Phase.005『 龍神慶歌と強者の仲間 』
龍神――
八方それぞれに表示されたホログラムディスプレイには、
[
「わぁお~ナニコレ~」
ー Phase.005『 龍神慶歌と強者の仲間 』ー
次郎・太郎と同じく、
指示を仰ぐため、燈哉が無線を通じて本部に問う。
「あの~、なんか、すっげぇRPG感溢れるメッセージウィンドウみたいなホログラム出てるんすケド……」
「完全にゲーム仕様……」
その燈哉の隣で、
燈哉は続ける。
「てか、
『えっ、は、はい』
春摩が困惑したように言うと、燈哉はやや不満げに言った。
「“はい”って……、――声くらい与えてやんないの? あんな高度なプログラムなのに対話は文字のみって、流石に不便でしょ」
すると、燈哉の意を解した春摩は慌てるようにして言った。
『あぁ! ち、違うんです! その、もちろん声は与えるつもりだったんです! ただ、声を決める段階になって、皆でいくら試作しても彼にぴったりの声が作れなくて……』
『こだわり激つよ』
春摩の言葉に本部組の
『うむうむ。声も大切な彼の一部だからなぁ。悩むのも当然だ』
すると、京香の言葉に春摩は何度も頷いた。
『そう! そうなんです……! ですから、どうしても妥協できなくて……』
『愛ですねぇ』
春摩の言葉に微笑むと、同じく本部組の
『愛ですね~』
『『愛だねぇ』』
そして、その聡に続いたのは、異能隊所属の研究員――水色の髪をショートに整えた
しかし凪は、そんな彼らとは意見が違っていた。
『え~。でも、こだわり過ぎていつまでも声もらえないのも、ちょっとなぁって思う~』
『同意見』
その場に居た
実のところ、凪の意見ももっともであると感じていた春摩は、再び落ち込んだ。
『う……』
しかし、光酉からの通信により、春摩の悲壮シーンは場面転換を迎えた。
『ちょっと~? 声の話はいいから、コッチの対応教えてちょ~だ~い』
「――コレ、どういう意味~? 展開進まなくて困ってるんだケド~」
『はっ、す、すみません!! え、ええと』
光酉ら交渉組と慶歌の間には、先ほどのメッセージが表示されたままのホログラムディスプレイが佇んでいる。
そのホログラム上のメッセージを改めて確認した春摩は、やや早口で説明する。
『お、恐らく慶歌は、
「えええ~?」
春摩が語る予想外の見解に、薬王樹光酉は困惑した。
『慶歌はいつも、僕らのような軟弱者ばかりを相手にしているので、薬王樹さんのような、まさに強者という出で立ちの方に出会えて嬉しいのではと……。――なので、薬王樹さんは、メッセージに正直に答えてあげてみてください!』
「正直にネェ……」
『はい。今は帰るのが惜しくてしぶっていますが、薬王樹さんなら、慶歌も“お父さんに言われた気分になって”、家に帰る気になってくれるかもしれません!』
「いやいや、お父さんって……。まぁ、ソレらしい歳ではありますけれどもォ」
春摩の言葉に複雑な心境になった光酉が迷っていると、京香が真剣な声色で言った。
『そうか、そうか……。――では、光酉よ。すまないが、ここはしばしヤンチャな仔龍神のお父上になってやってくれ……』
「えぇ、ちょっと隊長――」
その京香の悪戯に光酉が言葉を返そうとすると、通信を通じてベンチ待機組の燈哉が言った。
『……っ。――そうっすね。光酉パパ。頼みますわ』
非常に強い絆で結ばれた異能隊の心はいつでもひとつ。
燈哉の通信を皮切りに、その絆の強さを見せつけるかのように凪が言った。
『トリパパぁ~頑張ってぇ~』
さらに、ウラル・シャンド双子も声を揃えて絆の連携を見せつけてゆく。
『『トリパパ~』』
『ふッ……――トリ……ッ……パパ……ッ』
最後に、声の震えを抑えられなかった
「や~うるさいうるさい。分かったからもうヤメヤメ。あと、笑ってんじゃないヨ、春丞」
光酉は一気にそう言うと、溜め息を吐いた。
「――まったく」
「ふふ。龍神のパパなんてスゴいじゃない? 光酉」
「も~菜ッちゃんまでやめてくだサ~イ。――まぁいいや。とりあえず答えてやるか」
片手をひらひらと振り
「え~と、“俺が強いか”――って? あぁ、強いよ? 俺の実績、見たんでしょ? 俺の実力は、そのデータの通りだよ」
すると、慶歌は新しいメッセージを表示した。
[では、次郎と太郎も、光酉と同じくらい強いか?]
「え? 次郎と太郎?」
[あそこのベンチに座っている2人だ]
光酉が問うと、慶歌は、一見して“誰も座っていないように見える”ベンチの方向に顔を向けた。
慶歌が出現させた八方のディスプレイそれぞれには、同じメッセージが表示されるようになっていた。
そのため、次郎、太郎をはじめ、他の待機組の全員も、慶歌のメッセージを確認する事ができた。
「まぁ、バレてはいるよな」
「この程度の迷彩は、見破れるだろうからね」
次郎・太郎は、確かに自分たちを認識しているらしい龍神と視線を交わした。
光酉は、次郎・太郎が待機しているのであろうベンチを見やりながら言った。
「まぁ、あの二人も強いよ。もちろん」
すると、慶歌はさらにメッセージを転じてゆく。
[他には? 光酉には、次郎や太郎のように、強い仲間がたくさんいるか?]
