第1章 妖精の国パトリフィア
第1話 動き出す運命
「はぁ……はぁ……」
ここは、日本とは異なる世界ディエスピラ。
この世界にある三つの大陸のうち、一番南端にある大陸はサウザンバーグと呼称されている。
そのサウザンバーグのほぼ中央部に位置するアモルゴ大森林は、周囲を山々に囲われ、南方に
そんな森林を、呼吸を荒らげながら歩く一人の女がいた。
彼女の細く長く綺麗な
「私のせいだ…………私が弱いせいで……王女様が……」
後悔の念をこぼしていると、突然の
その衝撃で
「
女は情けなさのあまり右の
────ああ、私は何をやっているのだろう。こんなはずじゃなかったのに。
女はそんなことを考えながら、数日前の出来事に思いを
◇ ◇ ◇
女は、数百人ほどのエルフたちが住む妖精の国、パトリフィアの
パトリフィアは、アモルゴ大森林の北部の中央に位置する小さな国で、国の最北部には現国王が
フレシアという名を授けられた彼女は、とある
病で父親が亡くなってから自らが全ての作業を行うようになると、フレシアの整った顔と抜群のプロポーションに目を付けられて美人農家との評判が広まり、今ではパトリフィアでは知らない者はいないとされるほど一躍有名になっていた。
そんなある日、国家を揺るがす大事件が起こりパトリフィア中の国民が
現国王、シュプリム・ラ・パトリフィア女王陛下の
国王を含む城内部の人物で不審な
王女の部屋は
また、部屋の扉とは反対の東側には、アモルゴ大森林の東部やその奥に連なるパミラーナ
その窓ガラスが派手に破られていて、部屋内部に
他に有力な証拠として、城の外壁に何かを
アモルゴ大森林に生息している木の実を採集していた時に、ウルティア王女らしき人物を見かけたというのだ。
王女を連れ去った者の顔は見えなかったそうだが、同種族のエルフにしては体格が大きく、明らかに
こうして犯人の目星は付いたものの、女王は頭を抱えた。
何故ならこの国には、騎士団や傭兵のような
ゆえに、諸外国との紛争が万が一起きた時の対処をどうしようか、時折大臣と女王が揉めている姿を垣間見ることもあるほど、平和すぎることを
しかし、それでも急造の兵力の統率が整うはずもないだろうと考え、国民から代表して一人だけ、王女を
そんな時に
彼女が選ばれた理由としては、普段から農作業を行っているため
こうして、他の候補者もいる中で最終的に選ばれたフレシアは、城を訪れて女王陛下と対面し、彼女の口から
その後自宅へ戻り、父親がその昔使っていたという
フレシアはまず、王女の目撃情報があったとされる地点まで歩みを進め、そこを一時的な拠点として、アモルゴ大森林を中心に王女の探索を開始した。
その過程で、森に住む様々な野獣や昆虫、鳥の群れ等と戦いながら経験を積み、受けた傷は持ち前の農作物の知識を活かして、野生している植物を見極めて治療に用いた。
こうして、野宿と
パトリフィアを旅立ってから十日ほどが経とうかというこの日。
フレシアは、アモルゴ大森林の
アモルゴ大森林と、そこより東に位置するパミラーナ大峡谷は、西部より一際大きな山々によって分け隔てられており、山の森林側のふもとには、ほぼ垂直な
フレシアが目にしている
ここに目を付けたのは、昨日の昼過ぎ頃にこの洞窟へ、肩に斧を担いだ牛の頭をした大男が入っていく様を、近くの
この特徴を持つような種族を、フレシアは国の
「ミノタウロス……何で、こんなところに……?」
ミノタウロスは、アモルゴ大森林の西部にある小さな山を挟んで反対側の、カルクルシアという集落の集合体から生まれた国に住んでいて、
集落の
また、パトリフィアとは違って国民全員が武器を所有しているものの、パトリフィア以上の
「これは一体……どういうことなのかしら……まさかミノタウロスたちが関わってるなんてね……」
