魔王を倒した。帰還前にちょっと別の惑星に行くことになった。そこは男女比があべこべで男が断然多かった。でも、女に囲まれた。

笹くれ

前編

 カズヤは日本の高校に通うごく普通の学生だった。ある日、異世界に勇者として召喚されてしまう。地球に帰還するには魔王を倒さなければならないと言われる。カズヤは家族や友人に再び会うため魔族との戦いに明け暮れる。何度も死線をさまよった末、三年後の今日、ついに魔王を討ち倒した。


 カズヤは今、天界にいる。カズヤを召喚した女神と向き合っている。早く地球に帰還したいと、そわそわしていたが、告げられた言葉は望むものではなかった。「君は地球に帰せないかな」「強くなりすぎ。魔王を単独撃破って何?」「地球に帰したら第二の魔王になる危険がある」カズヤは第二の魔王なんてならないと反論したが、女神は聞かなかった。


 女神はある提案をする。「君、私の眷属神にならない? そうしたら地球に帰還を認めよう」「眷属神なら、たとえ悪さをしても私が処罰できるからね」地球に帰還したいカズヤには選択肢がなかった。眷属神、つまり神になるには「試練」を達成しないといけないらしい。カズヤは女神のすすめられるまま、試練があるという地球とは別の惑星に行くことになった。


 カズヤは女神の転移で惑星に到着する。眼下に広がるのは雄大な海。女神によると、この惑星の99%が海で、陸地は島が数える程しかない。今いるここは最大面積の島だった。そして、カズヤの背後には、白亜の塔があった。天高くそびえ立っている。あれが試練の塔、全100階層。神になるにはあの塔の頂に辿りつく必要があった。


 カズヤが塔を眺めていると、人影が近づいてくる。だが、それは人間ではなかった。全身がメタリックカラーのアンドロイドだった。「失礼、身元不明の不審者様」「アナタの生体情報はデータベースに登録されていませン。不具合の可能性がありまス。シティズンナンバーを提示してくださイ」カズヤは迷ったが、正直に自分が別の星からの来訪者であることを語った。


 アンドロイドは目を光らせながら、「なるほド、興味深いお話でス」「いエ、疑っていませン。アナタが現れる直前、空間歪曲反応を観測しましたのデ」カズヤは信じてもらえたことにほっとする。アンドロイドにシティズンナンバーを発行してもらう。これでこの島での滞在が許可されたらしい。カズヤはさっそく試練の塔へ向かうことにする。


 が、アンドロイドがそれを待ったした。「塔にはモンスターがいまス。軽挙妄動は命がお陀仏になりまス」カズヤは心配は無用だと笑った。魔王を倒した勇者にとってモンスターなど怖くはない。「あとそれから、塔にはギミックが――」アンドロイドはまだ何か言っていたようだが、カズヤはすぐに塔を攻略してやると気合いをいれた。


 30分後、カズヤは再び海岸に戻ってきていた。両手両膝をついてうなだれている。カズヤの初挑戦の結果はというと、1階層もクリアできなかった。モンスターは弱かった。だが、ギミックがあった。通路にボタンがあって、それを押したままの状態でないと、正解のルートが開かないのだ。つまり、あの塔の攻略には必要人数が2人以上だった。


 カズヤが落ち込んでいると、頭をなでられる。さっきのアンドロイドが側で慰めてくれていた。カズヤは感謝し、改めて名前を聞いた。「ワタシに名前はありませン。型番号はF-4510Eでス」末尾をとってマルイと呼ぶことにした。ちなみに、鋼鉄製の胸はふくらみがあることから女型であった。


 カズヤが名案を思いつく。マルイに手伝ってもらえばいい。それにマルイが反論した。「塔のギミックは生命体だけに反応しまス」「あいにくワタシのボディーに血は通っていませんのデ」カズヤは残念に思うが、気を取り直し、マルイに街へ案内してもらうことにした。そこには人が多くいるらしい。仲間を探すにはうってつけだろう。


 街に着いた。建物は現代日本と代わり映えしないビルだ。だが、カズヤはその景色に違和感を覚えた。そして気づく。男だ。通行人が男ばかりなのだ。不審に思い、マルイに聞く。「本島の人口は1万人ですガ、そのうち女性は100人で、残り全てが男でス」「男女比は1:100、男だらけなのは当然の帰結でス」それを聞いたカズヤは唖然とした。


