青春獲得ユニバーシティ日記

プロ弱者マナセ

第1話 青春の夜明け 弱者の下剋上

 小中高の12年間で積み上げてきたものは恥、羞、辱であった。

 文化祭や体育祭ではトイレに篭り時間を潰し、クラスメイトからはアイツは言葉が喋れないのかと終始気味悪がられ、私の青春はズタボロだった。


 幼き日に見ていた青春ギャグコメディアニメみたいな、キララキラな学生生活を送ることを切望してきたのに、そんなものはなかった。私に好意を向けてくるヒロインは登場しなかった。(今思えば、何もせずとも登場すると思っていた私が馬鹿だった。)

 もしくは私に女の幼馴染がいさえすれば全ては異なっていたけど。運命全てが私を主人公として認めていなかった。


 ……いや、本当にそうなのだろうか。これまでの完膚なきまでの敗走はこれからの大学生活の布石であり、むしろドラマティックさをより一層際立たせるためのものである可能性はあった。

 後ろを向いてはいられない。私は失ったもの全てを取り戻す。下剋上する。恋人を作り青春をすることによって。


 しかしこれは最終チャンスであった。なぜなら、社会人になってしまったら、仮にモテたとしてもそれはステータスを好きになられることのような、純粋な価値を帯びないような気がするから。

 あと、私は結婚をしたくない。20後半や30になって彼女ができたとしても、それは恋愛はこれまでやってきたということが前提で、当然結婚を視野に入れて、みたいなそんな感じがするし、とにかく私は青春が良かった。学生のうちに恋人ができないと何もかも終わりな気がした。だから頑張ろうと思う。何が何でも彼女を作る。



 2021年4月、私は大学生になった。

 高校2年頃から大学のキャンパスライフに夢を託してきた。そのために勉強してきた。いざ行かん。過去の己を裏切らないために。

 4月1日。就学手続きで同じ学部学科の人たちが一堂に会する日。私は張り切っていた。

ここで出会いを掴みに行かなくてどうするのか。


 鏡を見ると私はイケメンだった。明らかに、高校時代と比べると見違えるレベルなのだから。

 大学デビューの一環として二重埋没整形をして髪は流行っているらしいセンターパートにし、服もしっかりとしたものを買ったのだ。


「大丈夫。マナセくん、とってもかっこいいよ! こんな人に話しかけられたらもう、ドキドキだよっ」


 あぁ、そうだよな。

 会話のシミュレーションもした。シークレットシューズも履いて玄関を出た私の身長はもはや170cmだった。

 逃げちゃダメだ。大丈夫、人間万事塞翁が馬。幾重にも辛酸を舐め、七難八苦を超え、艱難辛苦の果て、満願成就に至る!

 己を鼓舞している間に電車は白山に到着した。


 指定された教室付近に着くと既に新入生と思しきホモサピエンス共がたくさんいた。

 私は近くにいた女の子に声をかけようとしたが、やはりやめておいた。

 論理的に考えてこの静寂の中でそのような行動はあまりにも、目立ちすぎる。


「いややれよ、人の目なんて気にするな。そのくらいもできないようなら何も変わらねえぞ」


「いや、しかし……」


 急かすもう一人の私を私はこう説得した。


「大丈夫、絶対に好機は逃さない。必ず声はかける」


 就学手続きは本当にすぐ終わった。そして各々が教室を出て行く。

 心臓がばくばくした。

 大学を抜けてすぐのところで、私はようやく少し前を歩いていた女の子に声をかけた。


「あの、〇〇科の方ですよね?」


女の子は首肯する。


「いやぁ、僕も、そうなんですよねぇ。えっと、どこ住みですか?」


「千葉ですよ」


 そんなこんなで、その後も無難に会話のラリーが成立していた。

 この私が、普通に女の子と会話できてる! これいけるのでは?

 有頂天ここに極まっていた。


「ちょっと、ここら辺にカフェあるんで、行きませんか?」


 ……しかし私のこの提案はやんわりと断られた。

 ついでにLINEの交換もインスタの交換も断られた。私の大学生活はあまり幸先が良くなさそうであった。


「落ち込まなくていいよ。マナセくん春休みもプロのナンパ師の方のナンパ講習受けたりして色々頑張ってたよ。頑張ってる君、すっごく輝いてるよ!」


 私の脳内ガールフレンド(仮)は、私をいつも励ましてくれる。

 というわけで私は懲りずにTwitterで同大学の女の子たちとの接点を求めた。

 メッセージがしっかりと帰ってくるたびに心がほんわかした。

 しかし結局数人とのメールでのやり取りも身を結ぶことはなかった。

 それは私のコミュ力不足だということは言うまでもない。


 彼女がほしい。彼女でなくとも女友達でもなんでも、青春っぽいことがしたい。

 一緒にお祭りに行ったりピクニックしたり水族館に行きたい。観覧車に乗って、触れ合う身体、距離感にときめいて。

 一緒に学校の授業受けたり、他愛のない話に花を咲かせたい。

 女の子からの寵愛を受けるために私は今までに沢山の努力をしてきたが、それが報われることは一度もなかった。


 彼女できたことある人間=強者、人生における絶対的成功者。

 彼女できたことない人間=弱者、持たざる者。

 これは誰もが納得する普遍の真理であろう。(もし反論があればいつでもメッセージを送ってくれて構わない。)


 認知の歪み、フォーカシング・イリュージョンであるともっともらしく言うことはできても、事実として、魅力のある人間や成功者にのみ女性は寵愛を与えるのであり、女性とは正確な選別者、濾過用紙だと言える。

 しかし、成功や優秀さが必ずしも幸福につながるとは限らない。その点で、弱者であっても身の程を知り幸福に生きている人間の方が、欲に溺れ苦悩し生きる強者よりも、ある意味では強者性が高いのではないか、という意見には私も同意する。


 だがしかし、それはなかなかに難しいことのように思えた。

 私は、男女で楽しそうに話している人を見かけると悔しくて憎くて堪らないんだ。それを抑えようとすれば、余計に溢れてくるのだった。

 私は認知の治療、すなわち自己受容をしていきつつも、それが達成される保証はない以上この恋愛ゲーム、青春ゲームを降りれない。そして私には、その方が楽だと感じるから。


 たった一度でいい。短期間でもいい。私に彼女ができたなら、この歪な世界全てが塗り替えられるから。信じる。

 我こそは青春コンプ男也。

 青春男の枕詞は電波女であるならば、青春コンプ男の枕詞は?


ーーー


小中高12年間での負債 −1000p

初日から話しかけるも女の子と仲良くなるの失敗 −5p

けど女の子と会話できた。成長を実感 +3p


青春ポイント −1002p

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