悪役貴族、非道魔法で異世界を蹂躙する 〜破滅を回避したいだけなのに、学園ハーレムを形成してしまう〜

鬱沢色素

第1話 非道な悪役貴族に転生したらしい

「ああぁぁぁあ♡ ギル様〜♡♡ お許しを〜〜〜♡♡♡」



 視界が開けると、そこには触手に襲われている女の子がいた。


「なっ……!」


 突然の光景に、俺は息を呑む。


「お、お前っ! どうして、そんなことになっているんだ!? もしかして、誰かにやられたのか? だったら誰に……」

「え? なにを言っているんですか。ギル様のやったことではないですか」

「俺が?」

「はい。んっ! あっ♡」


 俺がやったこと? なにが起こっているんだ?


 俺は確か……そうだ。高校に行くところだったんだ。

 その通学路でトラックに轢かれそうになっている猫を見つけ、道路に飛び込んだ。


 ぐんぐんと迫ってくるトラック。猫は助け出すことは出来たが、俺は逃げ遅れてしまった。

 そのまま体が強い衝撃に包まれ、意識が朦朧とし……。


「ん……待てよ。さっき、って呼ばれたよな?」


 すぐ傍にある姿見鏡に、自分の姿が映った。


 中肉中背の男。

 年齢は生前の俺と同じ、十六くらいだろうか。

 目の下にクマが浮かび、死んだ魚のような目をしているので整った顔立ちが台無しだ。



 ──間違いない!



『エターナルクエスト』の悪役貴族ギルだ!


 もしかして俺は、そのギルに転生してしまったということなのか……?



『エターナルクエスト』とは前世で大人気だった、学園RPGである。


 魅力的なヒロインの数々。

 奥深い戦闘システム。

 主人公へのヒロインの好感度によって、分岐するストーリー。

 そのことから『エターナルクエスト』は人気を博し、発売一週間で百万本の売り上げを記録した。


 そして問題なのは、俺が(推定)転生したギルというキャラだ。


 このギル、『エターナルクエスト』の主人公でもなければお助けキャラでもない。


 ただの悪役キャラなのである。


 フォルデスト伯爵家の長男として生まれたギルは、怠惰な貴族で特に秀でた才能もなかったため、家族から疎まれる。

 そのことから性格が捻くれてしまい、傍若無人に好き勝手に振る舞うのだ。


 秀でた才能はない……と言ったが、彼にも取り柄がある。

 それが魔法。


 しかしギルが使う魔法は触手を召喚したり、毒や精神操作で相手を苦しませたり、能力を低下させたり……と、ろくでもないものばかり。

 それでも使いようによってはいいようにも転がると思うが、ギルは善のために魔法を行使しない。

 お気に入りのメイドを触手で弄んだり、相手が苦しむ姿を見て悦に入る。


 マジでどうしようもないな、こいつ。


 そのような非道な行いから、ギルは『非道な悪役貴族』として名を馳せていった。


 そしてさらに重要なのは、彼が学園に通い始めたからである。


 この学園でギルは、ゲームの主人公であるクライヴと出会うことになる。

 平民出身ながら頭角を現していくクライヴに対して、ギルは対抗心を燃やした。

 なにかと因縁をつけ、ギルはクライヴに決闘を申し込むことになる。

 デバフや状態異常を撒き散らすギルは、強くはなかったが長期戦になって面倒だったな……と、今でも覚えている。


 そして他のヒロインたちにも嫌がらせをするギルは、最終的には断罪されてしまう。

 その後の末路は悲惨。再びゲームの表舞台に出てくることはなかった……らしい。

 “らしい”と言ったのは、俺が『エターナルクエスト』を序盤で投げ出してしまったからだ。


 だって主人公のクライヴ君、不快すぎるんだもん。


 正義感を燃やし、悪手を踏む。最終的にはそれで救われるから、いいかもしれないが……「いやそれって、わざわざ敵を助けなかったら、もっと楽に解決出来てたよね!?」というシーンが多すぎる。


 とはいえ、大多数のユーザーはそう思わなかったらしい。



『敵にでも救いの手を差し伸べる主人公、カッコいい!』

『ヒロインを助けるために、無謀でも敵地に飛び込むなんて!』

『どん底から這い上がるクライヴを応援したくなる!』



 ……などなどのご意見が、レビューサイトに飛び交った。


 まあ……言いたいことは分かるけどよ、俺は個人的には自分の欲望の赴くがままに振る舞うギルの方が、まだ共感出来た。

 もっとも相対評価なので、ギルが非道なクズであることには変わりないが。



「んっ♡ ふわあぁ! ギル様、お助けを〜〜〜〜♡ このままではわたし、おかしくなっちゃいます〜〜〜♡♡」


 思考に没頭していたが、女の子が触手にイジめられ、あられもない姿になっている状況は変わらない。

 その口はだらしなく開いており、ちょっと嬉しそうにも見えたが……気のせいか?

 い、いや、今はそんなことより!


「は、早く助けないと!」





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