武器も武力も持ち合わせているが、平和を望む彼らの技術を盗もうと、古くからエルフたちを除く他種族の
もしかすると、ミノタウロスたちを
色々と疑問に思うことは絶えないが、怪しすぎるこの洞窟にウルティア王女が必ずいると思ったフレシアは、早速中へ入って
洞窟の内部は道が分かれていたり、壁から岩石が突き出ていたりと複雑に入り組んでいて、
また、ちょっとした物音でも認識できるのか、洞窟内の魔物たちはフレシアに容赦なく襲いかかり、松明を守りながら狭いところで戦うことを
「なんで私が……こんな目に……くっ!」
連日の
やがて辿り着いた洞窟の
フレシアは、そこへ向かう通路の途中に突き出した岩場の陰から、最奥部の様子を窺うことにした。
中には昨日見かけたと思われるミノタウロスが一人、壁に斧を立て掛けて胡座をかき、壁に寄り掛かるようにして座っていた。
そしてそこから右の方、フレシアの位置からギリギリ見える角度の地面に、誰かの足元が確認できた。
フリルがたくさん
この時、フレシアの中で未だ燻っていた疑問が
──助けなければ……!
最早ほかに何も考えられず、ただそれだけを胸に、背負っていた剣を
「ウルティアさ────」
ズバッ
プシュッ
ザクッ
ボテッ
カランカランカラーン……
フレシアは叫ばなかった。いや、叫べなかった。
何故なら、わずか数秒の間に連続して響いた五つの擬音が、フレシアの注意を完全に
最初に、何かが何かを勢いよく切り裂いた音。
次に、何か液体のようなものが吹き出した音。
次に、何かが洞窟の
次に、何か
最後に、何か金属のようなものが落ちた時の
それらが止んだ時、フレシアは自らの左側を空を切り裂いて飛んでいったものと、自らの足元に落ちた二つのものを交互に見比べて、その時初めて
「うわああああああああああああああああああああ!」
洞窟の通路に
自分の声で
今までの人生で、腕に愛情を持ったことはない。
皆あって当たり前のものであり、『物』というよりは『
その腕が、
まるで大の親友が亡くなったかのような気分になり、フレシアの目から溢れんばかりの涙が流れた。
また、
文字を書く時も左手でペンを持ち、食事をする時も左手で食器に手を伸ばし、腕と一緒に地面に落ちている剣も、パトリフィアを旅立ってからもずっと左腕で抜き、左腕で切りつけて、左腕で
ゆえに両手で顔を隠して泣こうにも、左腕がないため右半分しか
「何なの……何なのよ……ははっ……意味がわからないわよ、もう……」
しかし左腕はまだ痛むものの、最奥部の壁に突き刺さっている大きな斧を投げた犯人を目に焼き付けておきたくて、フレシアは恐る恐る後ろに振り返った。
そこには、奥に座っているものと別のミノタウロスの大男が、
その様子にフレシアは恐れおののく。
明らかに、彼女を敵として認識しているような気がしたからだ。
だが、お互いに今は武器を手にしておらず、
ただ、フレシアの方が近くに武器が落ちているため、それを使って戦うことは出来るが、片腕しかないため持ち替えられず、しかも利き腕ではない右腕しか使えないため、非常に不利な状況であることに変わりはない。
「これはさすがに……勝てそうにないわね……」
と、ミノタウロスが走り始め、フレシアが死を覚悟したその時だった。
「その声はもしや、フレシア様ですか!?」
奥の空間から、幼い女の子の声が通路に響いた。
しかし、迫り来るミノタウロスを避けるために、すれ違いざまに横に転がって躱してから、
「やはりウルティア様でございますか!? 私です! 農家のフレシアです!」
ミノタウロスを避けて回り込んだことで、フレシアの視界の先に最奥の空間が再び映り込むが、やはりウルティア王女とはお互いに岩盤が死角になっているようで、反響する声でしか王女本人だと確信できない。
