そこに愛はあるんか

「めっちゃ会いたかった」


そう言って私を抱きしめる彼との関係はもう1年以上になる。


彼は私に会いたかったんじゃない。

ただセックスがしたかっただけ。


「あー気持ちいい…マジ最高…」


彼と私のカラダの相性は抜群。


こんな関係をダラダラと続けていくうちにお互い何考えてるのかとか体調とかわかるようになっちゃって。


あ、今は私だけなんだな、とか。

あ、今は私以外にもいるな、とか。

そんな余計な事までわかってしまう。


そして今日、会ってわかった事がある。


今、彼には私以外にも女がいる、と。


いつもより激しいセックスをした夜の後、迎えたいつもより穏やかな朝。


「おはよ」


柔らかな笑顔を見せながら私にキスをする彼を抱きしめながら思った。


この笑顔を見るのも今日が最後になると。


ホテルを出てカフェに寄った別れ際。


「あのさ…、終わりにしよ?もう。俺たちのこの関係」


まさかこんなにきちんと改めて言われると思わなかった。


「え、やめてよ。そんなのわざわざ言わなくていいから。フェードアウトしてくれればいいのに」


「あはは。ごめん」


困ったように笑う彼。

ちゃんとケジメをつけてくれるだけいいか。

フラれたみたいでちょっとシャクだけど。


「もう連絡してこないでね」


最後に少しだけ強がってみたりして。


「しちゃったらごめん」


そう言って彼は私を抱きしめた。


「…ずっと好きだった」


耳元でそう囁いた彼はチュッと短いキスをした。


「ありがとう。またね」



もう会う気なんかないくせに。

好きだなんて今まで1回も言ってくれなかったくせに。


最後の最後に言うなんて。


そこに愛なんてなかった。

愛なんてなくてもよかった。

愛なんてなければ終わらないと思ってたから。


どんなに激しいセックスよりも、どんなに濃厚なキスよりも、最後にしてくれた短いキスがいつまでも私の中に残って離れない。

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