メガネっ娘と鉄道少年

与方藤士朗

一枚のキップから、もとい、一通のメールから

第1話 半世紀ぶりのメール

 2024年11月24日・日曜日。

 作家米河清治は、毎週日曜恒例の「プリキュアファイト」を行った。

 それはプリキュアというアニメを見ながらSNS上に感想を書いていくというものなのだが、その手法はなんと、裏番組である某ニュース番組のスポーツコーナーをモデルにしたものであり、プリキュアたちの活躍に 喝! か あっぱれ! を出して論評する。それに対してプリキュアたちからも本人を模した「酔っ払いさん」に対して同じように論評し返すのがお約束。ちょっと二次創作的な評論会の趣向である。

 彼は前日夜より、スマホを機内モードにして電話を一切受付しない。これは他でもなくプリキュアに集中するがための措置。そのあと30分少々の間、裏番組を見ながら、そこに登場するメガネをかけたアナウンサーのスクリーンショットを喜んで撮りまくる。一種のカメラ小僧みたいなものではあるが、別に大層なカメラなど使うことはない。単に、自分のスマホで撮影するだけである。

 これぞ名付けて「メガネおねえさまゴー」。

 そのネーミングはなんと、この年のプリキュアのある回の題を参考にしたもの。

 その「メガネおねえさまゴー」が終ったら、彼はスマホの機内モードを解除し、テレビを消す。そして、彼の一週間が始まるのである。


 この日彼は、先日完結させた小説を自己出版化すべく構成と編集に励むことにしている。外に出て飲食店に入り込んで珈琲をすすりながら構成してもいいのだが、外に出るのも面倒となれば、自宅で必死で紙とパソコンを相手に格闘する。

 そんなわけであるから、この日は朝から何も食べていない。せいぜい珈琲を飲んでいるくらいである。ほどほど仕事も進み、腹も減って来た。何なら図書館で調べものもしなければということで、メールをチェックすることに。

 メールのほとんどが迷惑メールか宣伝メール。

 ま、基本的には削除で問題はない。だが、ときに必要なメールも入って来る。

 しかしこの日に限っては、意外な人物からのメールが入っている。女性のしかも業務と関係ない個人からのメールは、普段ならこのアドレスには入って来ない。

 このメールの主はなんと、女性であった。


・・・・・・・・ ・・・・・ ・ ・・・・・・・・ ・・・・・ ・


米河清治さま


御無沙汰しています。覚えていらっしゃいますでしょうか。

岡山市立半田山小学校で2年生の時同じクラスにいた、河崎由佳と申します。

小学3年生で転校してあなたとは音信不通のままでしたが、先日ふと思い出してあなたのお名前を検索しましたところ、現在別のペンネームを用いて作家活動をされていることを知りました。

早速、ネットの小説サイトの作品を読ませていただきました。

あの頃の米河君とはずいぶん変わったなと、そんな印象を受けました。

歴史漫画か科学漫画くらいだったのが、セーラームーンやプリキュアを観ていると知り、びっくりしました。ブログも拝見しました。昔は眼鏡をかけていなかったのに、今は眼鏡をかけていらっしゃるのね。小学生の頃から眼鏡をかけていた私ですが、今は眼鏡のチェーン店に勤めています。

あのメガネがトレードマークのアナウンサーの方を好かれているのを知って、この子は(ごめんなさいね)あの頃と変わっていないな、とも思いました。

だって、私に好意を持っていたことのひとつに、メガネをかけていたことがあったような記憶があった気も。


米河さんは独身でいらっしゃるようですね。実は私も、独身のままです。もちろんいい年の大人ですから、大人の恋はなかったわけではありません。ですが今はそういうこととは無縁の毎日を過ごしています。

別にあなたを変な形で誘惑するつもりはありませんが、是非一度、お会いしてみたいです。よろしかったら、ご連絡お願いいたします。


 2024年11月24日

                       河崎由佳


・・・・・・・・ ・・・・・ ・ ・・・・・・・・ ・・・・・ ・


 ここでは略すが、彼女の住所と勤務先、それに電話番号まで書かれてある。


 う、うそでしょ!

 あの子からだ! あの、メガネをかけていた、河崎由佳ちゃん!

 ぼくにとっては、実質、初恋のあの少女。

 かわいかったなぁ~。


 そんなことを思ってどうしようかと思案投げ首、というほどのこともなく、作家氏は昼めしを兼ねて一杯飲もうと思い立ち、自転車ではなく徒歩とバスで岡山駅前に出向いた。この日は餃子のチェーン店に飛び込み、いつものようにビールを飲みながらつまみとして牛筋まんや肉まんを食べてすきっ腹を埋め合わせた。

 あとは適当なつまみを買い、バスに乗って昼過ぎには自宅に戻ってきた。

 今日の夜は、もう外に出る予定はない。

 パソコンを再び立ち上げ、メールなどをチェックする。

 何と彼女から、追加のメールが入っていた。

 それには、当時の彼女の写真と今の彼女の写真が添付されていた。

 彼女の今は、かの女性アナウンサー並の美女である。予告通り、彼女はメガネをかけている。彼女が子どもの頃かけていたセルロイドではなく、材質までは不明であるものの金属系の丸型のフレームだった。

 メールには一言、今の彼女についてこんな文が添えられていた。


 今の私がこれです。どうです? お気に召されましたか?

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