いじめられっ子の逃げ場ぐらいにはなってやる
焼鳥
いじめられっ子の逃げ場ぐらいにはなってやる
「何もしてないのに。」
多分いじめだったのだろう。自分に見覚えは一切無く、けどいつしか標的になった。
誰もいない教室で、ずぶ濡れになった鞄を抱き抱える。
先生に相談しようにも見て見ぬ振りだ。親には言いたくない、汗水流して夜まで働いてるのにこれ以上負担をかけたくない。
「死にたい。」
きっと心の底に溜まりきった思いが形になったのだろう。そんな言葉が漏れた。
重い足を動かし、校門に向かう。
下駄箱で靴を取ろうとした、けどその手が止まる。
「いたっ。」
靴の中に画鋲が入っていた。ここまでやるんだと思った、暇な人達なんだな。
痛みに耐えながら画鋲を全て取り、靴を履こうとした時誰かに呼び止められた。
「お前大丈夫か。」
男子生徒だった。知らない人だが同じ制服なので、どうやら同じ学年の生徒のようだ。
「急いでるので...」
「鞄をずぶ濡れにしていて『急いでる』だ?いいからこっち来い。」
彼に腕を掴まれ、そのまま引きずられて、結局旧校舎まで連れられてきた。
私が通っている高校は数年前に校舎が一新された。費用の問題で旧校舎はまだ残っていて、そちらは現在倉庫や文化部の部室として使われている。
その旧校舎の一角、隅っこも隅っこの部屋に来た。
「入れ。」
「・・はい。」
これから何をされるかなんてどうでも良かった。もう抵抗する気力も出ないほどに私は残っていなかったのだから。
「これは。」
「そこに鞄置け。ドライヤー持ってくる、タオル必要は必要か。」
「大丈夫です。」
「そこの棚にお菓子入ってるから摘め。置かれてるアイパットにサブスク諸々入ってるから、鞄乾くまでそれで暇を潰せ。うんじゃ。」
「あっ...行っちゃった。」
部屋はいかにも部室を改造したものだが、見た目は秘密基地そのものだった。
色んな物が乱雑に置かれているが、机に置いてあるノートパソコンに目が行った。
ノートパソコンには「文系部」と書かれた付箋が貼られており、一応ここは文芸部のようだ。
「戻った。ほら濡れている物全部出せ、文句は言わせん。」
言われるままに荷物を広げ、彼はそれにドライヤーの風を当てる。
「何も聞かないのですが。」
「興味無いし、他人の問題に踏み込んで巻き込まれたくない。」
じゃあ何故彼はこんな事をしてるのだろう。
「だが目の前で死にたい雰囲気ダダ漏れの人間見て、何もしないのは無しだ。」
彼はそう言いながら、棚に仕舞っていたお菓子を私に投げる。
「適当に動画でも見てろ。」
私の意見など聞かないと言わんばかりに彼は作業を続ける。変な人だ。
30分程か、彼がドライヤーのスイッチを切った。どうやら終わったらしい。
「こんなもんか。これで帰る時に変な目で見られない筈だ。」
「ありがとうございます。」
彼にお礼をして、部屋を出る時にまた呼び止められる。
「お前何もせずにまた学校に来るつもりか?・・・これ持っとけ。」
渡されたのは鍵だった。
「これは。」
「この部室の鍵だ。何かあったら此処に逃げればいい、なんなら教室行かずにこの部室でサボっても構わん。」
「何故ここまで良くしてくれるんですか。」
「お前は何も悪く無いんだろ?なら生きなきゃいけない、それだけだ。」
「えっ。」
言い終わった彼はしっしと手を振って私を部室から追い出す。
それが彼、
次の日、学校に登校する。
けど学校が近づく度に足が重くなり、息が辛くなる。
(教室に行きたくない。でも家に帰ったら親に迷惑が...)
