闇の穴

とっぴんぱらりのぷ〜

第1話 転がれないくらいの底

 人生の失敗を“転がり落ちるように”とか表現するが、すでに転がれないくらいの底にいたらどうしたらいいのか?真っ暗な穴の底で手を延しても誰も掴んではくれない、縋る藁も差し込む光すらも見えない。


『またパチンコ負けちゃった?スロット?何打ってるの?』


「えーっと、最近はゴッ◯とかが多いです」


『随分攻めていくねー。◯斗無双とか打ちなよー。それじゃすぐお金無くなっちゃうよ?』


 電話口から聴こえる男の声は、優しく友達のように答えてくれる。オラオラしていない普通の若者といった感じだ。


『で、今月は幾ら必要なの?』


「手元に二万円くらいあると助かります。来月の給料日に合わせて融資お願いできますか?」


『はいはい、手元二万ね。じゃぁ、次の給料日に四万返済で、一万でジャンプでその後は一週間毎の返済ね。ラインに詳細送っとくから確認しておいて。口座はいつものとこでいい?』


「はい、いつもの口座にお願いします。助かります」


『オッケー。じゃぁ、前日連絡だけ忘れないようにしてね』


 毎月の事ながら少し緊張したが、無事融資を受けられることにほっと胸を撫で下ろして電話を切る。給料日まであと二週間程度だが、融資額に対し倍の返済をしなければならない。年利一五〇〇%超えの、詰まるところの闇金である。

 なぜそんな暴利の闇金から借りなければならないのか?答えは簡単で、債務整理をしていて消費者金融も銀行からも借りれないからである。

 一度目の債務整理は十年ほど前で完済して、しばらくギャンブルはやっていなかったが、たまたま買ったナンバーズが当たり、百万近くの現金を手にしてしまった。借金に塗れている人間がいつも思っているのは『まとまったお金さえあれば』だけど、実際にまとまったお金を手に入れると、もっと増やせる、もっと大きな当たりを引けると考えてしまう。毎日パチンコに通い、勝ったお金で宝くじを買い、負けても収支もつけずに『まだ大丈夫』と続けてしまう。気付けば借金生活だ。

 僕、斉藤和哉は現在四〇歳、妻と子供三人と妻の両親の七人家族で“暮らしていた”。仕事は看護師をしている。よく、『看護師だったら安定だね』とか『ボーナスも給料もかなり貰ってるでしょ』などと言われるけど、以前勤めていた田舎の福祉系企業などは、手取り二〇万も貰えず、ボーナスもなかった。実際にはそれほど貰えない事も多いし、いくら仕事が出来ても給料も変わらなければ、卒業した学校で差をつけられて昇進も見込めない。同じ看護師の資格なのに卒業校の種類で基本給が違うのだ。

 二度目の債務整理をした後に妻の両親との不仲もあって、家を飛び出して、現在は東京で暮らしている。

 

 二〇一八年。東京に来てから二年、すでに生活は成り立たなくなっていた。債務整理した後の支払いもしていないのでカードも作れず、ローンも組めない。絶賛、家賃も滞納中で、すでに電気は止まっている。


 僕はもう、詰んでいる。転落人生どころか、転落する下が見えないのだ。





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