野良猫の愛
天川裕司
野良猫の愛
『野良猫の愛』
猫ちゃんに、女の子はある日、愛情の示し方を教わった。
その猫はもともと野良猫で、人を常に警戒し、
少しでも誰かが近付こうものなら本気で小さな牙を剥き、怒り、
差し出された手を何度も噛み付き傷つけた。
無論、猫パンチであの鋭い爪でも、人の指を傷付ける。
しかし猫の目は大きく綺麗で澄んでいて、
自分に対する刺激を真っ直ぐに見つめる力を持ち、
身の周りの事をその本能が調べ、
その外部刺激が自分にとってどうあるものか、
それを鋭くストレートに見極めていた。
何事も素直に見つめる力を宿して居たのだ。
猫は野生で怖がられたが、その猫を見る人全てが
「とてもきれいな瞳をしてめちゃくちゃ可愛い」と褒めて居た。
ある時、その猫に一人の男が近付いた。
彼はまるで無償の愛を以て猫に繰り返し近付き、
手袋をして猫を可愛がり、撫でて、ご飯も与え続けた。
彼はその昔、自分の飼い猫を亡くして居た。
今となってはすっかり愛猫と成ったその猫に、子供の頃、
非道い悪戯をした事があったのだ。
それを悔いて
「今度こそは本当に、本気で猫(アイツ)を愛したい!ちゃんと愛せる様になりたい!」
と何度も心と口で豪語して、空想の中でそれを実践して来て居た。
神様の下(もと)で、信仰の力に依っても、猫を愛そうと試みて居た。
そんなある日の事。彼の愛情に猫も気付いたのか。
体の姿勢と気配に前ほど勢いを見せず、警戒を少しずつ解き、
しばらく彼の様子を見るようになった。
そんなある日、彼がいつもの様にご飯を持って来て食べさせ、
そのあと顎から頭、そして体を撫でて居た時の事。
猫は自分から彼に歩み寄り、体を撫でさせ、
それまで辛かったぶんそこに温床を求めようとした。
彼は「もしかして報われたのか!?」と本気で喜び、
更にその猫を愛し可愛がった。
それからである。猫は躊躇せず彼に近付く様になり、
彼もその事に嬉しさを感じ、抱擁した。
互いが歩み寄る様になり、
まるで孤独を悲しみを埋め合う様に慰め合って、
そこに絆のようなものさえ生まれていたのだ。
この様子を傍(はた)で見て居たのが或る女の子であり、
その子は少し前に失恋し、全ての男を恨んで居た。
その挙句、人間不信にまで陥り、
それが衝動であるとは知りつつも、
そのあり方はずっと治らないと妄想して居た。
彼女は奥手でシャイな性格である。
でもその猫と彼の様子を見て居る内に、
「あの警戒が強過ぎる猫ちゃんがどうしてここ迄…」
と少し疑問を感じるようになっていった。
その疑問に又解決を見たいと追求し始め、
自分なりの妄想とそれ迄の空想、
そして猫ちゃんからやって来る外部刺激が彼女を変えた。
同時に、猫の率直さを学び、
「あれだけ人を警戒し、愛から逆行するような強い姿勢にあったのに…この変わり様は」
…寂しさと悲しみを人に癒して貰おうと正直に近寄り、
それだけ甘えられる野良猫の性格を羨んだ。
「自分もその正直と、愛に直結出来る素直さが欲しい…」
そう思う。
そしてその子は数年後、今の夫と一緒になり、平穏で、
幸せな人生(みち)を歩んで居た。
「私はあの時に、あの猫ちゃんに愛情の示し方教えて貰って、その極端な迄の愛情表現が人に対してどんなものなのか…それを諭された気がするの♪」
なんて時々夫と談笑したり。
猫ちゃんは今天国に帰り、この二人も一緒に見守って居るのか。
その猫を愛した彼は、昔少女だった彼女に、
猫に纏わるいろんなエピソードを聴かされて居る。
そして時々、彼女の夫と一緒になって談笑したりもして居た。
動画はこちら(^^♪
https://www.youtube.com/watch?v=K9Gb4oIzGZM
野良猫の愛 天川裕司 @tenkawayuji
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