そう思った時に思い出す、彼が鍵をくれた事を。
「行っていいのかな。」
彼は逃げていいと言った。その言葉を信じて進む足は少しだけ軽かった。
流石に朝の旧校舎には誰もおらず、部室の前まで来る事が出来た。
「お邪魔します。」
部室は昨日と変わらず、秘密基地そのものだった。
見渡すと机に紙が置かれていた。
『どうも浅上です。あんたの名前を聞くの忘れたけど、多分この先も聞かないと思うので置いときます。この部室は「文芸部」の体裁を取ってるだけの俺の部屋です。自由に寛いでください。なんなら自分の備品置いて快適にしてもいいです。エアコンなども自由に使っていいです。此処があんたの逃げ場所になることを願っています。」
紙を握り締める。ポタポタと涙が出ているのに気づくのに少しだけ時間がかかった。
「ありがとうございます。」
鞄を置いて、クッションに体を預ける。
(そういえば最近全然寝れてなかったな。)
教室に行かなくていい安心感と、初めて手を差し出してくれた人の存在の安心感が重なり、自然と瞼が落ちていった。
「寝てる。」
昼休みに部室を見に行ったら、彼女がスヤスヤと寝息を立てていた。
流石にこれで風邪も引かれたら気が引けるので、タオルを彼女にかける。
俺が部室を使う時は基本的に飯を食ったり暇を潰す時だ。顧問の先生は一応いるが、他の部活と掛け持ちの先生なので、この部室に来ない。なので自由に改造した、けどそもそも文芸部を選んだのも、学校でスマホを弄る時間を作りたかっただけだ。
持ち込んだモバイルWiFiを起動し、動画を見ながら昼ご飯を食べる。
「・・・あれ?おはようございます。」
「うん、おは。」
瞼を擦る彼女はタオルに気付き、頭を下げる。
「ありがとうございます。鍵の件もそうですし。」
「別に。お前も早く問題を解決しろよな。学校に味方いないのなら、警察行け。」
「でも親に迷惑が。」
「親から娘が死ぬ方が迷惑だろ。そこを穿き違えるな。」
彼が声を荒げて言う。もしかしたら何か嫌な事があったのかもしれない。
「だがその勇気が出るまではゆっくりすれば良い。まぁ此処に居続けると親に連絡は行くけどな。」
「分かってます。午後の授業は出ます。」
「そうか。放課後も空けてるからいつでも来るといい。じゃあ俺は戻る。」
そしてまた一人になった。
「行かなきゃ。行かなきゃ。」
そう口にしても足が動かない、彼にああ言ったが本質は変わらない。
「行けないよ....行きたくない。」
何も状況は好転しないまま私は部室を出る事なく、その日を終えた。
「浅上聞いたかあの噂。」
「噂ではしゃげるの羨ましいわ。」
「まぁまぁ聞いてくれよ。」
あの後教室に戻ったら、前の席のクラスメイトに声をかけられた。
そいつは学校中の色んな話を聞くのが趣味らしく、情報が集まってくる。
「隣のクラスのお姫様いるだろ。」
「いるな、名前は確か...」
「
「ああそういう名前だったな。」
こいつの話によると、その白雲結衣がバスケ部のエースからの告白を断ったらしい。
元々そのエースは女子生徒の人気も高く、よく告白されてたとか。
「それでバスケ部の王子様のファンがそのお姫様に悪戯してるらしくてよ。」
「女子の悪戯は洒落にならないパターンが多いと思うのだが。」
「その通り!現にエスカレートしてるみたいでな、今日なんて彼女は休んでるらしい。周りも欠席理由を知らないみたいでな、怪しさたっぷりだ。」
女子って本当に怖い生き物だなと改めて認識させられる。
「なぁ俺本当に他人の顔覚えるのが苦手なんだけど。その白雲ってどんな見た目なんだ?」
「お前マジか!?彼女はな....」
教えもらった特徴は全て部室に連れてきたあいつと一致した。まさかね〜と思いたかったが、昨日の鞄の件もある。まぁ彼女は白雲結衣なのだろう。
「どうだ?思い出しか。」
「あぁ....しっかりとな。」
これからどうしよう。
「ただいま〜。」
「お疲れ様です。」
放課後、彼は部室に来た。
「授業大丈夫だったか。」
「はい、なんとか。」
彼を心配させたくなくて嘘を吐く。心がチクッと痛んだ、でも彼を巻き込みたくないからこれで良いんだ。
(バレバレなんだよな。)
