グルリットはそれほど絵画を愛したのか、それとも略奪絵画を隠し続けてきた欲深い人間か

九月ソナタ

第1話

前回、カイユボットのことを書いた時、いつもの方々のほかに、新しい方々がたくさん来てくださいました。私的にはたくさんという意味ですが、美術がお好きな方が多いのだと思いました。そのコメントで「ナチスの退廃絵画」について触れられているのを読み、そのことについてアップしてみたくなりました。

そのテーマではいくつか書いていますけれど、その中から、ひとつ。


カクヨムコンを直前にして、読む時間などがないとは思いますが、もしかして興味をもってくださる方がいるかもしれません。時間がある時に、どうぞ。


                 *


以前、「アンザーストリーズ・発見ナチス略奪絵画・執念のスクープの舞台裏」というテレビ番組を観まして、とてもおもしろいと思いました。でも、そうかな、本当のところはどうなの?というと疑問もわき上がり、もっと知りたいと思いました。

それで本などを購入して調べたところ、ああ、そういうことなのね、と思ったことなどありましたので、書いてみたいと思います。


まず、テレビのほうから。〈註はわたしの註解です〉

2012年12月、それはドイツ・フォーカスの記者トーマス・レルが、警察での雑談中に、「おもしろい話」を聞いたことから始まります。テレビの「アナザー・ストーリーズ」は三つに分かれているのですが、最初のストーリーは、記者が語るという構成になっています。


記者のトーマスがそのおもしろい話について調べていくと、ミュンヘンのアパート〈日本で言えば、マンション〉の一室から、1500もの名画が見つかり、税務局に押収されたことがわかります。その絵画というのが、ピカソ、シャガール、セザンヌ、マティス、ドガ、モネ、マネ、ゴッホなど。すごいですよね。


しかし、その絵はナチスがユダヤ人や美術館から略奪したものの、腐敗絵画〈註 ナチスは現代絵画が嫌いだった〉として焼却されたり、ナチス画商人により売りさばかれたはずのものでした。


トーマスはその部屋には、コーネリウス・グルリットという老人がたったひとりで住んでいることをつきとめます。コーネリウスは、ナチスの画商ヒルデブラント・グルリットの息子でした。戦後、ヒルデブラントはナチスから名画を守るためにやったと告白し、英雄と呼ばれた人でした。彼はドレスデンの自宅にたくさんの絵を保有していたのですが、それは戦火で全部焼失した、と言っていたのです。


しかし、実際にはそれが残っていて、その息子がそれを保有していたというのです。

トーマスとナチス関係に詳しい副編集長のマルクスはそのコーネリウスに接触しようと試みますが、その容姿さえもつかめぬまま、話を聞いてから一年後の、2013年11月に「救われた宝」というタイトルで、押収された絵画の写真とともに発表します。

それは世界中から大反響を呼び、ジャーナリストが彼のアパートを取り囲みます。そして、略奪された絵画を捜し続けてきたあるユダヤ人が、名乗りを上げます。


そういう話なのですが、

この謎の老人については、もっと知りたく思いました。また、コーネリウスがのマーケットで買い物をしているところを撮った写真が出るのですが〈註フランスの雑誌のスクープ〉、

それがなんと、とても品のいい老人だったのです。

想像とは違っていたので、驚き。


画面の中で、マルクスは言います。「彼がどれほど孤独だったか。砂糖の袋がたくさんあり、パジャマやシャツも開封されていなで積み上げられている。普通に人生を役っている人ではないことは確かだ」と。


次は本の話です。

「the Munich Zrt Hoard by Catherine Hickney」2015年刊という本に、この事件のことが詳しく書かれているらしいので、注文してみました。

それが届いたので、わくわくとして読み始めようとしたら、字が小さくて読みずらいったらない。それがこの記事を書くのに、時間がかかった理由です。

その本には、知りたかったことが、いくつも書いてありました。

アナザーストーリーでは、まずはことが発覚した時の話について。

彼がドイツとスイスの国境で、税関の人に、朝には三枚の空の封筒を見せた。しかし、夜には二枚だったので〈係員がそのことをメモに書いて残しておいた〉、もう一枚の封筒はどこかと訊いた時、彼がものすごく動揺したので、そのことから、発覚したような内容でしたね。私はそのことについて、もっと詳しく知りたいと思っていたのです。


本によりますと、こうです。

これはコーネリウス自身が後に、ヨーロッパで一番発行数の多いドイツの週刊誌「デア・シュピーゲル」のインタビューで、話したことです。

2010年の 9月22日の夜 9時頃、チューリッヒからミュンヘンに向かう急行の中で、ドイツ人の税関の検問がありました。〈註 申告なしで、10000ユーロ以上は持ち運びできない。〉

税関員からお金をいくらもっているかと訊かれた時、彼は現金はもっていないと嘘をつきました。〈註 嘘をつく必要はなかったのですが、なぜか嘘をついたのです。もしこの嘘がなければ、事件にはならなかったでしょうね。〉

しかし係員は不思議に思いました。朝にはブリーフケースに新聞やなんかと一緒にはいっていた封筒が、今は、ふたつだけ。もうひとちはどこだということで、税関員がトイレに連れていって調べたところ、ジャケットの内側に9000ユーロが見つかったのです。このお金はどうしたのだと訊かれて、彼は最初、話すことを拒否したのですが、ようやく「父親が画商で、ベルンのKornfeld画廊に絵を売った代金。自分は、今は一時的に、妹のミュンヘンのアパートに住んでいる」と答えました。それで、その夜のことは一件落着したように見えたのですが。


しかし、この報告を読んだミュンヘンの税関では、9000ユーロという額に、かえって疑いの目が向けたのでした。この額だということは、彼はこれが、規定内だということは知っている人間であるはずだ。その彼が、なぜ、大金を持ち歩いているのだろう、というのです。そして、調べてみますと、彼はドイツでは税金は払ってはいない。そして、彼はオーストリア国籍で、ザルツブルグに家があるのです。

それで、税関が考えたのは、「彼が、実は、盗難絵画のマフィアの一員なのではないか」ということでした。


そして、

2012年 2月 28日、朝の 6時、三十人の調査団が彼のミュンヘンのアパートの鍵を壊し、突入しました。

捜査理由は、「付加税金隠しの疑い」でした。

パジャマ姿のコーネリウスは部屋の角に座り、静かに見ていましたが、捜査員達が、彼が何よりも大切にしている絵画を箱に詰め始めた時、どうしてそんなことをするのかと抗議をしました。

しかし、すべての絵画は運び出され、彼は死ぬまで、二度と見ることはなかったのです。

















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