旅行ジャーナリスト 我妻美乃梨④

 編集長、お時間頂いちゃって、凄くお忙しいのにすみません。でも本当に嬉しいんですよ、この連載をスタートさせられるなんて。私が『ホラースター』に記事を書ける日が来るなんて思いもしませんでしたからね。


 もう、ずっとあこれてた雑誌ですから、正直ちょっと浮かれてます。いや、浮かれてばっかりじゃダメなのは分かってますけどね。


 これまで私、ずっと旅行ジャーナリストとして、各地の温泉だの、絶景スポットだの、美味しいご当地グルメだの、まあそういう明るいテーマをあつかってきたわけじゃないですか?


 もちろんそれも大好きですし、取材するたびに新しい発見があるからやりがいはあるんですよ?ただもっと人間の内面ないめんに触れるような記事を書きたいって前々から思ってたんです。


 旅行って、結局その土地や景色を通して人間そのものを知る行為こういだと思ってますから。それが今回のキャンプ場の記事。まさかこんな形でその願いが叶うとは思いもしませんでした。


 正直、最初はどう書けばいいか迷ったんです。心霊現象だの、オカルトだの、そういうテーマはこれまで自分が好きだけど、書くことはけてきたジャンルでしたから。でも、あのキャンプ場で聞いた話や見た風景は、私の中でずっと引っかかっていて書かずには居られなかったというか…小説家みたいですって?編集長、私を少し馬鹿にし過ぎだとおもいます。


 まぁ、編集長もご存知の通り、あのキャンプ場は表向き本当に普通の観光地ですよ。木々が生い茂る自然豊かな環境に、子供連れでも楽しめるアクティビティが揃っていて、地元でも親しまれている部分もある。実際、私も最初に行った時は、そんな心霊現象があるなんて信じられないくらいで。


 でも、話を掘り下げていくうちに、だんだん見えてきたんですよ。その裏側に潜む、説明のつかない出来事や人々の証言。例えば、あのインスタの投稿。き火を囲む女性たちの笑い声が響く中、動画に写り込んだ親子の霊。最初は偶然ぐうぜん産物さんぶつかとも思ったんですが、その後の投稿者や友人の様子を聞くと、どうもただ事ではないなと。


 それに、日の出新聞の井上さんから教えて頂いた『みっこちゃんのおうた』。これも本当に不気味ですよね。私はあの歌を実際に耳にしたわけじゃないんですが、掲示板で話題になっている内容を追うと、なんとも言えない寒気がします。


 子供の歌う無邪気むじゃきな歌がこんなに不安をき立てるものだなんて。編集長、これが人間の想像力というものなんでしょうか?それとも、もっと現実に根差した何かがあるのでしょうか。


 すみません、話がれちゃいましたね。


 編集長には感謝しかないんです。この連載のチャンスをいただいて、本当にありがとうございます。私は旅行ジャーナリストですから、基本的にはポジティブで読んで楽しい記事を書くのが仕事です。でも、こういうかげの部分、いわば心のやみに触れるようなテーマに挑戦する機会は、自分を新しい方向に成長させる絶好のチャンスだと思ってるんです。


 もちろん、私自身も怖いんですけどね。現地で取材している時も、夜になると外に出るのが本当に怖くて。幸い、責任者の齋藤さんが夜間の案内も引き受けてくれたんですけどね。


 でも、この記事がきっと読者の心に何かを残せるものになると私は信じています。経験や取材で得た情報が、単なる娯楽ごらくじゃなくて、何か考えるきっかけになればいいなと思ってるんです。もちろん、しっかり怖さも伝えつつ、書く事を意識してるんですけどね。


 そうそう、次回はキャンプ場の過去にあった事件について掘り下げる予定です。井上さんから伺った失踪事件や不可解な自殺の話がいくつも見つかって。それに加えて、噂になっている水神様のほこらの伝承も。調べれば調べるほど、このキャンプ場にはまだ隠されている謎が多いと感じています。


 あ、長々と喋りすぎちゃいましたね。申し訳ありません。編集長、これからもご指導、ご鞭撻べんたつよろしくお願いします!え?そんな畏まるのは我妻らしくない?また馬鹿にしましたね?編集長には次回の原稿でも驚いていただけるよう、精一杯取材してきます。


 では、失礼します!

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