「今の今まで私は眠らされていましたが、斧の音とあなたの叫び声で気がつきました! パトリフィアは大丈夫でしょうか!? お母様はご無事でしたか!?」
エルフという種族は皆、耳が斜め後ろに
ウルティア王女も、ミノタウロスの斧のが壁に突き刺さる音と、フレシアの叫び声をその耳がとらえて気がついたようだが、それまでに全く目が覚めなかったとすると、
しかしフレシアにはそんなことを考える余裕もなく、今の自分の姿を見せたら王女はどうなってしまうのだろう、そう考えるだけで心が
だから彼女は、ウルティア王女を──
「大丈夫ですウルティア様! 我が国は至って平和でございますし、シュプリム女王陛下もご現存でございます! しかしながら、私は
「何故ですか! 貴方ほどの
王女の言葉に力が感じられなくなっていく。
──これでいい。私の身体を見て悲しまれるより、
王女の中でのフレシアの人物像が、どれほどのものなのかは本人も気にはなるが、今はたとえ勘違いされてでも無理だと強がるしかないと、フレシアは考えていた。
何せ片腕を失った今のままでは、成功する可能性があまりにも低すぎて、本当に無理なのだから。
「申し訳ございません……ですがウルティア様! もし……もしもう一度ここに戻って来れたのならば! その時は、
左腕の出血は止まることなく、血の海になった足元を見ないように顔を上げて、今にも
必死の頼みを受けてか、しばしの
「……分かりました。約束ですからね! 破ったら
その言葉を聞いて、いよいよ死ぬのではないかと悟りかけたフレシアは強く心を打たれた。
今までフレシアが、パトリフィア国内で時々
だがそんな王女が今、自分のことを呼び捨てにしたのだ。
この変化は、フレシアを年上の尊敬に値する人ではなく、家族のような、そして実の姉のような親しみを込めてそう呼んだのではないか。
そう考えた時には、フレシアは泣き止んで笑みを浮かべていた。
まさか王女が、
今はそれを考えている場合ではないからだ。
そしてフレシアは、大きく息を吸って一言、
「ウルティア!」
と叫び、一呼吸置いてすぐに続けた。
「必ず、戻ってくるから! 必ず……!」
「ええ! 待ってます……いいえ、待ってるからね!────!」
王女の──ウルティアの最後の言葉を聞く前に、フレシアは洞窟の出口へ向かって駆け出していた。
会話中に何故か一切動かなかったミノタウロスが、
段々と遠ざかっていくフレシアの足音に、ウルティアの目から
その音は洞窟の岩壁で反響して、やがて儚く消えていった。
◇ ◇ ◇
どれくらいもの間眠っていたのだろうか。
フレシアは背中を木に預けたまま目を覚ました。
洞窟を抜け出してから、アモルゴ大森林をふらつく足取りで歩いていたフレシアは、どうやら先ほど木を殴ろうとした時に、精神的にも肉体的にも
空を見上げるとすっかり帳が降りて、目を
この暗闇の中ではすぐには見つからないだろうとはいえ、フレシアが今いる場所は、洞窟の入口からそう遠くないところなのだ。
このままでは、見つかるのは時間の問題だろう。
またここまで暗いのでは、仮の
そう考えたフレシアは、右手を使って立ち上がると、木に打ちつけた頭を押さえながら、
眠っていた場所からものの二百歩ほど歩いて、フレシアは
だがそこは、大きく割れた崖の間の
先の出来事で左腕を失い、一度は寝て疲れを取ったものの、未だ貧血であることに変わりはない。
その他に負った傷の
今日一日で大幅に縮まった
三度目の正直で本当に終わりを覚悟した時、
王城で
彼女のことを思うと、フレシアの顔には自然と笑みが浮かんだ。
「また明日頑張ろう。ウルティアが私を……待ってるから!」
今度は右腕がなくなろうと構わない。
