桃太郎、異世界に召喚される。

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日本昔話

むかし、むかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがありました。


 おじいさんは、やまへしば刈りに、おばあさんは――。


「おい!ジジィ!ババァ!鬼退治へ行ってくるわ!」


 一人の傾奇者が派手に戸を開けて言い放つ。


「あらあら。桃太郎おかえりなさい」


 柔らかい雰囲気の老婆が暖かい言葉をその男にかけた。


「おう!帰ったぞ!ババァ!」


 桃太郎と呼ばれた傾奇者はドスドスと家の中に入っては囲炉裏の傍へ腰を下ろした。


「桃太郎。いきなり鬼退治とはどうしたんじゃ」


 背負い篭を背負い出かける装いをしていたじいさんが桃太郎へと問いかける。


「どうやら、鬼って奴が悪さしてるって言うじゃねぇーか。そいつらをブチコロすんだよ。……これうめぇな」


 桃太郎は囲炉裏の側に刺してあった串魚を一本取り、頬張る。


「あらあら、それは大変ね」


 おばあさんはそう言うと、よっこらしょと立ち上がり台所へと歩き出す。


「どれくらいで帰って来るんじゃ?」


「わかんねーな。明日か一週間後が、はたまた10年後か」


「そうか。……さびしくなるのぅ」


「ジジィがおっちぬ前には帰ってきてやるよ!……それに、俺が居ねぇー間は隣の大五郎に頼んであるから心配すんな」


「……そうか。そうか」


 おじいさんは、優しいまなざしで桃太郎を見る。


「桃太郎や。これを持っておいき」


 台所から戻って来たおばあさんの手には巾着があった。


「なんだこれ?」


 おばあさんから巾着を受け取り中身を見る桃太郎。


「きびだんごじゃねぇーか!ババァのきびたんごはうめぇーからな!あんがとよ!」


 おばあさんからもらった巾着を懐に仕舞う桃太郎。


「……ふぅ。くったくった!したら、鬼退治にいってくるわ!」


 数匹の串魚を平らげて桃太郎は家から出て行くのだった。


「寂しくなりますね。おじいさん」


「そうじゃのう」


 そう言うとおじいさんは山へしば刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――


 時は少し進み。


 桃太郎は緑豊かでのどかな道を歩いていた。


 ガサガサ。


「……」


 ガサガサ。


 近くの茂みから付かず離さず、何者かが後を付けて来ていた。


「……おいこら!何か用事あるならさっさと出てこいや!!」


 桃太郎は茂みに向かい怒鳴る。


「ワンワン」


 茂みから出てきたのは一匹の小さな犬だった。


「桃太郎さん!桃太郎さん!僕も鬼退治に連れて行って!……ついでに懐のきびだんごも頂戴!」


 コロコロとした可愛らしい声と子犬特有の短い手足で必死に連れて行ってとアピールをしていた。


 そして、クンクンを鼻を鳴らし、きびだんごの匂いにも気づいた。


「はぁ?そのちっちゃな体で何が出来るんだよ!」


 桃太郎は懐にあるきびだんごを1つ取り出し、子犬へあげながら言う。


「はぐはぐ!……僕は鼻が効くよ!鬼ヶ島へ案内できると思うよ!」


 子犬はそう言うと自慢げに可愛らしい鼻を鳴らしアピールする。


「はん!言うじゃねーか!なら連れてってやら!」


 桃太郎はそう言うと、子犬を抱き上げると懐へと入れる。


 懐からちょこんと子犬は顔を出して言う。


「ここをまっすぐだよ!」


