第2話
目が覚めると、私は木製のベンチに腰掛けていた。座席はガタンゴトンと揺れており、窓からは街が流れていく。
最後の記憶は、天使とどこからともない声に導かれ、白い大きな扉を開けたところだ。
その後…。どうしたっけ………?
まずは現状把握と、あたりを見回した。木製の座席に、車窓から見える景色の移ろい。そしてガタンゴトンという音。
どうやらここは列車の中のようだ。
ふと、自分が何かを握っていることに気付き、手のひらに目をやる。
『王都学園行き急行』
切符?私はこの"王都学園"に向かっているのだろうか。
列車は駅を通り過ぎるばかりで、一向に止まる様子はない。
急行だと書いてあるし、"王都学園"まで止まらないのかもしれないな、と考えた。
それにしても小さな手だなぁ、と切符を握る自分の手を見つめている折、ふと気になった。
私は今、どんな姿形をしているのだろう。
手の大きさがパッと見て分かるほどに変わっているのだ。ビジュアル全体も、大幅な変更が加えられているかもしれない。
期待と不安を半々に、周囲を見回すと廊下の端に掛けられた大きな全身鏡が目に入った。
足早に鏡の前まで来ると、その場で立ち尽くした。
「......これが............私......?」
言葉を失った。
そこに映っていたのは、小柄な超絶美少女だったのだ。
「うっ、痛っっ。」
ズキッと頭が痛んだかと思うと、記憶らしきものが流れ込んできた。
そうだ、この美少女は私がさっき作成したアバターだ………!
神様に願ったのは"普通の女の子"として転生することだった。それがまさか、こんな美少女に生まれ変わるなんて......。
鏡を見ているうち、段々と驚きよりも喜びが強くなってきた。
雪のように溶けてしまいそうなほど透明感がある肌、クリッとした丸くて大きい目、ぷっくりとした丸みのある頬、艶やかな黒のロングヘア......。
全てが私の好みで構成された、完璧な美少女。
心を落ち着けて考えてみると、前世であれだけ不本意な最期を迎えたのだ。これは神様からの贈り物に違いない。
ありがとう神様......このビジュアルで今世を謳歌します。
感動に浸っていたが、ぐぅぅというお腹の音で我に帰った。
ご飯はどこで食べられるんだろう。周囲の席は殆ど空席になっている。車両前方の柱に掛けられた時計は、12時半を指していた。
お昼時であることから推測すると、列車のどこかに食堂車があり、他の乗客はそこに居るのかもしれない。
未知の世界のご飯に胸を高鳴らせ、前の車両へと進んだ。
2つ先の車両の前に来ると、扉には
《レストラン 営業中》
と書かれたプレートが吊り下げられている。
扉を引くと鈴の音がした。腰にエプロンを巻きつけた、ウエイトレスらしき男の子が駆け寄ってきた。
「ただ今大変混み合っておりますので、他のお客様と相席でもよろしいでしょうか?」
大丈夫です、と答えると奥のテーブル席へ案内された。
アンティーク調のテーブルに、銀の燭台が映えている。この車両だけ電球の色が違うことから、(食べ物が美味しそうに見えるよう暖色の電球が使用されているのだろう)細部まで拘ってデザインされたインテリアであることが伺える。
統一された上品な雰囲気に感動していると、車両の奥の方にある2人掛けテーブル名前で、ウエイトレスさんが足を止めた。
「こちらのテーブルになります。ご注文がお決まりになられましたら、ベルでお呼びください。」
言い終えると、ベルが鳴っているテーブルへと足早に向かってしまった。
先に座っていた少女は、私と同じくらいの年齢に見えた。少女は、栗色の髪を綺麗に縛っておさげにしている。若草色の瞳からは爽やかな大草原が連想された。
不思議な雰囲気を持った子だな、と聡美は感じた。失礼します、と言って腰掛けると、私に笑いかけた。
「やだ、そんな畏まらないで。あなたも学園の新入生でしょ?」
「学園......?」
学園、そのワードに即座に反応した。切符に書かれていた"王都学園"と関係があるのだろうか。
「あなた、王都学園の新入生じゃないの?この列車に乗ってる人は、みんなそうだと思っていたわ。」
何かそれらしい答えを紡ごうとしたが、私はあまりにもこの世界のことを知らなかった。うーん.........と唸っていると、
「きっと何か事情があるのね。無理な詮索はしないわ!」
カラッとした笑顔で少女が言った。
しかし、私はこの世界について知らなすぎる。今の自分についてすら、この外見であること以外何も知らないのだ。いつまでも隠し通すことはできそうもない。
いつかはこの世界について知らなければいけないのだし………それならいっそ。腹を括り、これまで起こったことをありのままに話した。前世での死、アバターを作ったこと、目が覚めるとこの列車に乗っていたこと......。
「えー!何それ、素敵!!」
少女は目を輝かせた。
聡美は想定外の反応に驚いた。てっきり、信じてもらえず変人扱いされると思っていたからだ。
「信じてくれるの......?」
思わず尋ねた。
「もちろん不思議な話だけど。あなたずっと、私の目を真っ直ぐに見て話してくれたじゃない?その目を見ていると、自然と嘘じゃないと確信できたの。」
純粋な少女だ。自分で話したことだが、この少女がそのうち誰か悪い人間に騙されてしまわないかと心配さえした。
「ありがとう。」
心からの言葉だった。緊張で強張っていた頬が緩むのを感じた。
「照れるじゃない!さ、貴方も早く注文しなよ。」
そう言って、少女ははにかんだ。
チリンとベルを鳴らすと、先ほどのウェイトレスさんが足早にやって来るのが見えた。
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