て居ても、随分と違って居るんでしょうね」

「眼鏡の話は止めろよ」

「ふふふ・・・あなた、今の生活に満足?」

「うん。どうして?」

「私でない他の女を奥さんにしていたら、なんて考えたこと無い?」

「無いね。でも、どうしてだ?君はそう思うのか?」

「私、あなたの眼鏡の度数も知らないのよ。知らなくても何となく済んでしまうのね。夫婦ってこんなものなのかしら・・・」

昭夫は凜乃の口を封じるように唇を重ねた。

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