「ん? まぁ、いるけど……――っていうかお前サン。俺の公開データ見たんでしょ? なら、他のメンバーについても、異能隊の公開データ見れば、俺に訊かなくても分かると思うけど」
[データで分からない事はたくさんある。たとえ、素晴らしい実績データがあっても、その功績は環境や状況、仲間のおかげで得た功績である場合もあるだろう。だから、その者の強さは、仲間からの評価や実際に視認した光景からでなければ分からない、と、慶歌は考えている]
「ハハァ。お前サン、賢いコだネェ」
光酉は感心した様子で腕を組む。
「――確かに、確かに。その考え方は、俺も間違ってないと思うよ」
光酉に褒められると、慶歌は嬉しそうに鳴いた。
[光酉にそう言ってもらえると嬉しい。ありがとう]
「いいえ~。――で? 話戻すけど。俺に、次郎や太郎と同じくらい強い仲間がたくさんいたら、どうすんの?」
[うむ。実は、慶歌は光酉に頼み事をしたいのだ]
「頼み事?」
光酉が首を傾げると、慶歌はふんと息を吐き、やんわりと頷いた。
[光酉。光酉の強い仲間を12人集めてほしい。慶歌は、光酉の強い仲間たちと戦いごっこがしたいのだ。慶歌と戦いごっこをしてくれたら、慶歌は家に帰る]
「……え?」
“戦いごっこ”という単語を目にし、光酉は慶歌の顔を見た。
その状況を受け、無線を通じて次郎が問う。
『おい、どういう事だ。攻撃性はないんじゃなかったのか』
春摩は慌てて応答した。
『も、もちろん攻撃性はありません! ただ……』
次郎はそこで敢えて黙し、春摩に続きを促した。
『――その、慶歌も一応は男の子なので、“戦い”というモノには憧れていたみたいなんです……。なので、ラボでも慶歌が望んだ際には、バトルシミュレーションのようなものを度々実行していて……』
その春摩の回答に、次郎の隣で太郎が言った。
「まぁ男の子だもんねぇ。仕方ないない」
また、太郎の声など聞こえていないはずの春丞も、太郎に続くようなタイミングで言った。
「強いもんには憧れるもんなぁ……」
そして、春摩の回答を受けた光酉は、
「イヤイヤ。だからって俺らと戦わなくてもサァ」
と言って頭を掻いた。
すると、慶歌は首を傾げ、鳴き声の末尾に疑問符を付けたようなアクセントでクルルル――と鳴き、メッセージを転じた。
[光酉は戦わなくて良いぞ?]
「え?」
メッセージを見た光酉は、やや目を見開くようにして慶歌を見た。
慶歌はメッセージを転じる。
[
「あら、優し」
慶歌の気配りに光酉が感心していると、再び無線を通じて次郎が言った。
『――って事は、つまり』
『俺とじろちゃんと、あと十人か』
次郎の意を引き継ぎ、太郎が言うと、燈哉・春丞、
『なるほど~?――じゃあ、あとは俺と?』
『燈哉が出るなら俺もだな~』
『それじゃ。人数もまだ足りねぇし、俺らもだな』
『分かった』
さらに、
『俺も俺も~! 俺も出る~!』
『――となると、俺もか。面倒だが仕方ねぇな』
そんな彼らに続き、本部組の聡・淳が言った。
「僕は、彼の云う“強い仲間”ではないけれど、――久々に体を動かそうかなぁ。慶歌君にも興味があるし」
「聡さんが出るなら俺も行く」
次いで、凪が自身の護衛を務める双子――ウラル・シャンドに尋ねる。
「二人は?」
「「面白そうだし行ってくる」」
「わお。息ぴったり」
「ふふ。気をつけてね」
双子が護衛するもう一人のバディ――研究員の美子がそう言うと、ウラル・シャンドは同時にこくこくと頷いた。
そこで、人数を数えていたらしい燈哉が言った。
『あ、これで十二人だけど、
すると、本部側で静観していた瑩は穏やかに笑った。
「あはは、お気になさらず。僕たちは皆の勇姿を見学させてもらうよ」
そんな瑩に続き、バディの
「そういう事で」
瑩・雪の応答を受けると、燈哉は次いで京香に言った。
『――じゃあ、隊長。これで人数は揃ったわけっスけど……』
「うむ! では早速、戦いごっこを始めよう!――と、言いたいところだが……、市街で戦いごっこをするのは頂けんからな。――龍神との戦いごっこは、こちらの地下訓練場で行うのが良いだろう」
『確かに。あそこなら広くて動きやすいですからね。――了解です』
そうして燈哉が通信を終えると、京香は次いで春摩に尋ねる。
「――地下訓練場は、この本部内でも比較的広く大きな訓練場だ。市民に迷惑がかかる事もないゆえ、心置きなく戦いごっこが可能だろうが。――春摩博士はそれで構わないかな?」
「は、はい! 大丈夫、ですが……あの……」
「ん? 何か問題が?」
京香は首を傾げる。
春摩は、不安げな面持ちで言った。
「あぁいえ、その、もちろん慶歌も殺し合いをする気はないてすが……、――ただ、慶歌の戦いごっこは、人間からすれば実戦に近い本格的なシミュレーション訓練のようなものです。――ですので……万が一、皆さんが怪我をするような事があったらと……」
「おぉ。なるほど、なるほど。そういう事であったか」
「は、はい。ですから……いくら慶歌の頼みと言っても、無理にとは――」
春摩が言うと、京香は笑った。
「ははは。ご心配頂き感謝する。だが、案ずるな春摩博士。――博士の御子息の“見る目”は確かだ」
「え?」
春摩が不思議そうにすると、京香は両手を腰に当て、自信に満ちた笑みを浮かべて言った。
「博士の御子息同様。我が隊の家族たちも、大いに賢く、大いに、――強いのだ」
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