俺の名前は桃太郎!
むかし、むかし、あるところに桃太郎と呼ばれる傾奇者と子犬、子ザル、子キジの3匹がありました。
桃太郎が、扉を抜けると、そこは――。
雲1つない澄み渡る青い空でした。
風は草原の草を揺らすように流れていき。
今ここで、寝転べば1人と3匹は気持ちいいだろうなと思いました。
しかし、そんな桃太郎たちの耳朶には風景にそぐわない音が入ってきました。
「うぉぉぉぉ!!!!やっちまえー!」
「グギャギャギャ!!」
「ゴブリン共をブチコロせー!!」
「ニンゲン。コロス!」
桃太郎たちの目の前では、緑肌の大鬼が一人の騎士を殴り飛ばしたり、騎士が小鬼の首を斬り飛ばしていた。
「ねぇねぇ。桃太郎、これ鬼コースなのかな?すごいね!参加者いっぱいだよ!」
桃太郎の顔を見上げていう子犬。
「鬼っていろんな見た目してるんだな!受付で見た鬼だけかと思ったぜ!」
すげー!すげー!と言いながら桃太郎の髪を引っ張る子ザル。
「私が思うに、勝ち残り戦ってやつですね」
小さな羽を高らかに上げ言う子キジ。
懐や肩、頭に乗った小さな家来が口々に言う。
「おいおい・・・。マジかよ!あれが悪い鬼か!?やる気が出てきたぜ!滾るな!鬼コース!!」
桃太郎はそう言うと、腰に指していた刀を鞘から抜く。
さぁ!いくぞっと合戦に参加しよう駆けだそうとした時だった。
「私の呼び声に答えてよく来てくれたわね!」
「あん?……誰だてめぇ」
桃太郎の近くには綺麗なドレスを身に纏った少女が背を向けて立っていた。
その背中まで流れるシルクのようなプラチナブロンドヘアーの頭には綺麗なサークレットが飾られていた。
「私かしら?……そうね。いきなりこんな状況の場所に呼ばれて困惑しているのは当然よね」
少女はそう言うと、桃太郎へと振り返る。
「私の名前は、アリシア・ウィン・サンライト。サンライト王国の第三王女よ!……大きいわね」
勝気な雰囲気を纏ったアリシアと名乗った少女は胸を張り見上げる。
「サンライト王国だぁ?知らんねーぞそんな国。ここは日ノ本にある鬼ヶ島だろ?」
「ヒノモト?オニガシマ?」
アリシアは顎に手を当て考える。
「……あぁ!あなたが居た元の世界の名前ね!」
ピンと来たのかパチンと指を鳴らす。
アリシアは彼に正解と言ってほしいのか、ウィンクをする。
桃太郎は、自分の胸の高さまでしかないアリシアを不思議そうに見ながら刀を仕舞う。
「……なにしてんだ。チンチクリン」
「チンッ!これでも140は超えてるのよ!……こほん!まぁいいわ!」
アリシアは咳払いをして仕切りなおす。
「貴方は私の召喚に同意してここへ来たのでしょう?」
「桃太郎!さっきからこの娘は何を言ってるの?」
子犬が懐からアリシアを見る。
「かわいい。……フェローの子供かしら?」
アリシアと子犬の視線の高さは同じで見つめ合っていた。
「……おい。それで召喚やら同意ってどういうことだ?俺は扉を開けたらここに出たって感じだけどよ」
「あれ?おかしいわね。……ちょっとミスちゃったかしら?」
桃太郎のその言葉にアリシアは足元にある幾何学模様を見ながらブツブツ何かを言っていた。
「桃太郎さん桃太郎さん」
頭の居る子キジが桃太郎の頭をつつく。
「なんだよ?……それとちょっといてぇからそれやめろ」
「私たちが通ってきた扉がありません」
子キジのその言葉に桃太郎は振り返る。
「はぁ!?マジかよ!マジで無くなってるじゃねぇーか!」
桃太郎は扉があった場所を見渡す。
そうやって扉を探していたら、背後からアリシアが話しかけてきた。
「貴方って鬼人じゃないのかしら?」
「鬼人?なんだそれ」
桃太郎は振り返り問いかける。
「私が本来ここに来てもらうはずだった存在の事よ。……その反応じゃ違うのね」
