同郷のよしみで勇者パーティーにいた荷物運び、解雇されて辺境で冒険者ギルドに就職。でも実は人類最強

工程能力1.33

第1話 追放

 人と魔族が戦う世界において、一つの王国で神託があった。東方の小さな村に後に人類最強となるであろう子供が生まれたというものであった。その知らせを受けた国王は、直ちに神官をその村に派遣する。その年、その名も無き小さな村では、三人の子供が生まれていた。

 一人は「勇者」のギフトを持っている男児のカーライル。一人は「剣聖」のギフトを持っている女児のニーナ。そして、「工程設定者」のギフトを持っている男児のコアンである。

 ギフトとは、神が気まぐれで人や魔族に与える特殊能力であり、例えば勇者であれば、身体能力と魔法に優れ、魔族に対して特に能力値が上昇するというものであった。

 神官は村について子供たちのギフトを確認して困ってしまった。勇者と剣聖は過去にも例があるので理解できるが、工程設定者というギフトは長い人の歴史においても記録が無かった。

 現在世界で確認されている勇者は、赤の勇者と緑の勇者がおり、今回カーライルが青の勇者として確認されることになった。


 三人は王都で魔族の王である魔王と戦うために教育された。そして、成人すると魔王討伐の戦いに参加することになった。世界の理で勇者のパーティーは五人までと決められている。それ以上増やした場合は、勇者のギフトの効果である、魔族との戦闘に対しての能力値の上昇が無くなることがわかっていた。

 なお、パーティーの登録は神殿で行われる。神に誓いをたてるためだ。このパーティー登録で、支援魔法や回復魔法がパーティー全員に自動でかかるようになる。

 冒険者という職業もあり、彼らもパーティーを組んではいるが、こちらは神殿での登録が無いため、単なる契約でのつながりとなっている。

 なお、勇者が複数いるように、魔王も複数いる。人と魔族が戦う世界でありながら、人同士、魔族同士でも争っているのである。

 三人のパーティーは現在、東方の魔王の部下である、四天王である一人のワータイガーと戦っていた。

 勇者カーライル、剣聖ニーナ、攻撃魔法の使い手である女性ラーリット、支援魔法、回復魔法の使い手である女性アンに、雑用係のコアンであった。

 勇者と剣聖のどちらかが人類最強だろうというのは誰もが思っていたが、コアンも一応訓練を受けていた。

 しかし、その評価は低かった。剣も魔法も冒険者の最低ランクであるFランク程度までで成長がとまったのである。それでも、料理の腕がよかったり、武器の修理が出来たりと器用だったため、カーライルと一緒のパーティーとなったのであった。

 パーティーの配置はカーライルとニーナが前衛であり、後ろにラーリットとアンが、最後尾にコアンとなっている。

 目の前の真っ白なワータイガーが鋭い牙をむく。

 コアンはカーライルに指示を出した。


「カーライル、右から爪の攻撃が来るから躱して。盾で受けると体勢を崩されるから」

「わかってるって!」


 コアンの指示とほぼ同時にワータイガーの爪による攻撃がカーライルを襲う。しかし、カーライルはそれを見事に躱した。

 コアンは次にラーリットに指示を出す。


「ラーリット、ファイヤーボールを撃って」

「いちいち指示を出さないで!」


 ラーリットはコアンの指示に苛つきながらも、ファイヤーボールをワータイガーに放つ。

 ワータイガーはそれを右手で受け止めた。そこに死角が出来る。


「ニーナ!」

「任せて」


 コアンの言葉にニーナが動く。腕が上がってがら空きとなったワータイガーの右脇腹を、ニーナの剣が切り裂いた。


「グオオオオオオオオオ!!!!」


 ワータイガーが痛みに吠える。

 常人であれば、その咆哮を聞いただけで足がすくんで、身動きが取れなくなるか、気を失ってしまうようなものであるが、そこはいままで経験を積んできた勇者パーティーのメンバーである。誰一人動けなくなるようなことはなかった。


「くたばれ!」


 カーライルは気合と共に剣をワータイガーの喉に突き立てる。そして、力任せに剣を横に動かすと、真っ白だったワータイガーの毛皮が真っ赤に染まる。しばらくは四肢がぴくぴくと動いていたが、それも次第に弱々しくなり、完全に動かなくなった。