浅上はクラスメイトの話を聞いた後に、彼女のクラスに見に行った。そこに彼女の姿が無かったことから、白雲はずっと部室にいたのだろう。
彼女は隠してるようだが、顔色が悪い。心の問題なのだろうが、正直良い状況とは思えない。
(それにしてもまさか噂のお姫様だったとは。)
こればかりは俺の記憶力の無さを恨んだ。でも俺はあんな状況で無視出来る人間じゃ無かったのだ。
「ヤバい案件に首突っ込んだかもしれん。」
そうだとしても、目の前にいる彼女を見捨てることは出来なそうだ。
「入ってたこの映画面白かったです。他にもあるですか?」
「うん?これなら続編出てるぞ。今日の内に入れとくから明日見るか。」
「ありがとうございます。」
少なくとも今はそっとしとくのが最善だと浅上は考えた。
それから数日、白雲は授業を出たり欠席したりと歪な学校生活を送っていた。
教室にいるといつ何をされるか分からない。それでも耐えて授業を受けるが、ふと聞こえる笑い声だけで身体中が震えて教室に居られなくなり、部室に逃げ込む。
それの繰り返しだった。それがダメな事だと理解していても無理なものは無理だった。私はそれに乗り越えられるほど強い人じゃないのだから。
彼が私に残してくれた手紙を握り締め、今日も塞ぎ込む。
「浅上君だよね。」
「はい・・バスケ部の王子様が俺になんか用ですか?」
いつものように部室で昼飯を食おうと廊下に出たら、声をかけられた。
「いや、ここ最近白雲さんに会えなくてね。皆に彼女が何処に行ったか聞いてたら、旧校舎にある文芸部に入ってるのを見たと言ってる子がいてね。」
「はぁ...それで俺に質問しに来たと。」
「その通りだ。来週末に試合があるんだ、彼女に是非見に来て欲しいと伝え来て欲しい。ダメかな?」
噂が確かなら、彼のファンが原因で彼女は今動けなくなっている。だとするとこれを伝える事も危ない可能性がある。どうするか。
「分かりました。伝えるだけ伝えますけど、返答は期待しないでください。」
「それでも構わない。助かったよありがとう。」
礼儀正しい彼を見て、あながち王子様というあだ名も嘘では無いのだと思わされる。
まぁ周りが見えてないのは事実だが。
「さてどうするか。」
考えても仕方ない、部室に行くとしよう。
そして俺は思い知らされる。白雲結衣を傷付けている現状の恐ろしさを。
部室の前まで来ると、中から誰かの声が聞こえた。知ってる声だったが何か様子が変だ。
「おいだいじょ....何があった。」
扉を開け、中を見た。視界に飛び込んできたのはめちゃくちゃにされた部室だった。
「何があった。怪我とかしてないか。」
「私は大丈夫。でも部屋が。」
白雲は震えながらもノートパソコンを大事に抱きかかえていた。
「急に人が来て、それで、私これだけでもって。」
大方あの王子様が聞き回ってる時に、白雲をいじめている奴らの耳に入ったのだろう。そして彼女ではなく、逃げ場にしていた部室を選んだ。
「性根が腐ってやがる。だけどお前が無事で良かった。」
「でもこれ動かなくなって。」
そう言って差し出されたのは、彼女が部室にいる時だけ貸していたアイパットだった。既に画面はバキバキに割れており、ぶつけた跡も残っていた。
「守れなくて。ごめんなさい。」
「お前が無事なら結果オーライだ。まだ年間保証あるしな。」
ひとまず彼女を廊下に移動してもらう。その後に部室の全体を撮っておき、壊れたアイパットも撮る。
「ここまでやらかしたんだ...やられたらやり返してやる。」
今回の事のついでに白雲の問題も終わらせるとしよう。俺を巻き込まなければ正直無視しようと考えてたが、事が事だ。徹底的にやる。
「白雲も今日は帰った方が良いと思う。部室のことは俺の方に任せしてくれ。」
「・・・分かりました。浅上さんもお気をつけて。」
彼女が部室を出ていく。これでいい、ここからは俺の出番だ。
後日先生には老朽化で部室の床が抜けたと伝え、私物は別の空き部屋に隠すことになった。あそこの部室は使えなくなったので、別の部屋が当てられるらしい。俺しか部員が居ない文芸部だが、旧校舎は部屋が余っているようだ。
