第12話

"椿ちゃん"





何度だって聞いてきたし自分の口からも呼んできたのに。男の口から名前が出ただけでビクリと肩が上がる。





もう、条件反射なのだと思う。





今まで何かと比べられてきた。私の話をしている時でも「椿は、」と。両親の口からはすり替えるように必ずその名前が紡がれた。その名前が出れば後はもう姉の話ばかりになる。





みんな私を忘れたかのように椿は、椿ちゃんは、と。その名前を紡いで讃えて褒めちぎる。






だから名前を聞いただけで反射的にビクついてしまう。卑屈になってしまう。嗚呼、また姉の話をするのか。また比較して遠回しに私は貶されるのか。脳内を占めるのはそんなつまらない嫉妬の感情ばかりになる。





それをこの男は知っている。その上で姉の名前を口にして、思い通り肩を上げた私の反応を見て意地の悪そうな笑みを浮かべるのだ。

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