【短歌30首】湊町から東京までの距離のこと

さとうきいろ

両親のエンディングノートの置き場所をわたしのエンディングノートに記す

両親のエンディングノートの置き場所をわたしのエンディングノートに記す


同棲を解消したときふたりとも引き取らなかったもの詰め合わせ


処女雪を汚してしまった原罪が新居の湯船に滲み出ていく


通販でしか買えなかった洋服がどこにでもある東京である


新宿のルミネでブレスレット買う帰省の切符くらいの値段


しあわせになる勇気がないここには魚を落とす鳶もいない


雪予報 彼氏に傘を持たされてそれなら高いヒールにしよう


本当の話ばかりの飲み会でわたしは魔法のはなしがしたい


たまに会うだけなら喧嘩もしないので帰省は二泊までとすること


新しい市立図書館の愛称が未来に決まり青春おしまい


廃墟めく個人サイトに残された掲示板には恩師の書き込み


十歳で初めて食べたステーキは脂身ばかりでしたね母さん


自転車で行ける範囲は限られてあのBOOK・OFFが国境だった


だいたいはあの頃のままなんだけど天井のしみが微妙にちがう


ジェラート屋、ほうじ茶アイス屋、なくなったアイス屋の場所廻って歩く


コーヒーの染みもそのまま十七のころ読んだ本は閉架でねむる


変わらずに続けたはずの生活でわたしはこんなに変わってしまった


中町にはゆうれいがいる制服で二段重ねのジェラートを持つ


ふるさとの自分の部屋に置いてきたたましい(これは通信簿のこと)


ステーキを食べてる時さえ埋まらない欠落のことを孤独といいます


わたしもうお客さんだね雪道の歩き方さえ覚束無くて


ひとりでは入れなかったラーメン屋にひとりで入ってチューハイ頼む


「なかよし」を毎月買ってた駄菓子屋は去年空き地になってしまった


遠くない未来我が家は空き家になりますが、って話をしなきゃ できない


たくさんのことを知ってしまったら故郷の狭さに気づいてしまう


母親が私を産んだ歳を越え都会じゃキャベツ畑もないし


目をつぶり思い浮かべるこれまでに住んだすべての部屋のカーテン


東京へ向かう五時間半の道わたしはゆっくり脱皮していく


ふるさとで過ごした時間×(かける)2 <(しょうなり)これから過ごす人生


四十歳になるころ実家の庭を掘りタイムカプセルを埋めようと思う

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【短歌30首】湊町から東京までの距離のこと さとうきいろ @kiiro_iro_m

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