その間にやることはまず部室にやってきた人を調べる。そして白雲の机にボイスレコーダーを取り付け、証拠を手に入れること。
人に関しては直ぐに判明した。王子様によく見にくる、もしくは話しかけてくる人はいるかと聞いたら直ぐに答えてくれた。
レコーダーについては白雲に聞いたら、「それで何をするか分かりませんが大丈夫です」とのことだ。つくづく白雲は質問したり疑わない人間なのだと思った。だからいじめの対象にされ続けてるのだが。
「白雲さんはどうしてる?ここ最近ずっと休んでるみたいだけど。」
「王子様も心配性だな。彼女は大丈夫だよ。あっそうそう、試合のことは伝えはしたけど、返答は無かったよ。」
「そうか、それなら安心だ。それから伝えてくれてありがとう。」
そもそも伝えられる状況では無かったのは言えなかった。多分こいつも白雲と同じで疑わない人間だなこれ。
しかし今回の事件を解決するには少なくとも数日はかかるので、それまでは待機だ。
「机大丈夫だったか。」
「大丈夫ではなかったです。」
「すまん。」
相手もここまでやったのに学校に来る白雲にイラついてきたのか、机の落書きといった小学生が考えるような幼稚な方法で攻撃を始めていた。
しかもその時の音声は机に隠していたボイスレコーダーがバッチリ録音しており、犯人の候補も絞れている。そろそろ頃合いだろう。
「うんじゃあ俺は明日休むわ。お前はどうする?この仮の部室明日は開けられないけど。」
「そしたら私も休みます。浅上さんは何をするんですか?」
「まぁ警察に諸々届出を出すだけだけど。」
「それ一緒に行ってもいいですか。」
「構わないぞ。・・お前がいた方が色々警察側も対応しそうだしな。」
「はい。明日はよろしくお願いします。」
その時一瞬だけ、彼女が笑った気がした。
交番では無視される可能性があったので、金はかかるが電車でちゃんとした警察署に行くことにした。またお互いの合流できる場所で一番近い駅が高校の最寄りだったので、そこから一つズレた駅にした。これなら登校時間から外れた時間で集合すればまず生徒と出会うことはない。
「おはようございます。」
「ハロー。」
親には学校と言ってるので、お互い制服だ。周りの大人に通報される可能性もあるが理由が理由だ、制服の方が信憑性も増えるというもの。
「じゃあ行こうか。」
「その..手を握ってくれませんか。不安で。」
「え・・その....うぐぐ、分かったよ。但し!汗とか文句は言うなよ!!」
「分かってます。」
そう言って握ってきた彼女の手は震えていた。そりゃあそうだ、あんな事があったのに、素直に人に甘えようとしてるのだ。それは勇気を出さなきゃ出来ないことだ。
「俺に任せてくれ。」
軽い言葉かもしれないが、それぐらい言えなきゃ男ではない。
「はい!」
「悪質ですね。」
警察署に着いてから受付に聞き、被害届を出すに当たって色んな質問された。
俺だけだと自分でやった可能性が出てしまうが、白雲が一緒に来てくれたことでその可能性を消してくれた。どうして起こったのかも可能性の話だが伝え、高校の名前も伝えた。高校の名前も俺たちが制服を着て来たこと、生徒手帳で確認してくれた事で信用された。
「学校の内々で終わらせようとする人達もいます。なので直接警察に来る生徒は少ないのが現状です。これでしたら受理できますが、親御さんはいますか?一応そちらにも連絡しないといけません。お二人はあくまで両親の元で学校に行けている筈です。なので私達は伝える義務があります。」
「俺の両親に連絡してください。母親の方が在宅で仕事してるので、買い出しなど以外で間違いなく連絡が取れる筈です。」
「分かりました。後日白雲結衣さんのご両親にも連絡が行くと思います、大丈夫ですね。」
「はい...大丈夫です。」
無事に被害届は受理され、重たい空気がなんとか晴れた。
「お疲れ。」
「お疲れ様です。」
警察の方が「連絡が行く」と言ってから顔色が悪い。それだけ伝わってほしくないようだ。だがそれでは白雲はいつまでも変わらないままだ、それではダメだ。
「なぁお前の両親のどちらか家にいるのか?」
「お母さんがいます。浅上さんのお母さんと同じで在宅なんです。でも難しい仕事みたいで、いつも忙しそうにしてるんです。だから迷惑をかけたくない。」