 あるビルの巨大スクリーン。そこに男たちが集まり出す。カズヤが何事かと思い見ていると、スクリーンにお姉さんが映る。アンドロイドではなく、人間だ。「只今、午後四時をお知らせします」時報、それだけだ。だが、男たちは大興奮。「うぉおおお!!!」「おっぺえ! おっぺえ!」全員が全員、目をぎらつかせて、腰を振り、竿ダッチしていた。カズヤはその光景に絶望した。


 カズヤはマルイの紹介で宿をとった。アンドロイドの受付だ。部屋に入ると、即座にベッドに倒れ伏した。もう仲間を集められる気がしなかった。この島では希少な女は特別区画に隔離されていて、男たちは女と直接触れ合う機会はない。だから画面越しでもあんなに興奮するらしい。カズヤとしては出来れば彼らとお近づきになりたくなかった。ならば、塔をどう攻略するべきか頭を悩ませていると、部屋までついてきたマルイが膝枕してくれた。メタリックなふくらはぎは固かった。


 翌日、カズヤは再び塔の前にいた。隣にはマルイもいる。「ワタシのストレートは岩をくだきまス」マルイはむんと胸を張る。ついてくる気らしい。周りには他の男たちもいる。塔前にあるクリスタルに触れると、彼らの姿が消える。攻略済みの階層までは自由にワープできるらしい。もちろん、カズヤはワープできないが。


 塔の中のモンスターを倒せば、魔石が手に入る。魔石は工業エネルギーとして利用価値があり、それがそのままこの島では金銭となっている。産業の全てがアンドロイドによってオートメーション化されているため、男たちが金を稼ぐためには塔に挑んで魔石を得るしかない。生活費だけでなく、税金もちゃんとある。カズヤもギミックの突破方法は思いつかないが、今日の宿代のため行かなければならない。


 カズヤが塔の入り口から入る。第一階層、最初の通路。そこに人影があった。全身がフルアーマーだったので、カズヤはアンドロイドだと思った。それをマルイが否定する。「生体情報を確認しましタ。個体名、アカリと判定。彼女の保護を推奨しまス」カズヤは驚いた。彼女、つまりは女だ。女は特別区画に隔離されているのではなかったか。「統括AIにアクセス――20分前、特別区画の地下通路入り口にアカリの使用履歴がありましタ」そんな報告を聞きつつ、カズヤは彼女に近づく。


 女のぶつぶつ呟く声がする。「私ならやれる、私ならやれる、私ならやれる……」カズヤが背後から声をかける。すると女は腰を抜かした。「きゃあああ!」「男! こっちにこないで!」「嫌っ、嫌ぁあああ!」ひどく怯えられたので、カズヤが困っていると、マルイが前に出てくる。「ご安心くださイ、アカリ様」「この方は本島の男ではありませン。別の星からの来訪者様でス」「証拠をご覧くださイ」マルイが指さす。女がその先を目で追った。カズヤの腰付近へ。「うそっ。女の私がいるのに竿ダッチしてないっ」それを聞いたカズヤは微妙な気分になった。


 女はフルフェイスのヘルメットをとる。アカリと名乗る。「ちゃんと話ができる男っているのね。ケダモノしかいないと思っていたわ」アカリは感心している様子だ。カズヤがなぜ彼女が塔の中にいるかを聞いたところ、「男に媚びを売るなんてもう限界!」「モンスターを倒して、自分でお金を稼いでみせるのよ!」そうアカリが強く宣言した。


 特別区画から出ない女は普段、男に対するサービス業で金銭を得るらしい。直接は会わずに、動画や生配信、ボイスチャットで男の相手をする。アカリの場合、ボイスチャットで男と会話して分単位でいくらという計算のようだ。「ほとんどハアハアと息を荒げるだけよ? 気持ち悪いったらありゃしない」アカリは腕をさする仕草をした。カズヤも街にいる男たちの様子を思い出し、それはそうだろうなと思った。


 カズヤにとってアカリの存在はありがたかった。仲間になってくれないかと尋ねると、二つ返事でオッケーされた。どうやらアカリはモンスターを一人で倒すのは怖かったらしい。アカリが仲間になったことで途中のボタンのギミックを突破でき、第二階層へ行くことができた。懸念事項はアカリが戦いの素人であることだが、その辺はカズヤがフォローするしかないだろう。アカリが疲れていたので早めに解散した。

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