 一人と一匹は平坦な一本道を進み続ける。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――


 時は進み。


 傾奇者と犬。


 ふかーい森の中で迷子になっていた。


「……おい。犬っころ!てめぇが言う通りに進んだら迷子になっただろーが!」


「ち、ちがうよ!迷子じゃないよ!少し道に迷っただけだよ!」


「それを迷子っていうんだよ!」


 懐の子犬と言い争う男。


「たく。てめぇー鼻が効くって言ってたじゃねぇーか!その鼻はどうした」


「僕の鼻がこの先だって言ってるんだよ!もう少しなんだよ!」


 子犬は鼻をスンスン鳴らすと、そう言った。


「……はぁ。ここがどこだかわかんねーし。仕方ねぇ先に進むか」


 そう言うと桃太郎は子犬が示す方向へと歩き進める。


 しばらく歩くと色とりどりの花が咲き誇る開けた場所に出た。


「ほら!あそこだよ!」


 子犬は可愛らしい前足で一本の木を指し示す。


 桃太郎は、その木まで近寄る。


「この木がどうしたっていうんだ?」


「ほら!あそこ!」


 子犬は今度はその木の上を指し示す。


「上だぁ?」


 桃太郎が見上げるとそこにはハチの巣があった。


「ハチミツだよ!きっと甘くておいしいよ!」


「だぁ!くだらねぇ!!ハチミツのためにここまで来たのか!?」


 桃太郎は踵を返して離れようとする。


「えー!取ろうよ!桃太郎!お願い!」


 桃太郎の懐からキラキラとした目で訴えかける子犬。


「……はぁ」


 黒髪に所々金色の混じった髪を軽く掻きむしる桃太郎。


「取るって言ってもよ。……どうやって取るよ?」


「桃太郎なら簡単じゃないの?腰に指してる刀でズバッと!」


「こいつは俺の相棒だ!こんな事につかえっかよ!」


 一人と一匹がうーんうーんと悩んでいる時。


「お困りですか?桃太郎さん」


「あん?」


 名前を呼ばれた桃太郎は声が聞こえた木の上へと視線を向ける。


 そこには、いつから居たのかわからないが小さな子ザルが居た。


 ハチの巣がある枝の隣の枝に。


「あ!猿だ!」


 子犬が言う。


「……そこのハチの巣を取りたくてよ。どうしたらいいか悩んでんだよ」


「なら俺が取ってあげるよ!……その代わりきびだんご頂戴!」


「その小さな体でハチの巣なんて取れんのかよ」


 懐からきびだんごを取り出す桃太郎。


 その際、子犬から「僕にもー」と言われ、2つ取り出す。


「任せて!俺って手が器用だからさ!こんなの朝飯前だよ!」


 そう言うと子ザルはハチの巣のある枝に飛び移ると、そのままハチの巣と蹴落とした。


 地面に落ちるハチの巣。


 爆発したかのように飛び出すハチ達。


「ばかやろー!!!」


 そう言うと、桃太郎は一目散に森の中へと逃げ出した。


「……はぁはぁ。なにが手が器用だよ!つかってねぇーじゃねーか!!」


 なんとかハチの群れから逃げ切った桃太郎は、いつの間にか肩に乗っている子ザルへと文句を言う。


「おっかしいなー」


 そう言いながらもらったきびだんごを食べる子ザル。


「僕のハチミツがぁ・・・」


 子犬は懐から頭だけを出してがっくりとしていた。


「諦めろ。……道中で団子でも買ってやるからよ」


「お団子!?やったー!」


 そうして、桃太郎は新たに子ザルを仲間に加えて鬼ヶ島へと一歩ずつ向かうのだった。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――