苦虫を噛んだような表情をする彼女を見ても、俺の選択肢は一つしかなかった。
「お前の家行くぞ。」
「分かりま、えっ!?」
「逃げちゃダメだ。俺も隣にいる、だから話そう。報復が怖いか、それならまた俺がぶっ飛ばしてやる。」
今できる限りの笑顔でそう言った。
「ここです。」
彼女に案内されるまま家に着いた。
「今開けますね。」
そう言って鍵を持って玄関に立つが、彼女は立ったままだ。
「大丈夫、おい白雲!」
彼女は普通じゃないのは直ぐに気づけた。冷や汗をかいて、過呼吸になっていたのだ、気づけない方が無理がある。
「私は大丈夫。私は大丈夫。」
「落ち着け。深呼吸しろ、はい123。」
「はぁはぁ....大輝、怖い。」
「白雲、俺がいる。側にいるから。」
彼女のずっと震えている。それだけ苦しかったのか、それだけ抱え込んで生きてたのかこいつは、本当に馬鹿だ。
ついに立てなくなって彼女が崩れ落ちる、慌てて支えるがもう鍵で開けるどころのじゃない。彼女に肩を貸しながらインターホンを押す、カメラ付きだったので、声を荒げながら開けるよう頼む。
「誰かいませんか、白雲さんのお宅ですよね。頼みます!」
「・・・・・・・結衣!?」
インターホン越しで女性の声が聞こえた。どうやら届いたようだ。
「娘の事はありがとうございます。」
「いえ、家にいて本当によかったです。あっ俺は浅上大輝と言います。白雲結衣さんとは....とも・・だち?」
「友達でも彼氏でもなんでもいいです。何故娘が学校も終わってないのに帰って来たのか知りたいのです。」
ほんの少しも隠すことは許さないという気迫が伝わる。あいつの口から伝えてほしかったが、しのごの言える状況じゃない。言おう。
「俺が知る限りの事を全部お伝えします。ですが苦しいお話になることをお許しください。」
そこから包み隠さず白雲の母親に伝えた。母親は終始静かに聞いてたが、何も口にしてないのに怒りが露わになっているのが、流石の俺でも分かった。
「娘の変化に気づけなかった我々親の責任でもあります、そして支えてくれてありがとうございます。」
「俺はそんな。」
「卑下しないでください。もし何かあったら私達に伝えてほしいです、必ず力になります。それと。」
「それと?」
「娘の事をこれからもよろしくお願いします。」
「・・・はい、分かりました?」
(あれ?私寝てた。ここは、私の部屋。)
「部屋!?」
飛び起きたが、どうやら誰かが部屋まで運んでくれたらしい。
周りに浅上さんの姿が見えない、下の方から話声が聞こえたので、どうやら一階で浅上さんとお母さんが話してるようだ。
「娘の事をこれからもよろしくお願いします。」
「はい、分かりました。」
お母さん何話してるの、「これからも」ってどういうこと!?
「お母さん!」
「白雲、大丈夫だったか。」
「おはよう結衣。」
立ち上がった浅上さんをより先にお母さんが立ち上がって私の前に来た。
「お母さん?」
瞬間、頬に痛みが走った。
「えっ。」
「このバカ!なんでもっと早く言わなかったの、そんなにお母さんは頼りなかったの。お父さんのもよ、仕事なんかよりも貴方の方を優先するに決まってるでしょ。」
「お母さん....」
「浅上君から全部聞きました。結衣、お母さんは今転校も視野に入っています。あんな悪質ないじめ、いえ傷害事件を見て見ぬ振りをする学校に貴方を行かせたくない。結衣が通信制に行きたいと言うのならそれでも構いません。」
「私は。」
「だから言ったろ。娘が死ぬ方が親に迷惑ってな。」
やれやれと肩をついた彼の言葉で、ずっと止めていたものが溢れて、溢れ落ちた。
「ごめんなさいお母さん。ごめんなさい。」
ぎゅっと抱きしめ合う二人を見て、静かに外に出る。
「母さん〜ちょっと今言わないといけないことが〜。」
「このアホンダラ!!!!急に警察から連絡来たと思ったらあんた何やったの。」
「母さん話を聞いてくれ。俺は捕まらないから安心してくれ。」
「そんなこと知ってるわ!あんた白雲ちゃん?は無事なんでしょうね。」
「無事です無事です。多分後日学校と警察に呼ばれると思うのでお願い。」