両足を失って歩けなくなっても構わない。
首だけになっても、彼女の──ウルティアの顔さえ見れればそれでいい。
ザシュッ
何かが何かを切り裂いたような音が響いた。
それと同時に、フレシアはバランスを崩してしまい、川に向かって落ちていった。
フレシアには一体何が起こったのか分からなかった。
気がついたら自分が下に落ちているのだ。
しかし
フレシアは今、空中を回転しながら落下しており、
その瞬間に、これまた土壇場で鋭敏になった
フレシアが落ちた地点から、本人よりも少し遅れて、円柱形の物体が川に向かって真っ直ぐに落ちていった。
よく見るとそれは人の足であった。しかも右足である。
フレシアはほんの一瞬だけ下半身に目をやると、自分の右足の太ももから先が、綺麗になくなっていることに気づいた。
しかし自然と痛みは感じることはなかったのだ。
アドレナリンのような成分がフレシアの脳内で分泌され、それらが痛みの感覚を
一回転目ではこれが限界で、続く二回転目に再び上を見るチャンスがきた。
するとそこには、フレシアを追ってきているはずのミノタウロスではなく、彼女が一度も見たことのないような格好をしたヒュムノスの男が立っていた。
ヒュムノスとは、地球上で言ういわゆるヒトに相当する種族で、ディエスピラ
フレシアは男が着ているその服装──シルクハットと
一つは、ヒュムノスゆえに同じエルフの一族ではないこと。
彼女が謎の男の種族を
そしてもう一つは、男がこちらを見下ろして
あの顔からは、フレシアに対する純粋な悪意しか感じられない。
二回転目はここまでで、更にもう一回転する余裕があったため、三度崖を見上げることにした。
この時点で川の水面には、すでにフレシアの尻が浸かり始めているが、男の口が動いてる様子を視界に
フレシアは
(さ……よ……う……な……ら……キヒヒヒヒ……)
後半は独特な笑い声だったが、前半の言葉に大変ショックを受けたフレシアは、それまでほぼ
「きさばがばぶあるああっ!」
だがついに顔まで完全に川に浸かってしまい、開きかけた口に大量の水が流れ込み、水中にまで沈んだため鼻呼吸すらできず、歯切れが悪いままフレシアは下流へと流されていった。
「キヒヒヒヒヒ! これは
フレシアが落ちていく様を崖の上から見下ろしていた男は、手袋をした手に持ったステッキで彼女を指して、
その後、そのステッキを反対の手で受けたり放ったりしながら、男は誰に聞かれるでもなく語り始める。
「ディエスピラの〜こんな辺境で見つけた僕のコレクションを〜、誰にも〜渡すわけなーいじゃなーい。それに〜、誰だか知らねーけど〜、勝手に僕の兵士たち〜、軒並み倒されちゃって困る〜」
おとぼけた
そこでは二体のミノタウロスが、入口を塞ぐようにして並んで立っていた。
二体とも腕を組んでおり、それぞれが一振りずつ背負っている斧の
「やぁやぁ君たち! 元気してるかーい?」
シルクハットを片手で少し持ち上げつつ、にこやかな笑顔で彼らに話しかける男。
しかしどういうわけか、ミノタウロスたちは返事はおろか視線すら動くことはなかった。
「おっ、そうかそうか、王女様は少々
少し前かがみの姿勢で背中を反ったまま、これまた手首も反らせた
そんな彼を見ている、というか傍にいることにも気づいているだろうが、一向に何の反応も示さないミノタウロスたち。
非常にシュールなこの場面の
「はぁ……まあ
今度は二本指で敬礼した男は、ミノタウロスたちを手にしたステッキで軽く
そのミノタウロスたちは、結局男に何をされようと
「さぁーて、僕の大切な
半円に曲がったステッキの持ち手を手首にかけてグルグルと回しながら、洞窟の奥へと歩みを進める男。
「やっほー王女様。元気そうでなによりなにより。キヒヒ」
広間の手前の通路から、首だけを伸ばして中を
