魔法雑貨店
トクメイ太郎
夢を叶える指輪
俺は毎日職場と家を往復するとてつもなく退屈な日々を送っていた。
そんなある日の出来事。
自転車での帰宅途中、俺はとある雑貨店を見つける。
雑貨店は黄色いテントに古びた木造の小屋のような形だった。
「何だろう? こんな所に店なんかあったか?」
最初は疑問に思ったが、ドアが開いていたのでなんとなく興味本位で店に入る事にする。
店に入ると、暗い雰囲気で埃のかぶった商品がたくさん置かれて、今にも閉店しそうな感じだった。
店に入り、商品を眺めていると、店の奥から背の低い可愛らしいツインテールの少女が出てきた。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
優しい声で声をかけられて、おどおどする。
「えっと、その」
「そんなに堅くならないで大丈夫ですよ。気軽にしてください」
そんな事を言われると余計緊張するが、勇気を出して少女に聞く。
「えっと、その、ここは雑貨店で間違いないですよね」
「はい、この通りしがない雑貨店です」
ニコニコしながら答えてくれた少女に、また質問をする。
「雑貨店か。どんなもの売ってるの?みた感じ古そうな感じだけど」
「古いとは失礼ですね。これなんかは夢を叶える指輪って言ってですね」
少女の近くの棚にあった指輪見せつけてきたが、普通の古い安物の指輪にしか見えない。
「夢を叶える? なんだそれ。そんな指輪あったら欲しいものだぜ」
あきれたもの言いで俺は店を出ようとしたが、開いていたドアが閉まっていて店から出ることができない。
少女は、そんな俺を無視して笑顔で後ろのレジ前から声をかけてくる。
「どうですか? あなたも魔法具買いませんか?」
少女のその言葉は、嘘をついている様には見えない。
かといって少女の言葉を信じている訳ではない。
だが、どことなく買わないとここから出してもらえない。
そんな気がして、結局指輪の魔法具を買うことにする。
「お買い上げありがとうございます!」
うれしそうな顔をする少女を見て、なんとなくほっこりしてしまう。
魔法具を買うと、少女から注意事項を聞く。
「いいですか。使いすぎには要注意です」
こうして、店を後にした。
家に帰ると、指輪を信用していなかったが、なんとなくもう1人の自分がほしいと願いながら寝たのだが。
「早く起きろ。仕事に遅れるぞ」
一人暮らしの部屋のはずが、誰かの声が聞こえる。
ふと目を覚めると、目の前には自分そっくりの人がいた。
思わず目を疑い問い詰める。
「お前は誰だ。」
「俺は宗一郎だ。」
「俺が宗一郎だ。訳かわからないことを言うな。」
文句を言い合う時間もなく、急いでオリジナルの俺は仕事に出かけようとすると、ふとあることを思いつく。
「俺が行かなくてもいいじゃん。ってことでお前が仕事に行け」
「嫌だよ。お前がオリジナルだろ」
反論が自分の思いつきそうな答えとそっくりで妙にコピーだと納得してしまう。
そして、反論してきた答えに提案をする。
「じゃあ、じゃんけんで行く方を決めよう。これでお互い様だろ」
結局この日はオリジナルの俺が負けて仕事に行く事になった。
仕事の途中、魔法具を家に忘れたことを思い出す。
何もないだろう。
そう信じていた。
家に帰ると、自分がまた1人増えていた。
「どういうことだ。」
「コンビニに、お茶買いに行くのがめんどうだったからコピー作った」
ゲームをしながらコピーがオリジナルの俺に堂々と言ってくるが、多分自分もそうしただろうと妙に納得してしまう。
次の日、朝起きると、今度は3人でじゃんけんをして、仕事、遊び、ぱしりを誰がするか決めることになった。
オリジナルの俺は遊び担当になったのだが、久々の休日で何をしていいかわからない。
結局俺はぱしりの俺を使って格ゲーで対戦しようということにする。
「おい、その技はきたねえぞ。」
「はい、俺の勝ち~。俺が勝ったからなんかかってこいよ」
「しゃーねえな。今回だけだぞ」
相手は俺なのに格ゲーで負けて罰ゲームでぱしりにコンビニで買い物するようにぱしりにされて、家に帰ってきて驚いた。
金属アレルギーだったため、指輪を少し放している隙にぱしりの俺が、待っている時間、暇で対戦相手ほしさにまた指輪を使ったのだ。
これで俺は四人になった。
次の日、仕事中にパソコン作業をしてると、ふと手がけいれんする。
「まあ気のせいか」
そんな軽い気持ちで仕事を進めていると、今度は心臓の心拍数が早くなるのを感じ、息苦しくなる。
顔が真っ青になっていたらしく、この日は職場の上司に言われて会社を早退した。
家に帰ると、三人の俺がおとなしくゲームをして白熱していた。
三人の興奮するタイミングで、なぜか心臓の心拍数が早くなるのを感じた。
「まさかな」
この時の俺はまだ気づいていなかった。
数が増えるほど、オリジナルの体に負担がかかるという事に。
寝て起きると次の日の朝になっていた。
コピーの三人は元気にしていたが、オリジナルの俺はなかなか起き上がることができない。
それどころか、手足が全く動かせなくなっていた。
「早く起きろよ」
コピーAが声をかけてきたが、オリジナルの俺は起き上がるので必死だった。
頑張って力を出して必死に起き上がろうとするが、起き上がれない。
話しかけてきたコピーAにオリジナルの俺が提案する。
「俺さ、手と足がうごけないんだ。今日は俺抜きでじゃんけんしてくれ」
嫌そうにコピーAが仕切って今日のじゃんけんを始める。
結局コピーAが仕事に行くことになったみたいだった。
次の日、朝起きると今度は、目が見えなくなっていた。
「真っ暗だ」
そんな当たり前な言葉しか出てこない。
目が見えないせいでコピーの3人が誰が誰だかもわからない。
俺は完全に寝たきりになった。
最初は心配してくれていたが、徐々に個々で自我も芽生え始めて、オリジナルの俺は無視されるようになっていった。
そして、指輪も奪われて勝手に使われるようになって、毎日心拍数がどんどん上がっていき、俺はとうとう意識を失い死んだ。死んだ後コピー達がどうなったかは不明だが。
◇
「やっと死んだ。でも今回の魂は美味しくないね。だって根がわがままなんだもん」
文句をいいながら、雑貨屋の少女は宗一郎の魂を文句を言いながら食らい尽くすのだった。
魔法雑貨店 トクメイ太郎 @tokumeitarou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。魔法雑貨店の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます