10話 窓に残るタイタニック

彼と付き合うまでには、私にとって特別な時間が流れていた。


今までは2回目のデート、早い時は1回目で答えを出していたのに、彼とはそれが違った。

直感で「いいな」と思ったら、すぐにでも次のステップに進みたくなる私が、彼とはじっくりと時間を重ねた。



付き合う前に手を繋ぐことも、ましてやキスをすることも、これをしてこられた時点で「なし」と判断する基準だった。

でも、彼にはその境界を自ら破らせる何かがあった。

触れられることを許した自分に驚きながらも、それ以上に彼のそばにいることが心地よかった。






そして、ついにカレカノになった時、気持ちも生活も変わった。


半同棲をしていたし、同棲する話もしていた。


鍵もくれた。


彼といる時間の密度が増し、触れ合うたびに感じる温かさが安心感へと変わっていった。


手を繋ぎながら街を歩くたび、「これが愛されることなんだ」と感じた。



-----------------------------------------------------------------------------

とある特別な日

彼の家で映画を見ることになり、選んだのは「タイタニック」。

映画が始まると、私は自然と物語に引き込まれていた。

けれど彼は違った。後ろから私をそっと抱きしめ、じっと私の様子を見守るような瞳で寄り添ってくれていた。

途中キスもしてきたが、最後まで映画はちゃんと見たい私は軽く返しただけ。



エンドロールが流れ始めた頃、彼の腕が少しだけ強くなったのを感じた。


そのまま彼が私をベッドに押し倒すと、目が合う。


いつも穏やかな彼の目に、揺らめく情熱が見えた。


その瞳に応えるように、私も手を伸ばして彼の頬に触れた。



触れ合う肌の温度が徐々に上がり、彼の唇が首筋から耳元へと滑るたび、心臓が跳ねる。


彼は普段の優しさとはまた違う熱を帯びた仕草で、私の全てを求めるようだった。



その瞬間、私の視界に映るのは彼の真剣な顔。彼の荒い呼吸に重なる自分の声。


互いに求め合う気持ちが一つになる感覚に、いつもとは違う愛しさが溢れた。









そしてすべてが静かになった後、彼は窓を指差して微笑んだ。


「見て、タイタニックみたいだね。」


そう言いながら、彼が手を窓ガラスに当てる。

その手の跡を見て冷静になり、恥ずかしくなって笑ってしまう。


けれどその笑顔の奥には、彼への深い愛情と、この時間が永遠に続いてほしいという祈りが宿っていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る