その視線の先では小柄な女性が、壁に
女性の頬は
「まあまあ、そうカッカしないでさ、少しは落ち着いたら? せっかくのお化粧とドレスが台無しになっちゃうよ、ね?」
言いながら男は女性に歩み寄り、彼女の後頭部で結われた猿轡の拘束を
すると息付く
「誰のせいですか! いきなり私の部屋に侵入して、こんな所まで攫ってきて、何日も放置しておいて、
「嫌だなぁ、僕の
両手で目を擦る動作をする男。
女性からもひと目でわかる、見え透いた嘘泣きである。
「それに何ですか! 私に姉はいますが、フレシア様ではございませんよ! 『待ってるからね、お姉ちゃん』……ふん、
「残念だけど、君には最初からいなかったじゃないか。
その言葉を聞いた時、男を睨む女性の目の色が変わった。
「な、なんでその名前を……部外者であるあなたが知ってるんですか!」
「なんでって、あの国じゃ噂程度には有名じゃないの? 『
「で、でも、あの人は……ウルティマお姉ちゃんは、今もどこかで生きて……!」
「君の姉は死んだ! もういない!」
「っ!」
食い気味に叫んだ男の声に、女性は顔がひきつり、僅かながら
何故なら、男の表情から
「いい加減にしろよ
何も言い返すことができずに歯を食いしばっていると、急に
「あ、さっきのフレシア……だっけ? あいつ殺したから。というか勝手に自殺したから」
「え……うそ……なんで……あの
「いやあね、さっきこの近くまで来てたじゃん? ミノタウロスに何されたか分からないけど、走り去る彼女を見たらさ、左腕が綺麗に切り落とされてるのね。気になって追いかけてみたらさ、全身血だらけ傷だらけの状態で崖の上に立ってたのよ。どー見てもありゃ自殺直前だろうからねー。押しても
「貴様ああああああああああっ!」
女性は怒りのままに声を荒らげ、
男はそんな女性の様に
「おーよしよし。いい子でちゅねー。あの女と似たような顔しましゅねー。まるで……
「何を言って──んんんんんんんーっ!」
赤ちゃん言葉であやす様に撫でながら、小声でそう呟いた男は、未だ反抗の意思がある女性の口を、左手で顔ごと鷲掴みにするようにして塞いだ。
「まあまあ、君には関係のない話さ。とりあえず、近いうちに君の国でやるイベントに用があってね。君にはそのための
「んんんんんんんんんーっ!」
「えっ? 今から何をするかって? やだなぁ、今から僕が君に成り代わるのさ。君を食べることで、僕は君に成れるんだ。そういう力をちょっと前にある人から貰ってね。おっと、食べるというのは性的な意味合いはないよ! 頭から物理的に、僕の上の口で食べるのさ。 あ、僕には下のお口なんてなかったね。君にはあるけど。キーヒャヒャヒャヒャヒャ!」
──この男は何を言っているの?
男の底知れない
しかし何故か、見てないはずの男の顔がくっきりと浮かび上がってきて、更に複数に分身して我が身を追いかける悪夢が、彼女の中の何かを破壊した。
──いやああああああああああああああああああ!
もはや何もかもが絶望にしか感じられなくなり、
だが──
「あーこの服とかどうしよっかなぁ……まぁいっか。食べながら脱がせばいいし、最悪
──見なければよかった。
女性は自分がしたその選択を、本気で後悔した。
そうすれば、女性の目がこれ以上ないほど
「すっ!」
花が咲いているかのような、不気味な開き方をした男の口が、女性の全身を一瞬で
──助けて、お母さん!
──助けて、フレシア!
──助けて…………お姉ちゃん!
──誰か私を……助けて!
女性の──ウルティア王女の声なきSOSは、男の耳にすら届くことなく、静かに意識の底に沈んでいった。
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