構築される精霊
ナナシマイ
序章
プロローグ・A
その水面にはいっさいの波も立たず。
ぴんと張りつめ、ただ、人間たちの祈りを、願いを、映していた。
*
ケンウェッタ湖水地方に点在する泉の森のひとつ。
高くそびえる泉の石樹はまっすぐに太陽を向き、つねに天面から陽光を浴びる。
水晶の柱にも似たそれは、しかし恐ろしいほどの透明さで、わずかな歪みすらなく幹の中に陽光を通していた。
ぴしゃん、と。
水が跳ねる。同時に、少年の無邪気な歌声があたりに響いた。
季節の水を集めよう!
時の波を堰きとめて
ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ。
ぐるりと周って映してみたら
大きなものにも手が届く!
「
影を伸ばしていく秋の太陽へ向かって傾いた石樹のてっぺんを、少年は軽々と跳び渡る。
着地のたびに水が跳ねる。
ぴしゃん。わあん。重なる透明が、きらきらと響いた。
わあん、わあん……――
水が湧き、透明な音は増幅していく。そうして少しずつ、石樹は背丈を伸ばしていく。これまでも、これからも。
ふいに、歌声がやんだ。
「おっととと。祈りが映ってるのは、踏んじゃだめだった」
斜めになった天面、少年もまた斜めのままで静止した。
まるで石樹に足がくっついているかのように危なげなく、踏みとどまった先を覗き込む。
「わあ、ずいぶん古い儀式だ。懐かしいなあ……」
凪いだ水面。映るのは、水鏡の魔術を準備しているらしいローブ姿の男だ。
その手には、時波を漂流する灯りをぶらさげて。
ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ。
祈りの季節は巡っていく。
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