ヤラぬキ␣ルズィカル

イズラ

「プロローグ」

 深夜、月が西に傾いた頃。

 波音立つ海の上を、 ”何か”が弾むように歩いていく。

 それは、10歳前後の少女のような姿で、金髪おかっぱに前髪はちょんまげ、白い布切れ一枚を身にまとっていた。

 顔つきは、気味が悪いほど大人っぽい。細い目は、斜め下の方を見続けている。

 その"何か"が目指す先は──

「*、*」

 海を越え、また越えた先にある、小さな島──ヴァーラ島。

 ある14歳の少女が住む、孤島──。


     *


 ある朝、木々の間を駆ける少女の姿があった。

 白髪おかっぱを風になびかせ、森中、何かを探し回る。それはそれは、必死の形相で。

「……どこだ」

 酷く掠かすれた声だった。

「……じゅの──」

 そのとき、目に何かが止まったようで、少女は急ブレーキで立ち止まり、頭上を見る。

「──ま……!」

 そのとき、少女の視線の先にあったのは、赤色の和傘──。

 細い木の枝に引っかかっている傘は、微かにプルプルと震えていた。

「──早くしろ!!!」

 そのとき、怒号が森を揺らす。

 それは、引っかかった傘から発せられているようで──。

「……待ってて……!!」

 少女も掠れた声で、精一杯怒鳴る。

「──早くしろって言ってるんだよアマがっ!!!」

「待ってて……!!!」

 そう言っている間に、少女は腕や脚を伸ばしたりなどの動作をしていた。

「……準備運動しないと……!」

 ある程度終わると、少女は地面をぐっと踏み固め、少し屈かがみ、飛び上がる姿勢に入る。

 ──が、その時、木々の隙間から、別の何かが飛び出した。

 それは、とんでもない跳躍力で跳び、一瞬、日に重なったかと思うと、枝に引っかかった赤和傘を片手でぶん取る。

「……あっ……」

 赤和傘を手に取った”そいつ”は、勢いのまま、太い枝に着地する。

「──ざーんねんっ! まーたやり直し!」

 黒髪ロングツインテールの少女は、甲高い声で高らかに言った。

「──アアアアァ!!! クソアマァ!!! テメェがトロトロしたせいだァ!!!」

 ”赤和傘”の怒号は、より一層大きくなっている。

「──『クソアマ』だってさー! ペタちゃんだいじょうぶーっ?」

 そのとき、白髪おかっぱの少女──橋切はしぎりペタが、音も無く跳ぶ──。

「──んっ?」

 赤和傘を持った少女の近くに着地し、片足の幅ほどしかない枝を蹴り、再び音も無く、少女に飛びかかった。

「え、まじ──」

 黒髪の少女は、 逃げる行動にすら移れず、顔面パンチを食らった。

「ドゴォッ!!!」

 取り返された赤和傘も、ついでに木の枝に勢いよく叩きつけられた。

「ンンンッ!!!」

「──久々に、ムカついたな……」

 ペタは、紺の着物に付いたほこりを払いながら、静かに呟いた──。

 赤和傘と少女は、地面に落ちると、再び、「ドゴォッ!!!」、「ンンンッ!!!」と悲鳴を上げたのだった。


     *


「……それで、私たちで遊んでいたと……」

「……はいぃ……」

「……『宝探し』に、他人ひとの私物使わないで……」

 ペタは大きな大きなため息をつき、うつ伏せに倒れた少女を呆れた目で見る。

 その手には、先ほど地面に落とした赤和傘があった。

 気絶しているのか、今は言葉を発さない。

「……もういいわ……。……早く、病院行くわよ……」

 ペタは傘を地面に置くと、相変わらず倒れたままの少女を起こし、肩を貸して運ぶ。

「うごきだくないぃ……」

 少女は肩を組んだまま駄々をこねる。

「……じゃぁ、ここで一生寝てる……?」

 鋭い視線が向けられた。

「やだぁ……」

 ──少女は、ヴァーラ島唯一の病院で、しっかりと看病されたのだった。

「……んぁ?」

 赤和傘は、しっかりと置いていかれた。


     *


 ──エリス島に住む14歳の少女『橋切はしぎりペタ』。

 やまいを治すため、ある呪術師を探していた──。

 ──「プロローグ」・完

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