「ちげぇーな。……じゃあ、俺は間違ってここに来たって事か?」
「まぁ、そういうことになるわね」
「ふーん。……で?」
「で?ってなに?」
「なんでお前は、ここにそいつを呼ぼうとしてたんだよって事だよ」
「この状況を打開するためよ」
そう言うと、アリシアは戦場へと視線を向ける。
そこでは、桃太郎とアリシアが話している間も常に戦闘は続いていた。
「最初はゴブリンだって甘く見ていたわ。すぐに殲滅して終わりだと。でも、それは違ったのよ。何度倒しても減るどころが増えて行ったの!」
アリシアは手を握り締める。
「それでやっと、やっとよ!ゴブリンの巣を見つけることが出来たのよ!その間にどれだけの村や人に犠牲を出したか分からないわ。……でも、見つけたゴブリンの巣はとても大きなモノだったの。だから、お姉様やお兄様と協力して巣を包囲して攻撃を仕掛けることにしたの」
「今がそれの真っ最中ってわけか。……でもよー。見てる感じだと、打開策が必要な程苦戦してるようには思えねーんだけど」
戦場では鎧で身を固めた騎士たちが次々とゴブリンを倒していた。
「もうこの状況が数か月は続いているわ。このままじゃこちらの物資や騎士たちのスタミナが切れて、いずれ押し切られてしまうわ」
そう言うアリシアの姿を桃太郎は見つめる。
綺麗だと思っていたドレスは、よく見ると所々がほつれや土汚れなどで汚れていた。
「それで鬼人ってやつを連れてこれたら、一気に状況が変わるって事か」
「ちゃんと呼び出せていれば、そうなっていたわね」
でもっとアリシアは続ける。
「その召喚も私のミスで失敗してしまったわ。……関係ない貴方をこんなところに呼んでしまってごめんね」
桃太郎は小さく震えるアリシアの背中に気づいた。
「元の世界に返すことはできないけれど、今すぐここから逃げて――むぐっ!」
そう言いながら振り向くアリシアの口に桃太郎はきびだんごを突っ込んだ。
その目から、一滴の涙が零れた。
「この俺に逃げろだぁ?寝言は寝て言えってんだ!いいからてめぇはそこで見てろ!この俺の晴れ舞台をな!」
そう言うと、桃太郎は戦場へと向かおうとする。
「桃太郎!かっこいいね!僕も一緒に戦うよ!」
「俺もやるぜ!器用な手先で千切っては投げ!千切っては投げだ!」
「桃太郎さん!私は頑張って応援しますね!」
3匹の家来が可愛らしい前足や羽を掲げて意気込んでいる。
「ちっせぇてめーらは大人しく見てろ!」
桃太郎はそう言うと、口をもぐもぐさせているアリシアの側に三匹を優しく降ろす。
「えー!僕もいーきーたーいー!」
子犬がアリシアの足元でゴロンゴロンと駄々をこねる。
「おい!犬っころ!てめぇには大事な役目があんじゃねぇーか!」
「え!?大事な役目!なになに!」
子犬はスクッと起き上がるとしっぽをこれでもかと言わんばかりに振り回して聞く。
「そこのお姫様を守るって言う大事な役目だ。それをてめぇに任せる。猿とキジ、てめぇーらも同じく守ってくれや」
3匹はその言葉に、それぞれ「わかった」と言う。
それを聞き終えると、桃太郎は背を向け戦場に近づいていく。
腰に差した刀を抜きながら、桃太郎は名乗りを上げる。
それは戦場全体に届かんばかりの声だった。
「鬼ども、よーく聞けぇ!俺の名は桃太郎!村一番の傾奇者、食っちゃ寝、遊んじゃ暴れ、やりたい放題の桃から生まれた漢よ!ジジィとババァが育てたこの俺が、てめぇらの悪行をぶっ潰す!てめぇら、まとめて叩きのめしてやらぁ!天下無双の桃太郎、いざ推して参る!!」
6尺3寸(約190㎝)の大男が、騎士たちの間を物凄い速さで駆け抜けゴブリンへと斬りかかっていった。
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