 またまた時が流れて。


 傾奇者と犬と猿。


 人で賑わう城下町。


「うわー!人がいっぱいだ!」


 懐から顔だけを出して子犬が言う。


「桃太郎さん!あれはなんですか!?」


 子ザルが肩の上で飛び跳ねる。


「肩の上で跳ねるな!しっぽがぺしぺし当たってうるせぇ!……あれか。あれは串焼きだな」


 子ザルが指を指した方向に視線を向けると、串焼きを焼いているおっちゃんと目があった。


「おう!あんちゃん。すげー格好してんな!どうだ串焼き!丁度出来上がったぜ」


 おっちゃんに出来立ての串を一本手渡される。


「誰も買うなんていってねぇーぞ」


 おっちゃんに金を渡しながら串を受け取る。


 桃太郎がその串を食べようとした時。


「桃太郎さん。助けてください」


 そんな声が聞こえた。


 その声の方向に視線を向けると。


 鳥かごの中にキジの子供が居た。


「助けてください。食べられちゃう」


 そんな事を言いながらこちらを見る子キジ。


 桃太郎は手の串焼きと子キジを交互に見る。


「……おやじ。やっぱこれいらねーわ。代わりにこいつくれ」


 桃太郎は鳥かごの子キジを指さして言う。


「お?今朝捕まえたばかりで生きがいいから少し値が張るぞ?」


「かまわねーよ」


 そう言うと桃太郎はおやじが提示する金額を支払い子キジを引き取る。


「ありがとうございます。桃太郎さん」


 子キジはボサボサに伸びた桃太郎の頭で落ち着く。


「……ていうかよ。なんでてめぇーらは俺の名前を知ってるんだよ」


 桃太郎はきびだんごを3つ取り出して子犬、子ザル、子キジへと渡す。


「なんででしょう?桃太郎さんを見たら、頭の中にビビッと来たんです」


 子キジはきびだんごをつつきながら言う。


「なぁ、俺の頭で食うのやめてくんね?」


 子キジは「ここが落ち着くんです」と言いながら食べるのをやめない。


「桃太郎!もうそろそろで鬼ヶ島につくと思うよ!」


 きびだんごを食べ終えた子犬が突然そんなことを言いだした。


「なんでわかんだよ」


「だって、ほらあそこ」


 城下町の海に面した港区。


 子犬が短い前足で指し示したそこには。


【挑戦者求む!我こそはという強者よ!集え鬼ヶ島!】


 という看板が立っていた。


「……なんだこれ」


 看板に近づきじっくりを見るがそれ以上の事は何もわからなかった。


「桃太郎。あれが鬼ヶ島じゃね?」


 子ザルが看板のさらに奥の方へと指を向ける。


 沖の方にうっすらと大きな島が見えた。


 桃太郎たちが鬼ヶ島を見ていると。


「ド派手なにーちゃんだな!なんだ鬼ヶ島にいきてーのか?いいぜ!俺が連れてってやるよ!」


 浅黒い肌をしたおっさんがいきなり現れてそう言った。


「桃太郎さん。よかったですね!鬼ヶ島に行けますよ!」


 こうして桃太郎たちは最後の決戦の地。


 鬼ヶ島へと向かうのでした。


「……なんだこれ」


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――


 鬼ヶ島。


 泣く子も黙る怖い鬼たちが居る島。


 そこでは、色んな屋台が軒を連ねていた。


「いらっしゃーい!鬼ヶ島名物!鬼餅はどうだい!」


「鬼といったらこれ!金棒だ!安くしとくよ!」


「鬼のパンツはいいパンツって言うだろ?どうだこの虎柄!今流行りの柄だ!」


 観光客であふれ返っていた。


「俺が想像してた鬼ヶ島じゃねぇぇ!」


 桃太郎は絶叫した。


「桃太郎!僕鬼餅食べたい!」


「俺は鬼のパンツがほしいぜ!」


「金棒ですか。いいですね。ぜひ一本ほしいです」


 子犬、子ザル、子キジがそれぞれ言う。


「てめーら、どれも買わんぞ!さっさとつえーやつ倒して村に帰る!」


『えぇー!』


「うるせぇ!……誰だよ悪い鬼がいるって言ったやつは」


 桃太郎はそう言うと。


 挑戦者はこちらへと書かれた看板を見つけ指示の通りに向かった。


 少し歩くと頭に角を生やした鬼の女性が居た。

 

「挑戦者の方ですか?」


 こちらに気づくと近寄りそう言う。


「お、おう」


「では、こちらへどうぞ」


 そう言うと鬼の女性は桃太郎を建物の中に案内した。


「ただいま挑戦頂けるのは、初心者コース。上級者コース。そして、鬼ヶ島の最強が相手をする鬼コースの3つになります」


 木の板に色々と文字が書かれた物見せられる桃太郎。


「じゃ、じゃあ。この鬼コースで」


 桃太郎がそう言うと、鬼の女性は驚く。


「本当にこちらでよろしいんですか!?」


「あ、はい」


「では、こちらをもって、あちらに進んでください」


 小さな木の板を渡され、1つの扉の奥へと進むよう言われる。


「桃太郎どうしたのさ?元気ないよ?」


 懐から子犬が桃太郎の顔を見上げる。


「なんかな。やる気なくなっちまった」


 だりぃーっと言いながら奥へ奥へと進んでいく。


「さっさと終わらせて村に帰るか」


 そう言って最後の扉を開いた。


 そこには、鎧を纏った人と緑色の大中小の鬼が殺し合っていた。


「……は?」


 むかし、むかし、あるところに、桃太郎と呼ばれる青年が居た。


 彼は、3匹の家来を引き連れて、異世界へと召喚された。

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2024年11月15日 12:00

桃太郎、異世界に召喚される。 code0628 @Yamada123

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