第40話

歩side



アレは……。




入学式。


突然始まった茶番劇。




周りは騒然としてるが、心底どうでもいい。




ふわぁぁぁぁ。




早く終われよ、帰って寝てぇんだよ。




入学式のことをすっかり忘れて徹夜でバイトした。




ちょっと休む……そんなつもりでベンチで寝てたら、出会った女の子。



見ず知らずの腹を減らした俺に、朝ごはんをくれた。




確かに同じ高校だって言ってたな。



その女の子がいた。




何してんだ?




自分を織田信長だと言う変な生徒会長と対峙してる。




知り合いか?




綺麗な長い黒髪。



大きな黒い瞳。



猫みたいな、しなやかさと愛嬌、凜とした雰囲気。




確かに彼女だ。




でも…………違和感。



朝は柔らかくポヤポヤした感じだったのに、今はまるで獣。




今にも敵に飛びかからんばかりの獣。




なんだ……?



名前は……なんだったっけ?




い……いお……




ああ、桜だ。



名字は忘れたけど。




似合った名前。


聞いた時にそう思った。




まだ会ったばかりなのに、目が放せない。




なんでだ?




騒がしい中、視界に入るのは彼女だけ。




彼女はこっちに気付いていない。



そりゃそうだ。




これだけの人の中で、たった一回だけ会った俺がわかるはずがない。




でもそれを淋しいって思うこの心は……なんなんだ?





って‼




「ハァ?」




何かはわからないが大量の物が彼女と彼女のツレに投げられた。




それに逃げずに立ち向かう彼女。



大きな瞳を鋭く細め、まるでダンスを踊ってるかのように投げられた物を絡め取っていく。




すげぇな。



1つ1つの動作が美しく見惚れる。


それは周りも同じ。




だが、1つだけ……時間差で彼女のツレ目掛けて投げられた物には反応出来ず……。




バッ!と自分の身を投げ出した。




自分の身を盾にするつもりか!?





「アホかっっ」




関係ないのに。



面倒くさいのに。




たった一回会っただけのーーーーーー桜。



なのに、ほっとけない。




俺は飛び出し、桜の前に立つと、それを叩き落とした。











それは、クナイだった。




おいおい……。




「……歩様?」




耳に心地好い桜の声がした。




……様?

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