第23話:心配してくれるハルル

【◆ゲーム世界side◆】


 さっきの手紙には、筆跡をごまかすような字でこう書いてあった。


『レナに近づくな。レナの大ファンより』


 手紙の主と、俺を露出狂に仕立て上げようとした犯人は同一人物の可能性が高い気がする。

 クラスメイトやレナに俺が変態だという悪印象を与えて、俺とレナを引き離そうという作戦か。


 もしそうならこれ以上大げさにしてレナを心配させるよりも、この場は流しておいた方がいいな。


「そっか。じゃあきっと、俺のいい加減さを嫌ってる者の仕業だな。今までの言動を考えたら仕方ない。今後は気を付けるよ。今はこれくらいにしておこう」

「いいのですか?」


 修復魔法というのがある。だけど高度なその魔法を使いこなせる者は、今この教室にはいない。

 裁縫用具を常備している救護室に行って、ボタンを縫い付けてもらおう。


「ああ。だってボタンを付けに行かなきゃ、またパンツ丸見えになっちゃうし」

「ぱ、パンツ丸見え……」


 レナが両手で頬を押さえて、トマトのように真っ赤になった。

 しまった。乙女の前で言うセリフじゃなった。


 せっかく変態の汚名を晴らしてくれたレナに『やっぱこいつ変態じゃん』って思われることを言ってしまうなんて、俺の馬鹿馬鹿!


***


 クラスのみんなで、ペア同士で向かい合って席に着き、作戦会議が始まった。

 俺も救護室から戻って、レナと打ち合わせをした。


 今回の実戦授業は、ダンジョンの第1階層を決められたルートで回り、魔物を実際に倒し、帰ってくる。その間何体の魔物を倒したかで成績が付けられる。


 そういうルールだ。


 ──と言っても俺の魔法能力はザコだ。


 魔力は弱く、使える魔法も少なく、技術も普通。だけどレナは最近魔力がとても成長している。だから普通にやったらトップクラスの成績でミッションクリアできるはずだ。


「じゃあツアイト君は防御魔法や回復魔法を担当していただいて、私が攻撃メインということでいいでしょうか」

「うん、そうしよう。最近レナは魔力がすごく成長してるから、余裕でしょ」

「でも驕りは危険を招きますよ。だから慎重にいかないとダメです」


 キリリとした顔で怒られた。

 ごもっともです。調子に乗り過ぎました。


「はい」

「あ、そんなにしゅんとしないでください。ごめんなさい。私、つい厳しことを言ってしまってダメですね」

「そんなことないよ。気を引き締めてくれてありがとう」

「そう言ってくれたらよかったです。ホントは私、ツアイト君には優しくしたいし、優しい子だって思ってもらいたいのですよ」

「え?」

「いえ。恥ずかしいことを言ってしまいました。忘れてください」


 そう言われても、凛としたレナがそんな可愛いことを言うなんて、忘れられないよ。


 でもまあ実際にはレナとペアのおかげで、魔物退治の実戦を始めてする不安がなくなった。

 ありがたい。


***


 その日の放課後。

 俺は現実世界に戻らずに、魔物退治実戦授業までこのゲーム世界で過ごすことにした。


 だって面白そうなんだもん。


 魔物退治なんて普通は一生体験できない。

 キント先生の説明を聞くと、この授業で対峙するのは超ザコ魔物だけで絶対に安全だって話だし、さらに俺のペアは今や学年一の魔力を持つレナだ。


 危険はないだろうし、彼女が実際に魔物を倒すカッコいい姿をぜひ見てみたい。


 現実世界に戻ってしまうと、その時点からほとんど時間が経過しない。

 つまりこの世界で4日後を迎えようとすると、4日間ここで過ごすしかないんだ。


 だから授業が終わった後、校舎裏の祠には向かわずに帰宅の途に就いた。


「ねえユーマ君っ!」


 校舎から出て校門に向かって歩いていると、突然銀髪の美少女から声をかけられた。

 小柄で巨乳が目に嬉しいハルル・シャッテンだ。


 いや、俺はいったい何を言ってるのか。

 嫌われキャラの俺に分け隔てなく声をかけてくれるなんて、ここ最近のレナ以外にはこのハルルだけなのだ。

 なのに巨乳が目に嬉しいなんて、失礼なことを考えてはいけない。


「今日はみんなの前であんなことになっちゃって、大変だったね」


 教室でズボンがずれ落ちたことを心配してくれてるのか。

 マジでいい人だよな、ハルル・シャッテン。


「誰かが魔法でボタンを飛ばしちゃったんだって?」

「レナの見立てではそうみたいだね」

「誰が犯人かわかったの?」

「いや、全然」

「そっか。じゃあ犯人を捜し出さないといけないね」

「もういいよ。犯人捜しをする気はない」

「なぜ?」


 不思議そうに首を傾げる仕草が可愛い。さすが学年一の美少女だ。


「俺を快く思っていない者も多いだろうし、犯人を見つけるなんて至難の業だ。単なるいたずらだろうし、放っておくよ」

「ん~なるほどね。それがいいかもね」


 そう。大げさにしてレナに心配をかけるよりも、様子を見る方がいい。


「でもユーマ君。それならダンジョンの実戦授業は欠席した方がいいかもね」

「なんで?」

「だってキミを陥れようとする者が、もしも実戦授業中に何か仕掛けてきたら危険が危なくない?」

「あ、そっか」


 でもキント先生の説明で特に危険はないって話だし、大丈夫だろう。

 それにペア相手が欠席した場合、もう一人は単独では授業に参加できないらしいからレナに迷惑をかける。


「心配してくれてありがとう。でも俺は実戦授業には参加するよ」

「……そう」


 いつも明るく笑顔を絶やさないハルルが、珍しく真剣な顔をしている。

 それだけ俺のことを心配してくれてるのか。

 可愛いだけじゃなくて、ホントに性格もいい人だな。

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