第2話 八木の過去
八木健一は、かつて大学病院で食道外科のエキスパートとして名を馳せていた。彼の日常は高度な手術の連続であり、特に難易度の高い手術を任されることが多かった。しかし、ある日、手術中に横隔膜を損傷してしまい、さらに肝臓の合併症を引き起こしてしまった。患者は命を落とし、八木のキャリアは一瞬にして崩れ去った。
この医療事故をきっかけに、八木は大学病院を辞めざるを得なくなった。彼は自分の過失を深く悔やみ、精神的に追い詰められていった。そんな中、彼を外科医として迎え入れる病院はなく、医療過疎地である山陰の刑務所内の医務室へ左遷させられることとなった。
しかし、八木の心はその現実を受け入れることができなかった。彼は自分がまた近いうちに一流外科医師として働けると信じ込み、刑務所の医務室で日々の業務をこなしているつもりでいた。実際には、彼自身、手術の無い医務室では外科医としての能力が日々落ちていることになるのだ。
ある日、八木は再び深井の診察を行っていた。深井は静かに八木を見つめ、言った。
「先生、あなたがここにいる理由を本当に知らないのか?」
八木はその言葉に再び動揺した。「どういう意味だ?」
深井は深い溜息をつきながら続けた。「あなたはここで医者として働いているつもりかもしれないが、実際には私たちと同じ境遇なんだ。あなたの過去を思い出してみろ。」
その瞬間、八木の頭の中で過去の記憶がフラッシュバックのように蘇った。手術中の失敗、患者の死、医療訴訟、そして刑務所での勤務。全てが一つの線で繋がり、彼の希望が崩れ落ちた。
八木はその場に崩れ落ち、涙を流しながら呟いた。「私は…本当にここに居続けるのか?」
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