「は〜一体誰に似たんだが...分かったよ。後は任せなさい。」
「ありがとう。」
電話を切り、息を吸う。
今俺に出来る事の最善をやれた筈だ、そう自負している。
「浅上さん。」
「おっ!終わったか白雲。」
「うん、ありがとう浅上さん。貴方のおかげでちゃんと話せた、ちゃんと伝えられた。」
「なら良かった。俺はもう帰るわ、どうせ明日から大忙しだしな。お前は学校に来るなよ。来るとしたら全て終わった後だ。」
「分かった。頑張ってね浅上さん。」
「あぁまたな。」
あんな涙ボロボロ流しながら笑って手を振ってくれたのなら儲けもんだ。
「よく頑張ったな白雲。」
後は任せろ。
その後は酷いものだった。
警察側が事件性があるとして学校に調査が入り、俺が提出した写真やボイスレコーダーが要因となって直ぐに犯人が見つかった。やはり王子様のファンで、警察に問い詰められた時、皆が「あいつがやれって!」と別々の人を名指ししたらしく、そこまで往生際が悪いといっそ清々しい気分だ。その生徒達は悪質だったこともあり、白雲の両親が俺とは別に被害届を出した。これで本当に終わりだろう。そして今回の事件の発見が遅れた理由でもある白雲の担任の職務怠慢も報告された。(犯人グループと如何わしい関係だったらしいが、それはまた別の話だ。)これによって解雇され、新しい先生が入ってくるらしい。少しは白雲も過ごしやすい学校生活になると思う。
学校側も教育委員会に怒られたらしく、再発防止策に取り組むことになった。これで少しは白雲と同じ目に遭う人が減るはずだ。
「一緒に登校してなんて言ってすいません。」
「いいさ。あんなことあった後だぜ、無理もない。」
全てが片付いたのはそれから一週間後のことだった。白雲自身の被害届の件はまだ終わってないが、これ以上休むと進級に響くらしく登校することになった。
「部室も新しいの貰えたし、これで一件落着。」
「良かった。アイパッドはどうなったの?」
「クソほど父親に怒られた....その上で許された。」
「良かった。」
そう言う彼女の手はもう震えていない。
「また手を繋いでくれませんか。」
「構わないけど。」
柔らかい彼女の手が触れる。そして指が絡まる。
「白雲!?」
「どうしました浅上さん。」
彼は今の状況を理解出来ないでいるが、今はそれでいい。
「一つお願いしてもいいですか。」
「言ってみろ。俺が叶えられる範囲なら許そう。」
彼女は息を整え、話し始めた。
「きっと浅上さんがあの日私の手を取ってくれなかったら、今私はいません。あの日貴方が逃げ場を用意してくれなかったら私はここにいません。きっとこの先も私は足を止めてしまうと思います。」
だから。
「この先も逃げ場が私には必要だと思ったんです。」
「そうか?それがお願いとどう繋がるんだ。」
白雲は俺の顔を覗くように顔を少し前に出し伝えた。
「浅上大輝さん、これからも貴方を私の逃げ場にしていいですか。」
「・・・・・・・そのぐらいお安い御用だ。」
「言質は頂きましたよ。」
彼女が今まで一番の笑顔を俺に向け、余計に混乱する。
「どういう....『貴方を私の逃げ場』....!?」
浅上は少し考え、沸騰するほどに顔を真っ赤にする。
「浅上さん、これからもよろしくお願いします。」
「あ、あぁよろしく白雲。」
俺にしか伝わらない告白を貰ったこそ、今は彼女の顔を見れそうにない。
「浅上さん。」
「ん?」
声をかけられ、反射的に彼女の方を向く。
「チュッ。」
彼女の唇と俺の唇が重なる。
「今回のお礼です。」
「おま・・おま・・・。」
「なんですか。」
「覚えとけよ!絶対に責任取らせるからな。」
「それは女の子が言うセリフですよ。」
「うるせえ!!!!」
白雲結衣は気づいていた、あの重かった足が今はもう軽い事を。
彼とならきっとどこまで歩いていけると。
彼女はもう逃げない。
だってもう出来たのだ。
彼女だけの逃げる場所が。
いじめられっ子の逃げ場ぐらいにはなってやる 焼鳥 @dango4423
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