 ワータイガーの死体を見下ろして、カーライルが笑顔になる。


「やった。魔王軍四天王のヴァイスを倒したぞ」


 カーライルはパーティーメンバーの方に向き直って、そう言った。

 その後、王都に帰還して四天王を討伐したことを国王に報告する。国王は上機嫌で勇者たちを迎えた。


「流石はインタクト。今回も傷一つ負わずに、魔王軍の四天王を討伐するとは。他国の勇者とは格が違う」

「陛下、次は魔王の首をお持ちいたしましょう」


 カーライルは国王にそう約束をした。それから祝勝会が開かれ深夜まで続いたため、コアンが起きたのは翌日の昼だった。勇者パーティーに与えられた屋敷の自室で目覚めると、食事を摂るためにダイニングルームに向かった。

 ダイニングルームに入ると、既に他のメンバーがそろっていた。

 カーライルはコアンの顔を見ると、開口一番


「コアン、今日でお前はクビだ」


 と言い放った。

 突然のことに、コアンは呆けた顔になる。


「なんで?」


 と聞き返すのが精一杯だった。

 それを聞いたカーライルの顔は呆れと怒りが混じり合う。


「わからないのか?」

「うん。今まで一緒にやってきて、四天王を倒すことが出来たんじゃないか。どうしてクビになるの?」

「じゃあはっきりと言わせてもらう。お前が何もしていないからだよ」

「何もしていないってことはないんじゃないかな。荷物を持つし、武器の作成と修理もしているし、料理だって作っているよ」


 コアンはカーライルに反論する。すると、カーライルは鼻で笑った。


「そんなものは変わりがいくらでもあるってことだ。荷物運びだったらパーティーメンバーでなくともよいし、武器の修理だって鍛冶師がいればいい。お前が抜けて、戦闘が出来る奴を入れたほうが効率がいいんだよ」


 カーライルにそう言われると、コアンは反論が出来なかった。

 ニーナが間に入ってコアンをフォローする。


「私のことを一番知っているのはコアンよ。コアンが作る武器が一番しっくりくるの」

「ニーナ、これからもっと敵が強くなっていく。そんなとき、コアンを守りながら戦えると思っているのか?」

「それは…………」


 コアンをかばおうとしたニーナであったが、戦闘でのコアンのフォローを言われると、それ以上かばうことは出来なかった。

 ニーナが反論できなくなったところで、カーライルはコアンを睨んだ。


「ま、そういうわけだ。個人の荷物だけ持って出て行ってくれ」

「今まで稼いだ報酬は?」

「荷物運びの雑用係に払う報酬なんかねえよ」


 こうしてコアンは勇者パーティーを追放され、無一文になった。


 コアンは即日屋敷を追い出された。

 そして、コアンが出て行ったあとで、ニーナはラーリットに不満を述べた。


「カーライルもいきなりなんなことを言わなくてもいいじゃない。いままでだって、コアンの指示は適切だった。荷物運びや武器の修理、料理以外にも役に立っていたのに」

「ニーナはコアンの事が心配なのね」

「勿論よ」

「コアンの事好きなんでしょ?」


 ラーリットにそう言われると、ニーナは顔を真っ赤にして黙って下を向いてしまった。

 ラーリットはそんなニーナの後頭部を見ながら、計画通りだと思ってにやりと笑った。実は、ラーリットは勇者であるカーライルとの結婚を狙っていた。勇者と結婚すれば、将来が安泰だからである。

 だが、それには大きな障害があった。それは、カーライルがニーナのことを好きだということである。カーライルのその気持ちに気づいたのだが、それと同時に、そのニーナがコアンのことを好きだと気づいた。

 そこで、カーライルがコアンを追い出すように仕向けたのだ。そして、ゆくゆくは、ニーナもコアンを追って、パーティーから出て行ってもらおうという算段である。現在絶賛その仕込み中だった。


「黙っているってのは、肯定したのと同じよ。まあ、コアンも死んだわけじゃないんだし、魔王を倒してから追いかけてもいいんじゃない。今から追いかけるくらいの情熱があれば、それも応援するわよ」


 悪意100%のラーリットの言葉であるが、ニーナはそれに気づかず善意と受け取った。


「そうだよね。これから一緒に魔王軍と戦うよりも、今は待っていてもらった方が安全だものね」

「そうよ。私はニーナのこと、応援するからね」


 ラーリットの意図に気づかず、ニーナはその言葉に感謝をした。


【後書き】

元々予定していたAPQPを使うやつです。作者が別の作品を書きたくなって、順番が入れ替わりました。例によって用語解説はありません。最後までお付き合いいだけると嬉しいのですが、ストーリーは全く考えずに始まっております。(・ωく)


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